第651話 ギリギリのライン

けっこうというか過去一アレな感じですので、ご注意ください!







★★♡★★









「ちょっ、もっ、ああっ、むり……っ」


 疲れた、眠い、疲れた、疲れた。

 頭ではそう思うのに、俺の身体は動くのをやめない。

 止まればいいのに、やめればいいのに。

 頭ではそう思うのに、俺の身体は動くのをやめない。

 きっと今、この身体を支配してるのは本能リビドーだ。

 エゴ自我スーパーエゴ超自我もなにもない、イド欲望の部分だけが俺の行動を決めている。

 そこに理性の介入する余地などない。

 隣で横たわる存在も、今は視界に入らない。

 俺が動く度に生じる悲鳴にも似た甲高い声。その声がただひたすら俺の興奮を高めてくる。

 普段はクールぶる可愛い瞳が、今は泣きそうな、扇情的な色に染まり、俺のことを映している。

 それは昨夜も見た、あのたまらない瞳だった。その瞳を宿した顔が乱れる姿に、俺のゾクゾクが止まらない。この顔が俺を見上げてくる光景に、俺の疲労感は姿を消す。

 そして残るは、ただひたすらの興奮のみ。その興奮が俺の身体を突き動かし、この昂りは止まらない。

 こんなつもりじゃなかったはずなのに、今は目の前の相手に夢中になる。

 そんな時間が続いた後、もう枯れ果てたと思える何かが込み上げる感覚が、最高潮に高まって——


「あぁっ!!!」


 堪えられない感覚に抗えないながらも、俺は最後の理性を働かせ、何かが込み上げたモノを引き抜いた。その直後、まるで断末魔のような俺の変えと共に白い何かが目の前のほの白い裸体の上に解き放たれる。

 その放流に俺の脳が一瞬全ての思考を失った。そして目の前の可愛い顔は、右腕でその顔を隠しながらも、消え入りそうな、泣きそうな声で「バカぁ」と言いながら、ビクンビクンと断続的に痙攣する様子を見せていた。

 その姿を目にして、己の欲望が満ち足りた気持ちが一瞬最高潮に高まるが、それを上回る倦怠感が一気に溢れて、俺は全身の力を失った。

 その脱力感の凄まじさたるや恐ろしく——


「げん、かい……」


 かつてないほどのとてつもない疲労感に襲われ、俺はバタっと目の前の裸体の隣に倒れ込む。

 暑い、疲れた、疲れた。

 そればかりが頭を占め、ゼェゼェと酸素を求めるように天を仰ぐ。

 それと同時に、まだ動けないままになってる彼女とは反対側に、スっと別な誰がやってきた。

 そいつを横目でチラッと見ると、彼女は少し疲れの色を浮かべつつ、にんまりした顔を浮かべている。

 その表情から伝わってきたのは、そいつが心から楽しそうってこと。

 ……解せん。

 正直そう思うのだが、ちゃんと見れば彼女もまた髪は乱れ、じっとりと身体も汗ばんでいるのだが、今は全部気にならない、そんな様子も伝わった。


「そんなに激しい動きしてたんだね。客観的に見てたけど、ちょっとびっくりしちゃった」


 そしてそんな楽しそうな彼女が、俺の横から話しかける。

 見てたって、どこからだ?

 そんな疑問も浮かぶけど、彼女の言う激しい動きは……間違いなく俺の動きだろう。

 たしかにまぁ、今の最後は激しかった。

 だって今、声も出せないほどに消耗してるんだから。

 それに今のは初弾じゃないから発射まで時間がかかったし。というか、今日何発目だったんだって話だし。

 マジでほんと、こんな回数、若い頃から考えても記憶にない。

 昨日の今日でなんでこんなに頑張ったんだ?

 誰か俺を褒めて欲しい。

 いや、正確には昨日の今日どころか、今日の今日だ。それならばなおよくやったと、俺はこの戦いを遂げた俺に自画自賛の賞賛を送りたい。

 肌に触れるシーツはどこも湿っぽく、冬だというのに究極の軽装でも全身にじっとりした汗を感じる。そして両サイドで密着する二つの体温も、火照った身体の温もりを俺に伝えてくれていた。

 

「お疲れだね。よしよし、よく頑張りました」


 そして疲れ切った俺を労うように、黒髪の美女が返事をしない俺に対して優しい声をかけながら、ふんわりと頭を撫でてきたのだが——


「レッピーさんも、なんだかんだ楽しそうだったね?」


 息切れする俺をよそに、今度彼女は反対側にいる存在、さっきまでその身を痙攣させていたレッピーに話しかけると——


「……うるせえ」


 話が出来るくらいには回復したのか、レッピーが小さな声でそう返す。

 その声は、楽しそうなだいとは対照的な、恥ずかしさに溢れる声だった。


「つーか、こいつが、容赦、なさすぎるのが、わりーんだ。……アタシが、イッた、っつったのに、止まら、ねえとか、鬼、すぎんだろ」


 そしてレッピーはハァハァとまだ荒い呼吸の中、仰向けの体勢のままチラッと俺を睨んできたりもしたのが。


「でも、レッピーさんすごーく幸せそうな顔してた」

「……その言葉、そっくりそのまま返してやる」


 俺の頭を間に挟んで、弾むように楽しそうな声が恨みがましいレッピーの元へと送られると、レッピーの前に今のレッピーと同じような状況になりかけていただいに対して、それはブーメランだと返事が飛ぶ。

 たしかにちょっと前まではだいがレッピーと同じ状況で、ベッドの端の方でぐったりしてたのだから。

 でもたぶん、俺への慣れって点においてレッピーよりだいの方が回復が早かったのかもしれない。

 と、そんなことを二人の会話に思っていると——


「ゼロやんはどうだった?」


 二人の会話が一旦止まり、今度は余裕そうな声で、聞き慣れただいの声が俺に向けられた。


「……疲れた」


 その問いに返す俺は、完全に力なき声しか出せなかった。

 だってマジで疲れたから。

 いや、思ったことは色々ある。

 複数人でなんて初めてだったが、よくもまぁここまで俺の本能を引き出したと思う。

 でも今は疲れた以外の言葉が出てこないから。


「あー……同じ日付の中で、トータル9発? すげえなお前。マジぜつりんりんじゃん」


 そんな俺に、ある程度普通に話すくらいに回復してきたのか、いつもなら事後のピロータイムにはいないはずのレッピーから、恐ろしいほどに遠慮のない言葉がやってきた。


「……もうツッコむ気力すら沸かねーよ……」


 そんな言葉へ、俺が精一杯のツッコミを入れるや——


「いっぱいシてくれてお疲れ様」

「いやそっちの突っ込むじゃねーから……っ」


 ここでまさかのだいのど天然が発揮され、俺は図らずも結局ツッコミを余儀なくされる。

 いや、でも1時間強で3連戦は鬼だった。

 これもうさ、明日の腰の疲れは確定だよね。

 ……え? 3連戦だと、トータル9発発言に矛盾有りって? お前の朝は5発だろって?

 いや、まぁそれは——


「しっかし顔カピカピだし腹も股もヌルヌル過ぎて……これはちょっとシャワー浴びてーな」

「レッピーさん最初の思いっきり顔にかかってたもんね。私も汗かいちゃったし、一緒にお風呂入ろっか?」


 ……はい、そういうことでした。

 そう、折角二人でするのならと、だいが楽しそうにレッピーを促し、楽しそうなだいと恥ずかしさと照れを織り交ぜたレッピーの二人による所謂ご奉仕を頂いた結果、俺の初弾が思いっきりレッピーの顔に飛んでったのだ。

 正直二人にされるのもヤバかったし、顔……なんて初めての経験だったわけだけど、あのドロドロとしたものを顔につけたレッピーの姿に対する征服感はちょっと癖になりそうな……いやいや、いいえ。何でもないです。

 と、俺が一人振り返っている隙に——


「いやいい。一人で入る。頼むから今は一人で入れさせてくれ」

「そう? そこまで言われたらしょうがないけど……とりあえずお風呂の用意してくるね」

「いや、いい。それもいい。シャワーだけで大丈夫。昨日も借りてタオルの場所とかも覚えてるから、大丈夫。んでアタシはシャワー浴びたら帰るから、今はアレだ、お前ら二人の時間過ごしとけ」


 だいの誘いをバッサリ断ったレッピーが、そそくさと身体を起こしてティッシュで腹部を拭いてから、足早にさささっと去っていく。

 その様子には疲れよりも、どんな顔して俺たちと話せばいいのかという葛藤が伺えた。

 いや、そんなこと言ったら俺も正直今どんな顔するべきなのかとは思うのだが、ヤっちまったもんはしょうがない。

 そんな開き直りが俺にはあった。

 そして去ってったレッピーを俺とだいが見送り、俺の左側の温もりがいなくなってから——


「ゼロやんすっごい気持ち良さそうだったけど、どっちの方が気持ちよかった?」


 改めて疲れたなぁと思考放棄しようとした俺に、レッピーがいなくなったことで俺を独占出来るようになっただいが、じゃれつくように馬乗りしてきて、何とも答え難い意地悪なことを聞きながら、俺の視界いっぱいに天使の笑顔を見せてくる。

 ほんともう、めっちゃ幸せそうだなこいつ。

 結局ヤった俺も俺とはいえ、よくこの展開でこの笑顔になれるもんだ。まぁそれだけだいがレッピーのことが好き、ってことなんだとも、この状況に至るまでの会話から分かってるわけだけど。

 でも、なぁ……。

 そんな頭の中で歯切れの悪いことを考えながら、俺は目の前の笑顔と視線を合わせつつ、とりあえず聞かれた言葉にどう答えるべきなのか、そこについて思案し始めたのだが——


「いつも私が余裕なくなることが多いけど、二対一だとゼロやんの方が余裕なさそうでちょっと楽しいかも」

「え」


 自分で聞いたくせに結局俺の答えが来る前に、ふふっ、と笑いながら、華やかに可憐に軽やかにだいが続けた言葉に、俺は思わず絶句する。

 だって、これはいかん、いかんのだ。

 こんなのが普通になったら、いつかマジで死んでしまう。

 伝説の死に方を遂げてしまう。


「俺は……なんかもう途中からわけわかんなくなったよ」


 だからここはもう率直に、あれこれ考えるのを止め、もういいやと開き直って俺は俺の正直な感想を言ってみた。

 だってもうさ、終始どっかしらが攻められるわけですよ? そんなんもうさ、快楽の暴力じゃん? しかも今朝の俺とレッピーに影響され、月の日が近いというだいの発言もあり……今回はだいともノーガードで致してしまったのだから、その快感たるや……って感じなわけですよ。

 そして発射しても発射しても次弾の充填を促す口……ごほんっ、攻撃がやってきて、触覚的にも視覚的にもそれはもう耐え難い刺激が与えられいくわけです。

 あ。いかん、あの光景思い出すと——


「え……まだ元気なるの……?」

「いやいやいやこれは違うこれは違うっ」


 俺の腰辺りに乗っかるだいにはその反応が分かったのか、微笑む顔を驚きに変えていたけれど、ソレと俺の体力は別問題。

 ってことで俺は全力で首を振って否定した。


「でも、レッピーさんとは5回シたんだよね? 回数等分したら私2回しかしてもらってないよ?」

「いや、違うって。回じゃないって、発だってっ」


 だが、だいが今度は可愛らしく拗ねたような顔をしてまさかの理論を展開してくるではないですか。

 エロい、エロすぎる——じゃないって!

 そんなだいに俺は正しい(?)日本語を伝えるも——


「あはは、冗談だから大丈夫だよ。ゼロやんほとんど寝てないんだもんね。一回ちゃんと休んで、明日の朝にしよ?」

「ん、さんきゅ……って、あれ……? 明日の朝って、え、だい今日うちに泊まんの?」


 本当に冗談だったのかと疑いつつ、俺はだいから言われた「明日の朝」って言葉を聞き返す。

 だって明日は12月2日の水曜日。超週中の平日ぞ?

 そんな疑問を持った俺に。


「うん。私明日お休み取れたから」


 さらっとだいがテスト期間中ならではの休暇取得宣言をしてくれた。


「うわ、羨ましいマジかよ……って、え、朝にって……えっ!?」


 その休暇に羨ましさを覚えつつ、俺はそこでようやく少し前の「朝に」って発言に思い至る。

 一回休んで明日の朝にって、それはどういう意味ですか?

 分かりきったことを確認すると——


「レッピーさんから聞いたよ? 朝から元気で襲われたって。だから明日の朝は私のことも襲ってね?」

「え、や、いやいやいや! 今朝の先手はレッピーが——」

「じゃあ私が襲っちゃうよ?」


 本当にレッピーは全てを話したんだなってことが明らかにされて、「襲っちゃうよ?」なんて可愛いことを言ってきただいが、俺の肩に噛み付いた。

 もちろんそれは甘噛み、だと思ってたら、何回かあむあむとされた後、明らかに吸われてる感じに変わっていって、手慣れた感じでだいによるマーキングに変わっていく。

 まぁ肩ならね、いつぞやと違って冬だから見えることもないんだけど……なんだろう、だいってこんなに性に積極的だったっけ?

 そんな疑問が浮かび出す。

 いや、もちろんそれが嫌ってことはないんだけど……もしやアレか? やっぱり俺が他の人とそういうことをしたからか? レッピーにああは言ったけど、やっぱり自分が一番ってアピールか? 

 ……ううむ。やっぱアレだよな。一度ちゃんとこいつと二人で話さないと、だよな。

 だいがレッピーに特別な感覚を持ってるのも分かるけど、これを当たり前にしたらダメなのだよ。そりゃ俺は当たり前にだいが一番で、だいの願いは叶えたいと思うけど、いくらなんでもこれは普通とはちがうから。

 そんなことも思ったりしていると——


「でもまた三人でシようね」

「え、ハマったのっ!?」


 俺の願いは通じない。

 というかアタッカーSは俺の役割だったはずなのに。

 完全にDPS鬼強の物理アタッカーの楽しそうな顔をしただいが言ってきたその言葉に、俺は過去一のツッコミの声を上げるのだった。

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