第541話 1戦目、決着

 ぴょんの両手が大きく広げられた直後、モニターが暴力的な白の明滅を撒き散らす。

 その光を生んだ猛り狂う雷の襲来をまともに受け、〈Zero〉のHPは一気に削られた。

 その被ダメージ、約2000。実に三分の一ほどのHPを一気に削られたわけである。

 通常こんな大ダメージを与える魔法をあんな短い詠唱で行使出来るはずはない。

 つまりこれが、ぴょんが選んだスキルということだろう。

 まず短い詠唱を可能とするクイックマジック詠唱時間短縮スキル

 次いで俺と少し離れたところにいたあーすも巻き込んだことから、エクスパンド範囲拡大スキル

 そしてこのダメージ量から判断される、消費MPを増やして与ダメージを増やすインパルススペル。

 全て次に唱える魔法を対象とするものだが、これらによって今ぴょんが放ってきたサンダーストームは、馬鹿みたいな威力を発揮してきたわけである。

 パーティメンバーとして確認できるあーすも四分の一ほど削られてるし、ほんと連発されればあっという間に全滅待ったなしの、驚異的な威力だった。

 連発されれば、だが。

 そう、この辺りはまさにゲームバランスってところだが、当然今ぴょんが使ったスキルは高性能のためリキャストタイムが再使用までそこそこ時間がかかるから連発は出来ない。

 つまりここが勝機。

 こっちも向こうも、HPが減っているのには違いない。

 だから俺は、この隙にぴょんを落とす!


 被弾のエフェクトが終わった瞬間、俺はそう判断してサドンリーデスを発動させた——のだが、この時の俺は、ぴょんしか見ていないことに気づかなかった。

 そしてそれはあーすも同じことだったのだろう。

 あれほどジャックから指示を受けていたのに、あーすは完全にロキロキを見失っていたようで——


 〈Loki〉のカラドリウスエッジ>>>>>〈Zero〉に1784のダメージ!


 いつの間にか多数の小人族に囲まれ、そいつらが一斉に俺に攻撃してきた瞬間、またもや大ダメージのログが現れる。

 まずい! そんな言葉が脳内に浮かんだのは当然だ。

 きっとこの時の俺は、相当な焦りの様子を浮かべていたに違いない。


〈Zero〉『あーす!』


 そしてダメージログはあーすにも見えただろうから、俺は一言「その責務を果たせ」と伝えるべく、頼りにならない仲間の名を呼んでから、サドンリーデスを起動させた状態のまま、あーすの方向に駆け出した。

 

〈Earth〉『ごめんね!』


 その言葉を受け、あーすが俺のいる方向に走り出す。

 だが、銃を構えた攻撃態勢のまま動くノロマな俺に対して、俺と同じく武器を構えていたとしても、圧倒的にロキロキの移動速度が上だった。そのため逃げる俺にロキロキの攻撃やぴょんの詠唱時間の短い低威力攻撃魔法が届き、じわじわじわじわ、俺のHPが残り342まで削られた。

 目の前にはあーすが迫る。

 もう少し、もう少しが、遠い。

 正直もうダメかと思ったが——


〈Earth〉『☆戦うみんなのアイドル参上☆あーちゃんが守ってあげる☆>>>〈Loki〉さんにはこれ以上いじわるさせないよ☆』


 いや、セリフなが!!

 助かったという気持ちよりも、そのマクロに仕込まれたセリフの長さに意識を奪われかけたが、ここでようやくスキルの射程範囲にたどり着いたあーすのチアアップ攻撃対象強制移行が発動し、ロキロキがあーす以外に攻撃出来なくなった。

 戦うアイドルとかいじわるとか、ツッコむとこは多々あったけど、今はそんな余裕はない。

 生き延びたのだ。

 ならば、このチャンスは逃せない。


 俺は横移動でぴょんの放つアイスランス直線型攻撃魔法を避けた直後、次の詠唱を始めたぴょんに対し、俺は発動させたままのサドンリーデスを経験と勘を頼りにコンマ数秒で照準を合わせて発射して——


 〈Zero〉のサドンリーデス>>>>>〈Pyonkichi〉に2014のダメージ!

 〈Zero〉は〈Pyonkichi〉を倒した。


 っし!

 闇の奔流がぴょんを飲み込んで、魔法使いのローブに身を包んだ小人族が倒れ伏せた。

 そう、際どい勝負だったが、俺はぴょんを撃破したのだ。


〈Pyonkichi〉『ぬあーーーー!!』


 直後に現れたギルドチャットの咆哮は当然悔しさを表したものだろうが、そんなものには構ってられない。

 それはきっとみんな同じだったのだろう。

 誰もそれに応えぬまま、俺は続けてロキロキと対峙するあーすの後方に入って、あーすの支援とロキロキへの攻撃を開始した。

 まずはあーすを効果範囲に置いて弾幕味方防御力上昇を使用してあーすをフォロー。

 そしてまだチアアップが発動している間にヘヴィショット移動速度ダウンを撃ち込んで、ロキロキの移動速度を減少させる。

 そうやって安全を担保したところで、一度攻撃態勢を解き、あーす対ロキロキの戦場から離脱する。


〈Zero〉『そのままロキロキ抑えててくれ!』


 そう言って俺が向かうはジャックのところ。

 ここでロキロキを倒せればもちろんいいが、あーすが取りこぼして俺が攻撃されるようなことあれば、俺死んじゃうからね。

 忘れてはいけない。

 何たって俺の残HPは約5%。

 あーすの実力というか、ロキロキの実力を考えればどうのこうのして俺に攻撃を当ててくる可能性も否定出来なかったから、俺はこの判断をしたわけだ。

 それに、先にリダを確実に落として最後は3対1でロキロキを落とす方が確実だろうからな。


〈Zero〉『ジャックの支援に入る』

〈Jack〉『k』


 お、これは珍しい。

 いつもなら語尾を伸ばすジャックが、何ともまぁ端的な返事をすることか。

 つまりそれだけこのPvPコンテンツがタイピングに不向きというわけなのだが、やはりボイチャのが楽だなこれは。


〈Jack〉『@30』


 だがそんな状況下でも、あえたタイピングでジャックが何かを伝えてくる。

 @30、あと30、つまりそれは残り時間か残りのHPなわけだが、ジャックのステータスバーを確認すればそのHPはほとんど減っていない。

 そしてこのコロシアムに入ってから、経過時間はまだ7分ほど。

 俺にかけられたバフの効果はまだ3分ほど残っているから、バフの効果がもうすぐ切れそうということでもないだろう。

 ならば、@30が示すのはリダの残りHPか?

 ……え?

 っていうか、いや、マジでどんだけ強いのよジャックさんよ……!


 そう思いながら俺はジャックとリダの戦場へ急いで走り、15秒ほどの移動で二人を発見した。

 だがここですぐにジャックに駆け寄ったりはしない。

 だって俺、ガンナー遠距離アタッカーだし。

 ということで俺は冷静に距離を取りつつリダの背後側に回って、準備完了。

 そしてサドンリーデスがまだリキャスト中だったため、まずはここまで相当な気合を入れて強化した、リベレーションショット属性攻撃を発動した。

 これは物理アタッカーのガンナーが、魔法攻撃力を高めれば高めるほど威力が上がり、高めなければゴミみたいな威力のスキル。だが数少ない銃の即時発動型スキルとして俺はこれを鍛えるべく、相当な資金を投入している。

 つまりその威力は折り紙付き——


 〈Zero〉のリベレーションショット>>>>>〈Gen〉に892のダメージ!


 な、はずなんだけど、……魔法防御の高い相手には、まぁこんなもんか。

 いや、当然サドンリーデスに及ぶべくもないのは分かってたが、これはさすがリダ。ギルドの盾。うん、そういうことにしておこう!

 とはいえ、これでリダの残りHPは目算で3割を切った。

 元々の値はたしか9500くらいだったっけ。

 それをジャックが削りに削って@30だから2800ほどまで削ってて、今の俺がさらにそれを減らしたわけである。

 ……ん? でもやっぱジャック、マジでぶっ壊れなレベルで強くねーか?

 二人の見た目は同じく鎧姿でも、リダは本職の盾職だぞ?

 そんなことを思っていると、目の前でジャックのメイスがリダの脛あたりを狙って振るわれて、リダの盾がそれを防ぎ、被ダメージは42と表示される。

 ……42?

 え? そんなダメージ量でここまで削ったの?


 現れたダメージログに俺が一瞬ぽかんとすると、脛あたりを狙って右から左へと振るわれたメイスが、翻すように次は左から右へ、リダの胴部を狙って振るわれる。

 その攻撃は、従来のシステムではあり得なかった攻撃間隔で、あまりにも速い連続攻撃にリダの盾は間に合わず、次は356のダメージを与えたログが表示された。

 ちなみにジャックの狙った二撃目を防ごうと、リダが盾を構えたのは既に被弾した後で、完全にジャックの速さに翻弄されているようだった。

 パーティを支えるサポーターが、攻撃力で、速さで、パーティを守るパラディンを圧倒する。

 ……いや、ほんと不思議な光景だ。


 そんなことを思った約1分後、俺の加勢も加わって、ジャックと共に俺たちはリダを撃破して、残す敵を一人にした。

 そして俺のバフが切れる直前くらいの、およそ入室から9分半後くらい、俺とあーすは残りHP1割を切るという、かなりの死闘を演じたかのようなパーティ状況の中で、チームジャックは3-0の完全勝利でPvP1戦目を飾るのだった。

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