5.ワインの夜
「今日は赤ワインでーす。ビールも飽きたしね~」
ワイングラスなんて洒落たものはなく、普通のコップに注いで飲んでいる。
月(るな)
「最近ワインも飲まれるんですね」
Kiki
「私はロゼが好きー」
とりちぃ
「白も美味しいのあるよ!」
呑兵衛@酒に呑まれる全ての人に愛を
「アルコールはなんだって美味しいよねぇ~」
いつものメンツ、いつもの配信。紺野のことがあったが、配信で彼女の存在を言っている訳じゃなし、言えるはずもなく、なるべく普段通りのテンションを心がけていた。
「ワインは酔い方違うわ~。ビールだったら慣れてるんだけどな~。やっぱりワインにはチーズ? 俺、買ってくるの忘れちゃったわ~」
すかさず飛んでくるツマミのブースト。この流れにも慣れたもんだった。
「おー! みんな優しいなぁ」
ラッキー煎餅
「ようw 彼女にフラれた気分はどうだ?w ん?www」
あいつだ。ワインをむせそうになったが、ぐっと堪える。
「お~、ラッキー煎餅久しぶりじゃん。いやぁ、あんたのおかげで俺、FORKで1位になれたよ。まじ感謝だわ~」
コメントは無視して嫌味たっぷりに返事をしてみる。さて、どう出るか。
ラッキー煎餅
「彼女、だいぶメンタルやられてたよ~www でもビンタしてやったって報告が来て、もうスッキリしたみたいw それで、フラれた側の心境を教えて欲しいんだけどwww」
「今日は嘘をでっち上げに来たわけ? この前のは本当のことだったから、リスナーにも素直になったけど、俺が彼女いないのなんてここのリスナーならよく知ってるしなぁ」
月(るな)
「只野さんから彼女ができたって話は聞いてないですね」
麗華
「できるとしたら、あのコンビニの子かなぁ?」
ななか
「私はただのんを信じるもん」
ふーみん
「あたしのただのんに適当なこと言わないで」
ラッキー煎餅
「おうおうw 言ってないのかよwww そりゃ言える訳ねーよなぁ、金ヅルと遊べる女を失うかもしれないもんなwww」
「あんまりなこと言うとブロックするからな。大人しくしとけよ」
適当にいなしておけば、あとはリスナーが庇ってくれるはずだ。平常心、平常心。
ラッキー煎餅
「あんな惨めったらしい別れの後だって言うのに、随分元気じゃないのw てっきりフラれたショックで、ヤケ酒飲んでると思ったのによぉw」
ガタン。
「わっ」
無意識に左頬を触ろうと、上げた腕にワインの入ったコップが引っかかった。
「ちょ、拭くもの拭くもの! もう酔ったんかな、ワインこぼしちゃったよ」
おどけて話題が変わるよう願って話す。もう放っておいてくれ。
月(るな)
「大丈夫ですか?」
ぴよち
「シミになっちゃうから気をつけて・ネ」
ラッキー煎餅
「動揺してんじゃんwww せっかくできた彼女だったのに勿体ないねぇwww」
「あーやべ、シミになりそう」
あいつの話は見なかったことにして、机の上やズボンの裾、カーペットを拭き取っていく。冷静になれ、俺。もうこいつの話に乗ったらだめだ。
ラッキー煎餅
「口先ばっかりで、仕事もできない根暗な陰キャのクセに、勘違いしてんじゃねえよ。1位獲ったからってリアルでも上手く行くと思った? FORKの女食いまくったから、リアルの女もすぐ手に入ると思った? 調子に乗っててキモイんだよ。随分お花畑な野郎だな」
その言い方に腹が立って、ワインのボトルに直接口をつけて大きく飲み込んだ。
「ラッキー煎餅ってさぁ、うちの会社の派遣だろ? 名前は言わないでおいてやるけど、何? 正社員の俺への当てつけ?」
黒夜/低音系ボイス
「うはw これは大荒れの予感www」
麗華
「気にすることないですよ。ブロックしちゃいましょ」
月(るな)
「ただの僻みですよね。醜い」
とりちぃ
「派遣は派遣で大変なんだよなぁ~」
ラッキー煎餅
「いやぁ、滑稽だろ?www たいしたことない男が、たかだかゴミクソアプリでチヤホヤされてw 豚もおだてりゃ木に登るとはよく言ったもんだwww」
「派遣のくせにデカい顔しすぎなんだよ。どうせ使い捨ての駒のくせに。ちょっと顔が良いからってお前こそなんでも手に入ると思うなよ」
ここには俺の味方がたくさんいる。大丈夫。大丈夫だ。俺は愛されている。
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