第167話 穏やかな日常

〈Jack〉『おっつかれーーーーw』


 反省会を終えた俺たちはそれぞれホームタウンに戻ると、俺らの転移に気づいたのかギルドチャットの緑の文字がログに現れた。

 どうやらピラミッドに向かった第2班ももう戻ってきてたみたいだな。


〈Jack〉『どだったーーーー?』

〈Gen〉『負けたわ!w』

〈Jack〉『あちゃーーーーw』

〈Senkan〉『いやー、嫁キングってすげーな!改めて思い知ったわー』

〈Gen〉『俺もジャックのすごさを痛感したよw』

〈Zero〉『そっちはどうだったんだ?』

〈Jack〉『うーん、勝つには勝ったんだけどーーーーw』


 俺らが敗北を伝え、逆に第2班の成果を確認すると珍しくジャックのログの歯切れが悪かった。

 どういう意味なのだろうか?


〈Pyonkichi〉『いやー、メイン盾でやんのってしんどいんだなー』

〈Yume〉『ぴょんが途中で投げ出しました~w』

〈Soulking〉『いやぁw面白かったけどさw』

〈Pyonkichi〉『いや、タゲマ出たら攻撃したくなっちゃうじゃん!』

〈Zero〉『あー・・・w』

〈Yukimura〉『お気持ちはわかります』


 ぴょんのログで、ぴょんの言いたいことはだいたいわかった。

 格闘使いグラップラーで盾をやるには、通常攻撃を抑えて敵の攻撃に対してカウンターを決める必要がある。そのため攻撃のタイミングであるターゲットマークの表示を無視し、敵の攻撃にカウンターを合わせる必要があるのは言うまでもないLAの仕様なのだが、おそらくぴょんはタゲマが出たらついつい殴ってしまい、盾の役割を果たせなかったのだろう。


 ゆきむらも刀で盾をやるときがあるから、気持ちは分かるってとこだろうな。

 もちろん盾&片手剣使いパラディンを上げ始めた時は、俺も同じことを思ったものだ。


〈Pyonkichi〉『あたし、格闘でメイン盾やったことなかったし!』

〈Yume〉『はいはい、言い訳~w』

〈Daikon〉『でも、勝てたのよね?』

〈Earth〉『あーちゃんがみんなを守ってあげました☆』

〈Gen〉『あれw』


 なるほどね。


〈Jack〉『途中からぴょんがアタッカーグラップラーになって、あーすが盾になりましたーーーーw』

〈Soulking〉『アタッカーなってからのぴょんは割と頑張ってたけどw』

〈Pyonkichi〉『そもそも前出るとな、あんま喋れないからな、あたしは後衛がいいわ!』

〈Senkan〉『こいつw投げ出しおったwww』

〈Gen〉『でも、みんないい経験になったみたいだな!w』


 リダの言葉通り。

 うん、普段スキル上げしかいかないけど、たまにはこういうのもいいもんだな。


 きっとまた次回も色々練習するんだろう。

 次は、ちゃんと勝てるように頑張ろうっと。


 その後まだ22時くらいということもあり、ギルドチャットを続けたリダ、ぴょん、ゆめ、大和、あーすとは別に、ちょっとスキル差はあったものの、俺は銃、だいが短剣、ゆきむらが刀、ジャックが錫杖の4人でパーティを組み、23時半頃までスキル上げをして、俺たちはオフ会明け最初の活動日を終えるのだった。


 ちなみにゆきむらはいつの間に刀をスキル320近くまで上げてたんだよとか思ったのは秘密です。




 そして8月12日水曜日、午後22時14分。


「じゃあ、今度会うのはまた来週だね」

「おう。お土産買ってくるな」

「うん。ゆっくりしてきてね」

「ああ、さんきゅ」


 だいの家の玄関先にて、いつもの外食の日デートを終えた俺たちはバイバイするのを惜しむように、いつものように話していた。

 明日明後日は平日だけど、夏季休暇を出して俺は実家に帰省するため、土曜日のお泊りの日は今週もなし。

 ちょっと寂しいけど、たまには親孝行しないといけないからね。ここは我慢である。


「そういえばさ」

「うん?」

「亜衣菜さんと連絡は取ったの?」

「あー、まだ」

「そっか」

「うん、来週はゆきむらの面接練習だから、何日分練習するかわかんなくて」

「なるほど。じゃあ、日曜にしたら?」

「え、でも土曜はだいが泊まりに来て、日曜はデートだろ?」

「そうだけど、いいよ。行ってきても」

「え、そ、そうか」


 そして切り出されたまさかの話題。

 いやね、俺も忘れてたわけじゃないよ?

 でもほら、亜衣菜とゆきむらなら、ゆきむら優先というか、試験前の仲間を応援したいじゃん?

 だからね、後回しにしていただけだからね。


 でも、日曜か……うーん、だいがいいって言うなら、そこで聞いてみようかな……。


「一応、私も空けておくね」

「わかった」

「うん、私もちょっと、亜衣菜さんと話したいこともあるから」

「え、そうなの?」

「うん。でもさすがにゼロやんと二人で話すのにはお邪魔しないけど」


 なんだろ? だいは亜衣菜と何を話したんだろうか?

 たしかに初めて二人が会った日、謎に仲良くはなってたけど……。


 うーん、こればっかはわからんな……!


「じゃあ、決まったら連絡するな」

「うん。じゃあまた来週ね」

「おう」

「おう、だいも実家でゆっくり過ごせよ」


 とりあえず今ここで決まる話もないので、この話をここまでにして俺がだいの家を後にしようとすると。


「むぅ」

「え?」


 振り返った俺の服の裾が引っ張られた。


「まだぎゅーしてない」

「あ、お、おう」


 さっきの会話の流れだったので、そんな空気じゃないと思ってたんだけど、ちょっと拗ねた感じを見せただいの可愛さに俺の中で甘やかしたいスイッチがオンになる。

 しかしやっぱり、二人きりの時はこいつめちゃくちゃ可愛いな……。


 だい曰くワガママモードなんだろうけど、これはただの甘々モードです。

 うん、大正義。


「こうしてると、落ち着くね」


 そして俺がだいのことをギュッと抱きしめると、さっきよりも甘えたような声が俺の耳に届く。

 あー、幸せだわ、これ。


 そのまま数分、ハグをしたり、時々キスしたりと、まるで付き合いたてのカップルのような時間を過ごし。


「じゃあ、またな」

「うん、バイバイ」

「おう」


 今度こそだいに手を振り別れ、俺は我が家への帰路へと進む。

 空は少しどんより天気だったけれども、だいの甘々モードの余韻に、ちょっとまだ顔がにやけたり……。

 でも、まずはちゃんと亜衣菜に連絡取らないとな。


 そう決めた俺は、よし、と誰にともなく一度頷いてから、真っ直ぐに家へと帰るのだった。






 そしてそして、8月13日木曜日、18時18分。

 

 いやー、正月以来だから、8か月ぶりかー。

 相変わらず田舎だなー。

 

 まもなく終点秋田駅。東京駅とは比べ物にならない車窓からの景色眺めつつ、俺は新幹線の停車を待っていた。


 そして新幹線が止まり、荷物を下ろして外へ出る。

 昔はもっと涼しかった気がするけど、最近は温暖化の影響か、夏になると東北も暑くなってきた。

 とはいえもう日も落ちてきてるので、東京ほどの暑さは感じない。

 この気候も、田舎を感じさせるなー。


 周囲の乗客たちと同じように、俺も自分のキャリーケースを引き、改札へと向かう。

 進む方向は皆同じ。迎えの人とかが待つ改札、一つしかないからね。


 ちなみにホームから見えた、別のホームに泊まってる在来線は4両編成。うん、懐かしい田舎だ

 というか、俺が実家で暮らした18年間、在来線に乗ったことなんてないんだよな。


 やっぱこっちは圧倒的車文化だよなー。


 そんなことを思いつつ改札を抜けると、俺に気づいたようで、知った顔の女性が小さく笑って手を振っていた。

 その顔は、自分で言うのもなんだけどやはり自分とちょっと似ているなー、と思う顔。身長は160cmくらいだったはずだから、俺を一回り二回り、小さくして女の子っぽくしたらこんな感じなんだろう。あ、でも俺と違ってややたれ目がちか。

 そういや黒髪のショートボブになってるけど、正月の記憶だともっと長かったような……。


 とか色々眺めてみるけど、やはり贔屓目ひいきめに見てもね、可愛いとは思う。

 派手さはないけど清楚というか。地元にいた頃は、友達から「倫の妹可愛いよな」とかも言われてたし。

 そろそろ彼氏とか出来ただろうか。


 その手を振る女性に近づく俺。


「ただいま」

「お兄ちゃんおかえりっ」


 そっけない感じで声をかけたけど、その女性……俺の妹は少し嬉しそうに笑っていた。


「今年も焼けてんねー」

「そら運動部顧問だからな」


 まじまじと俺の顔色や腕の色を見てくる妹。

 俺と似た顔はしていても、肌の色は全然違う。ザ・秋田生まれという色白な妹は、本当に真っ白というか、あー色白ってこういう人だよなー、っていう感覚を抱かせた。

 ぴょんとかとは真逆の色だね。


「荷物持つ?」

「いや、大丈夫だよ。今日は父さんと母さんは?」

「お母さんはまだパートだけど、お父さんは今ご飯作ってっよ」

「おー」

「お兄ちゃん帰ってくっから、今日は唐揚げつくんだーって朝から言ってた」

「おー、父さんの唐揚げ美味いもんな」

「作りすぎなきゃいっけどね」


 キャリーケースをそのまま引きつつ、妹と二人並んで駅の駐車場方面へ向かう。

 しかし、この若干訛り混じりの感じ、田舎帰って来たなーって気がするわー。

 俺もちょっと、訛りでちゃうし。


「そういや真実まみは今日仕事早く上がれたのか」


 改めて考えれば、ジーンズにライトブルーというか、薄い青地のTシャツ姿の妹に少し疑問が浮かんだ。

 市役所勤めの妹からすれば、今日は勤務日のはずだから。

 まぁもう18時過ぎてるから、17時に退勤して帰って着替えても、間に合うとは思うけど。


 あ、真実ってあれね、妹の名前ね。北条真実、今年24歳になる、4つ下の妹ね。


「あ、私は今日も明日も夏季休暇とったよー」

「あ、そうなんだ」

「うん。だから明日どっか出かけよーよっ」

「別にいっけど」


 俺に合わせて夏季休暇かー。

 これは、まだ彼氏はできてないんだろうか……。


 なんとなく小さい頃のイメージが強いけど、こいつももう今年で24歳なんだし、そろそろ恋人の一人や二人できてほしいところ。

 今までは俺が偉そうに言えることじゃなかったんだけど、今回からはね、その点について俺は一歩先に進んだからね!


 そんなことを考えるも、俺と真実は一般的な異性の兄妹にしては、仲が良い方だとは思う。


 俺の上京が決まった10年前に、別れを惜しんで泣いてくれるくらいには、仲が良かったというものだ。

 もっと小さいころは、めちゃくちゃお兄ちゃん子だったしなー。

 昔は可愛かったなぁ……。


「あ、運転すっけする?」

「あー、じゃあリハビリに」

「おっけー」


 そして辿り着いた駐車場。

 去年父さんが真実に買い与えた秋田ナンバーの水色の軽のキーを預かり、後部座席にキャリーケースを置いて、運転席に乗り込む。

 ま、リハビリっつったけど、この前運転したばっかなんだけどね!


 田舎だから当然車文化なのはうちも例外ではなく、うちでは通勤で車を使う父と妹が車持ちってわけだ。

 昔は母さんも自分の車持ってたけど、今はパート先がチャリで5分のところだから、もう売ったんだよな。たまに父さんの車使うみたいだけど。


 うん、つまり家族で一番運転してないのは俺なんだよね。

 まぁ、東京じゃ必要性感じないし。


「じゃ、安全運転でよろしくっ」

「はいよ」


 先週は助手席にだいを乗せて二人で運転したなー、とかそんなことを思い出しつつ、俺は勝手知ったる地元の道路を走り、8か月ぶりの実家を目指すのだった。




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以下作者の声です。

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 妹登場。

 訛りを文字起こしする難しさに負けそうです……笑


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本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。現在は〈Airi〉と〈Shizuru〉のシリーズが完結しています。

 え、誰?と思った方はぜひご覧ください!

 

 3本目難航中。

 暑くなってまいりました。皆様もお体にはお気をつけください!

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