第452話 勝者の栄誉とは

 果たしてロキロキは誰に票を投じたのか。

 ドキドキしながら、俺はグイッと8杯目のビールを仰ぎきったぴょんの言葉を待った、のだが——


「ここからは非公開でーす」


 これまでと異なるガクっとなる言葉がやってきて、俺は文字通り肩を落とした。

 しかもぴょんの表情も努めて何も情報を明かさないようにしているようだし、これは本当に分からなさそうだった。

 くっ……!


「そいえばさ〜、今さらなんだけど〜この勝負勝つとどうなるの〜?」


 と、俺がぴょんの言動に動揺していると、不意にゆめが核心を突いたところを問い出した。

 その問いに、俺も含めて、全員の時が一瞬止まる。


 ……あれ? どうなるんだっけ?


 俺がふとそれを思い返そうとするも——


「あー……」

「そういや俺ら決めてなかったなっ」


 天井に目線を送るぴょんと、豪快に笑う大和も同様だったようで、ゆめの問いに答えられる者無し、と。

 そう、俺たちはこの賽の投げられた戦いの行方の先を、誰も知らなかったのだ。

 いや、知らなかったは適切じゃないな。誰も定めようとしなかったのだ。

 これぞ見切り発車のぴょんクオリティ。

 後は野となれ山となれ。

 行き先は列車に聞いてくれ。

 ……うん、そうなってくると俺、もしかして勝っても大丈夫、なのか……!?


 振り返ればぴょんゆめコンビと俺大和コンビの戦いだから、どうやっても勝てないんだから、で始まったこの戦いだ。

 それがいつの間にか、負けたい戦いに変わっていた。

 ううむ、世の中は不思議で満ちてるね。アンビリーバボー。


 ってことで。


「投票結果がだいぶ見えて来てるんだし、今から賞品とか決めるのはフェアじゃないんじゃないか?」


 と、俺は先制パンチで鍵を刺す。

 暫定一位の可能性を持っている俺がこれを言うことには、可能性の低い大和やゆめが言うより意味があるだろうし、いけると思ったのだが。


「妥当なとこは、飲み代奢り、か?」


 さらに非常に平和的な別案が大和により提案され、俺は胸中でガッツポーズ。

 お金で解決出来ることは楽なことだ。

 ぴょんからすれば面白くはないだろうか、勝者への賞品・賞金という見方にしてもスッキリする。


「あー、大和の案なら賛成。1位の奴の代金、みんなで出し合うのは有りだな」


 ってことで軽く喜ぶ内心を押し隠し、俺は淡々と大和に同意してみせたのだが——


「んだよけちくせーなー」

「いや、これが一番平和的結末だろ——」


 明らかに不貞腐れる奴が現れたて、そいつに言い返す途中で、俺は気付く。己のしくじりに。


 ……しくったな……!


 このぴょんのリアクション、俺にけちと言うってことはつまり、俺が奢ってもらえる可能性が高まった、ということだろう。

 それすなわち、ロキロキの票が俺に入ったということに違いない。

 ぴょんからすれば同率一位に並ばれたわけだから、素面ならまだしもこの酔っ払いモードならば面白くないと思うのは必定だろう。


「ん〜、一位同率なら半額ってこと〜?」

「まぁ、それが平和的じゃねーか?」

「なんかパッとしないね〜」


 そして不貞腐れたぴょんに加勢するようなゆめの発言が出てくるが、じゃあなんだよパッとする賞品って、って思った俺は、それを問いかけようとゆめに視線を向けたのだが——


「やっぱ金かけるのは面白くねーしな! 王様権ゲットにしよう!!」


 俺が口を開くより早く、割って入って来た大きな声に、全員がその言葉の意味を計りかねてきょとんとする。

 そんな俺たちに気づいたのだろう、その提案者は何故かドヤ顔を浮かべて——


「王様権を得た者は、同じ権利を持っている者以外に好きな命令をしていいのだ!」


 と、とても分かりやすい説明をしてくれた。

 同じ権利を持っている者以外、という説明をいれてくれたところは、きっとぴょんに残っている冷静な部分なのだろう。

 でも、ふむ、そうか。


「王様ゲームの王様的なやつ〜?」

「うむ!」

「拒否権は〜?」

「法に触れる命令じゃなきゃなし! あ、あとは人を傷付けるのもダメだぞ?」

「ふむふむ〜」


 赤ら顔で声が大きくなるという、明らかな酔っ払いの割には、ぴょんの思考は真っ当で——


「乗った!」


 俺は新たなぴょんの提案に、声を大にして賛同した。

 たしかにこれなら、ありがたい。

 大和案も悪くなかったが、大和ぴょんはともかくとして、年下のゆめにお金出させるのは、やっぱりやだからな。

 その権利ゲットなら、うん、有りだぞ……!


「お? なんだ倫、法に触れないギリギリエロスな、ギロスな提案でも思いついたのか?」

「ちげーよ!? てかなんだよギロスって!?」

「え〜、ゼロやんえっち〜」

「いや、だからね!?」

「この変態エロリストめっ!」

「いやそのワードも初めて聞いたけど、語感やべーだろ!?」


 だが、俺が賛同した途端に襲い掛かる罵声のようなボケラッシュに、俺は全力を持って否定のツッコミをしまくるが、みんなが笑っている姿に、正直たしかな手応えを掴んでいた。


 これは、決まったな……!


「ま、倫がやたら乗り気なとこに、どんなギロスな命令出すのか気になるし、俺もそれに乗っとこう!」

「わたしも〜。ゼロやんなら無茶振りもしないだろうしね〜」

「いや、つーかなんでみんな俺が勝つ前提なんだよ? ぴょんの可能性だって——」


 そして予定通り決まりそうな流れの中で、なぜかみんなが俺が勝つことを既定路線みたいに言い出してきて、俺はそれに反論しようとしたのだが……俺の言葉を遮るように、ゆめがスマホの画面を俺に見せてきた。


「ほら〜」

「え?」

「おでましだも〜ん」


 ふわふわしたゆめの言葉に導かれ、俺はその画面を注視して、そこに書かれた文字を読む。

 そこには——


里見菜月>【Teachers】『ご飯すごく美味しそう。いいな』19:29


 第一声が食事についてというのがなんとも「らしい」、最後の投票権を持つ者の名が、記されていた。

 

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