疫病神になった日

藤真唯

AM 5:37

 オリンピックイヤーとして華々しく幕を開けた2020年は、別の意味で歴史的な年になりそうだ。春が過ぎ、夏を迎えても新型ウイルスの勢いは衰えない。

 青春真っ只中の高校2年生、1学期。登校日数は20日に満たないまま、夏休みになだれ込んだ。早朝におばあちゃんと近所のお寺へ散歩に行くのが、最近の日課だ。

「静かだね」

「そうねえ。おばあちゃん、朝のお寺の雰囲気が好きなのよ」

 時刻は朝5時半。本堂の前で、お賽銭箱に5円玉を入れる。箱の中で小銭がぶつかる音が大きく響く。手を合わせて、目を閉じる。

 そうしていつもは、家に帰る。でも、今朝は違った。

「そうだ、ハルちゃん。お戒壇巡かいだんめぐり、していきましょう?」

 お参りを終えて目を開けると、おばあちゃんがパチンと手を合わせて微笑んだ。本堂の裏には、短いお戒壇巡りがある。知ってはいたけど。

「そういえば私、行ったことない」

「それなら尚更、行っておかなきゃ!良いことあるかもしれないよ」


 お戒壇巡りは、本堂の下に作られた暗い道を歩く勤行だ。本堂に安置された御本尊の真下にある、鍵に触れると幸せが訪れるらしい。

 きっと、早朝の空気にあてられたんだ。普段はそんな根拠もないことを信じたりしない。だけど私はおばあちゃんに促されるまま、入り口のある本堂の裏へと回った。

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