10.リアル女の子
PM7:00。待ち合わせ場所で、俺は待っていた。最寄駅から2つほど離れた駅を指定して、いそいそと来たのだ。「アヤメ」という子を待っているわけだが、果たして来るのだろうか。アイコンは本人らしき写真だったが、本当に本人だろうか。ただデートをするわけじゃないことは分かっている。だけど、もし拒まれたら?
不安がとめどなく胸に溢れて来る。こんな約束するんじゃなかったと、後悔で押し潰されそうだ。たかが1位になったくらいで、そんなに変わるものかと、説教してくるもう一人の自分の声が大きくなる。
だが、まだ約束の時間じゃない。時間まで待って、来なかったら適当に買い物して、高いものでも食べてそれで帰ればいい。
「ただのん、ですか?」
グレーのニット帽をかぶった女の子が、声をかけてきた。
「あ、はい。アヤメ…さん?」
アイコンより可愛かった。色白の肌が夜に浮かんでちょっと艶めかしい。その頬を隠すように揺れる焦げ茶色の髪色がよく似合っていた。
「アヤメでいいですよ~。1位のただのんとデートできるなんて思ってなかったから嬉しいです」
にっこり微笑む顔に俺は撃ち抜かれていた。女の子に笑いかけられるなんて、いつぶりだ? こんな俺でもモテ期って来るんだな。
「じゃ、行こうか」
スマートに、スマートに。事前にスマホで調べた、駅ビルに入っているお高めのバルに連れだって向かった。
「わぁ! ここ高いところじゃないですか~。こんなところに連れて来てもらえるなんて嬉しいな」
「たいしたことないよ」
そう言いつつ、内心はほくそ笑んでいた。口座の残高を思い出し、この程度ならあと何回女の子連れて来れるかな、と計算してしまう。
「これとこれ、あとこれと、それに合うワインを」
「かしこまりました」
適当に目に入った金額の高いメニューを指差し、オーダーした。
「ただのんはワインも詳しいの?」
「ん、まぁ。今は勉強中かな」
「なんかカッコイイね」
そんなことはない。普段安いビールしか知らない俺に、ワインの良し悪しなんて分からない。だけど、こういうところに来てビールを飲むのも格好がつかないから仕方なくだ。
「みんなのおかげで1位になれて俺は今めっちゃ幸せだよ。1位になったから、こうしてアヤメにも会えたんだしね」
「ただのんは1位になると思ってたよ! だって話面白いもん」
配信と同じように、俺のことを全て受け入れ肯定してくれる。俺が努力してきたことを全部理解してくれているんだと分かって、すごく嬉しくなった。
「じゃ、乾杯」
「1位おめでとう。今日は楽しもうね」
カチンと静かな音を立てて、ワイングラスが触れ合う。グラスの中で揺れる血液のような赤が、俺を誘惑してくる。嗅ぎなれないブドウの匂いが鼻をくすぐる。
「美味しい! こんな美味しいワイン初めて飲んだよ」
「そう? まぁ、こんなもんかな」
渋い。何が美味いのか、俺にはサッパリ分からない。でもそれなりの値段がするわけで、それならこれが良いワインということなんだろう。えぐみ、とでもいうのか。喉にいつまでも残るワイン独特の味が気になる。
が、酔えば一緒だ。間もなく運ばれてきた味の濃い食事と共に、流し込んでいった。
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