3.おひさ*愚痴とか

「誰かやってるかな…と」


 次郎アカウントでクレしんさんやいちごさんを探した。この一ヶ月、自分の配信が忙しくて全然行けていなかったからだ。サブアカウントで登場して、びっくりさせてやろう。


「お、やってるやってる」


 いちごさんが配信をしていた。早速入ってみる。


次郎

「こんばんは」


『まぁまぁクレしん、そんな怒らないの。しょうがないじゃない。そんなに言うなら本人に言った方がいいよ』


 ん? いちごさんがクレしんさんにまともに返してるなんて珍しい。しかもクレしんさんが怒っている……?


『ん、あ、初見さん、こんばんは。気づくの遅くなってごめんなさい。ゆっくりしていってくださいね』


呉井心

「言ったところでどうせ届かないよ。あいつはもう俺らのことなんて見えてないし。言ったところで分かり合える訳がない」


次郎

「なんのお話をされているんですか?」


 俺の記憶が正しければ、配信でクレしんさんが怒っているのは見たことがない。そっと内容を質問してみた。


『あー…。えっとね、ちょっと前まで仲良くしてた配信者さんがいたんだけど、その人の愚痴?みたいな、そんなお話をしてて』


呉井心

「リスナーに媚び媚びで、課金ブーストが愛の証だなんて抜かす男だとは思わなかったよ」


古美

「次郎さん今晩は」

「ランキング上位にいつもいるなぁって見かけますけど、なんだか少し寂しいですよね」


 !?


 サブアカウントがもうバレたのかと、心臓が跳ねたが、これは多分クレしんさんへの返信なのだろう。


ぴゑんマン

「ボクは時々投げに行きますよ! 少額で喜ぶんだから、まだまだカワイイじゃないですかッ!」


ねぐせ君

「僕もたいがいつまらない人間ですが、彼のことは見損ないましたね~」


児島

「どうにか気づいてもらえる方法はないもんかね…」


『もう、みんな、初見さんがいるのに止まらないね~。次郎さん、ごめんね。今日は愚痴大会なの。よかったら次郎さんも愚痴こぼしていって』


 愚痴、というか悪口? これは誰のことを言っているんだろうか。


 それにしても懐かしい名前が並ぶ。そんなに時間が経っていないと思っていたけど、ネットでの時間の流れは早いようだ。随分みんなと話していなかった気がする。


次郎

「大丈夫ですよ。皆さん色々思うところがあるんですね」


呉井心

「次郎さんは初めたて? 大手みたいなつまんない人間になったらいかんよ」


古美

「皆さんで和気藹々とおしゃべりしていた頃が懐かしいですね」


ぴゑんマン

「みんなも行ったらいいじゃナイ!」


『私はあんまり只野さんの配信行きたくないな。なんか、なんとなくだけど、私たちのコメントだけ拾ってくれない気がするし、キャラクター変わっちゃって寂しいし』


グングンぐると

「名前! 名前!! いちごさん、名前言ってる!」


 俺のことだったのか。


 急に手足の先が冷たくなるような、そんな感覚になった。


呉井心

「もういいよ、どうせ。あいつ、いちごの配信も、俺のも、古美くんのも、どうせ来ないでしょ」


ねぐせ君

「ランキング上位勢はやっぱ違うんですよ~。僕らみたいなのとは付き合わないっていうか~」


古美

「また仲良くしたいですけどね」


児島

「…悲しいな」


 ずっと応援してくれているものだと、勝手に思っていた。それがこんな形で本音を知ってしまうとは。


 正直、ショックだった。このアプリを始めた時からの付き合いで、いい関係を築けていると思っていたのに。


 ……なぜ、そこまで言われなければならないのだろう。自分たちができないことを、俺がやっているだけで、ただの妬みや僻みじゃないか。


 ふつふつと泡立つ感情が、夜の温度に溶け出していった。

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