第156話 ボーナスタイム(?)

「せんかんマッチョで羨ましいなー」


 大和の腕から俺が潜り抜けると、俺と大和を見ていたあーすがいきなりそんなワードをかましてきた。

 何も知らなければね、俺も同意してやれたかもね! でもね!


「今でも鍛えてるからな! まだまだガキどもに泳ぎで負けるわけにいかねーし」

「ゼロやんもけっこう身体締まってるよねー」

「え? あ、まぁ、俺も一緒に部活やってるし」

「つーかあーすが細すぎんだろー」

「僕もなんか部活やっとけばよかったなぁ」


 だいとあーすの話をしていたのに、あっさりと話題があーすによって変えられた。

 身体の話題に、温泉に入ってるにも関わらず、なぜかちょっと寒気が……。


 しかし実際ガタイのよさで言えば、圧倒的に大和がいいわけだが、俺も一応運動部上がりなので、そこそこに筋肉はある。腹筋が割れてる大和に比べれば、俺はそこまででもないけど。

 だがあーすは脱いだら改めてひょろひょろというか、服着てる時から思ってたけど、ちょっともやしチックな体型なんだよな。


「でも、ゼロやん地肌はけっこう白いよねー」

「東北生まれだからな」

「あれだよな、ほんとユニフォーム焼けってパンダみたいだよな!」

「やかましいわ。っつーかあーすの方が白いだろ」


 俺の日焼けはもうしょうがない。特に夏はしょうがない。

 俺んちに来た時だいも笑ってたけど、直茶日光当たんなかったら焼けないだろ。日焼けサロンとかわざわざいくのもやだし。


 俺の言葉にあーすが笑う。

 楽しそうだけど、なんというか、ちょっとその笑顔が怖い。


「僕はほらー、インドア派だから?」

「部活とかなんかもってないのか?」

「もってるよー。将棋部!」

「お、あーす強いのか?」

「ううん。駒の動かし方しか知らないよー」

「まぁ、顧問あるあるだな」


 そんなあーすの答えに俺は苦笑い。

 女の子みたいに白いあーすは予想通りのインドア派らしい。

 しかし若い男ってだけで運動部にあてられそうな気もするけど、まさかの文化部とは。

 大和がちょっと将棋に反応したのは、大和は将棋好きなのかな? 日本史教師だからか?


「ちょっと腕力入れてみてよー」

「ほれ」

「うわっ、すごー」


 と、会話の話題が部活トークになったと思ったら、あーすが再び筋肉トークへと戻す。

 何も知らない大和は言われるがままに、というかむしろ嬉々として右腕を曲げ、力こぶを出す。

 ボディビルダーみたいなものではないけど、黒々と日焼けした逞しい腕に備えられた筋肉は、男ならちょっと羨ましく思えるものだった。


 嬉々として触るあーすのはしゃぐ声は、どういう感情なんだろう……。

 しかしこの流れは……!


「ゼロやんもやってよー」


 ですよね!!!

 すーっと浴槽の中を移動してきたあーすが、俺と隣にやってくる。


 相変わらずのイケメンフェイスは楽しそうな笑顔を浮かべているのに、それが怖いです俺には。


 だがここで拒否るのも変なので、やむを得ん。俺も腕に力をいれてみせる。


 しかしあれじゃないですかね。触り合ったりのキャッキャウフフは女の子同士の特権であるべきじゃないですかね……。

 今頃女風呂では……うーむ。やめよ。悲しくなってきた。


「おー、かたいねー」

「まぁ、何だかんだ子どもの頃から野球かソフトやってるからな」

「運動神経いいんだねー。いいなぁ。でもあれだよね、ゼロやん肌も綺麗だねー」

「おおうっ!?」


 俺の腕を触ってきた直後、そのままあーすの手が俺の顔に触れてくる。

 その動きにびびった、俺は思わず逃げるようにざばっと立ち上がってしまった。


「おおっ……顔に似合わずなかなか……」

「え、俺よりでかくね?」


 うおおおおおおおおおおおい!?!?


 ざばーん! と再び勢いよく湯舟に戻る俺。


「やめい!!」

「いや、倫が見せつけてきたんだろうが」

「アピールかと思ったよー」

「するかい!」


 焦る俺に二人は笑っているが……くそ! なんたる失態……!!


 立ち上がった俺に対する二人の視線の先は、もう言わずもがな一択だった。

 たしかに俺も急に誰かが立ち上がったら、ついついそこを見て自分と比べてしまっていただろう。


 だがまさか自分が比べられる側になるとは……!

 恥ずかしさに死にそうです。

 だい以外に見られるなんて……!


「ゼロやんは面白いなー」

「そうな、倫って時々天然だよなぁ」

「ち、ちげーし!」


 二人にいじられた俺は、段差の所に腰かけた二人に対し、一人だけ肩まで湯舟に浸かり、二人から顔をそむける。


 全く誰が天然だ誰が!


「でも、ほんといいギルドだねー」

「おうよ。オンラインの仲間とオフで会うってどうなんだって前は思ってたけど、復帰してよかったと思うなー」


 そっぽを向いた俺をよそに、まったりした会話をする二人。

 まだ恥ずかしいから参加しないけど、心の中では同意だけど。


「綺麗な人多いよねー」

「うむ。正直ゲーマーの女って……って思ってたけど、ハイレベルだよな」

「せんかんはぴょんと仲良さそうだったけど、ぴょん派なの?」


 む。

 面白いとこ切り込んだな、あーすのやつ。


「うーむ……。誰にも言うなよ?」

「言わないよー。男同士の秘密秘密」

「倫もだぞ?」

「聞いてるのバレたか。男同士の話を誰かに言うほど、俺も野暮じゃないよ」

「まぁ、倫は誰派って言ったら一択だもんなぁ」

「なっちゃんとラブラブだもんねー」

「茶化すなって!」


 ツッコミをいれつつ、再び大和たちの方を向く俺。

 さっきの位置のままだから、今は俺と大和の間にあーすって状態だな。


「僕も身体ならなっちゃんだなぁ」

「お、おっぱい仲間か。それは俺も同意である」

「身体ならって、やめんかい!」

「いやだってさ」

「目はいっちゃうよね~」

「……人の彼女をそういう目で見るのマジでやめろ」


 こんなこと言われてますよだいさん。

 まぁ、うん。目を引く大きさなのはね、分かるけどね。

 細身のスタイルなのが余計に大きさをアピールするからなぁ……。


 二人で過ごす我が家の夜のことを思い出したり……おっと、これ以上はやめておこう。


「一番おっぱい星人のくせに」

「な、何がだよ!?」

「写真だから加工か知らんけど、お前元カノだってめっちゃ巨乳じゃん」

「おい!?」

「え、何その話~?」

「あれ? あーす知らないんだっけか?」


 妄想しかけた俺に大和が悪意のない顔で切りだしてきた話題に、俺は一気に現実に引き戻された。


 そうだった!!

 昔二人で飲んだ時に、酔った俺は元カノの話になって、亜衣菜との話をしたんだった!!

 後悔先に立たずとは、まさにこのことか……!


「『月間MMO』見たことある?」

「あるよー。セシルちゃん可愛いよね~」

「それ」

「え?」

「倫の元カノ」

「ええ!?」


 顔を両手で覆う俺。誰か、誰か俺に転移魔法をかけてくれ!


「前になんか話あったのは、そういうことだったのか~」

「え? 何それ?」

「んーとね。セシルちゃんがコラムでゼロやんの名前出して、リダの動画1回炎上したんだよー。その時ゼロやんが話してやめてもらったんだけど、なるほどね~。そういうことだったのかー」

「ほうほう。そんなことあったのか」


 それはもうだいぶ前のような気がするけど、まだ1か月ちょっと前の出来事。

 たしかにあーすはオフ会に来たことなかったから、俺と亜衣菜の話を知らなかったか……!


「え、ゼロやんどこで知り合ったのー?」

「大学の同級生らしいぞ」

「おお、すごいなー」

「うむ。まったくこのモテ男が!」


 二人の視線を浴び、ぶくぶくと湯舟に沈む俺。

 だって昔の話だし。同級生だったのはたまたまだし。


「でもセシルとはタイプと違うけど、だいもほんと美人だよなー」

「うんうん。セシルちゃんの猫っぽい目もいいけど、なっちゃんのあのクールな目で見られるのは、悪くないよねー」

「え、そこ?」

「あれ? 僕だけ?」


 元カノと今カノの名前が出されるとは、なんという地獄か。

 ちなみにあーすがM気質だというカミングアウトをしていたことを知る俺は、この話題はノーコメントで。

 俺としては、だいの甘えてくるときの目の方が好きだけどなぁ。


「でも俺さ、どっちかっていうと、セシルとか可愛い系の顔が好きなんだよなぁ」

「となると、ギルドだとゆめちゃん?」

「うむ。普通にゆめは可愛いよな」

「ほうほう」

「あの顔で、けっこうおっぱいもあるじゃん?」

「お前そればっかだな」

「せんかんはゆめちゃん派かぁ~」


 そうだったのか。たしかにゆめも可愛い。

 俺も初めて会った時、あの可愛さとあざとさにやられかけたし。

 まぁ、今じゃもう恐れ多いけどね!


「僕も女の子の中ならゆめちゃん派だなぁ。ぐいぐいくる感じいいよね~」


 そして大和に続き、あーすもゆめ派だという。

 しかしあーすよ、女の子の中ならって何!?


「ゆっきーの天然な感じも可愛いけどなぁ。なぁ倫?」

「そのくだりいる!?」

「ゆっきーすごいよね~。彼女持ちのゼロやん相手に、臆さないというか」

「だいもだいで、あの距離感を許してるのがすごいよな」

「争奪戦って言葉聞いた時はびっくりしたよ~。ゼロやんの立ち回り重要だね~」

「わかってるっての……」


 たしかにゆきむらは可愛い。裏表なく、純粋に好意を向けてくれているからこそ、突き放せないというか、ついつい面倒をみようとしてしまう。

 これじゃいかんとは分かってるんだけどね……うーむ。


「でも、話しやすいのは圧倒的にぴょんなんだよなー」

「二人の波長、合ってるよねー」

「初対面の日から既に仲良かったもんな」


 第3回のオフ会で大和が初めてオフ会に来た日を思い出す。

 本当に、初対面とは思えないほど二人の波長は合っていた。

 大和の膝で寝ていたのを見た時なんか、こいつらこのままうまくいくんじゃないかと思ったくらいだしな。


「うーんでも色気というかね。異性というより、友達って感じが強いんだよなぁ」

「ギルドチャットでまな板ってみんなが言ってた意味は分かったなぁ」

「せめてジャックくらいあるといいんだけどなぁ」

「殴られろお前ら」


 ほんと、女性陣に聞かれてないからと好き放題だなこいつら。

 さすがに聞かれてなくても、俺はそこまで言えないぞ……?


「ほんとちっこい割におっぱいあるよなー。それにいつもにこにこして見守ってくれてるというか、性格も安定してるし」

「やっぱ結婚したのが大きいのかな?」

「いやー。会った日からあんな感じだったぞ?」


 大和のおっぱい発言には触れず、あーすの問いに答える俺。

 たしかにジャックはいつもどこか余裕を持ってみんなを見守ってくれていると俺も思う。LAの中じゃ圧倒的なプレイヤースキルがその余裕を生んでるのは分かるけど、リアルでも初めて会ったオフ会の時からそうだった。

 今日がジャックと初対面だった二人からすると、結婚前後で何か変わったと思ったのかもしれないが、俺からすればジャックは全く変わっていないし。あれがジャックという女性なのだろう。


「ゼロやんみたいに、せんかんが誰かとカップル第2号になる日もくるのかなぁ」

「まぁ、なるようになるだろ!」


 そう言って大和は笑っていた。


 結局はぐらかされるんだよなぁ、大和の話は。


 何となくぴょんとうまくいってほしいような気がするけど。

 実際大和は日焼けの度が過ぎるけどカッコいいし、好きな人からすればたまらないマッチョだから、もし実はひそかにゆめがそういう人がタイプだとしたら、その二人が、ってこともなくはないのかな。


「しかし温泉もこれはこれでいいけど、せっかく女の子たちもいるなら、次回はみんなでプールとか行ってもいいな!」

「えっ、いいなっ! 僕も行きたい!」

「水着姿なら合法的にいろいろ見れるし!」

「水着かぁ……いいねぇ」

「うむ。俺は大人の女性の水着姿が見たい!」

「……変態かよ」


 大和の発言にあーすも前のめりにリアクション。

 まぁこの反応してるうちは逆に安心なんだけど……。

 ほんと、どっちもありって感じなんだろうか……?


 しかし水着かぁ……うん。ちょっといいな。

 みんなの水着姿を妄想……って、いかん! これじゃこいつらと同類じゃないか!


「倫も今妄想したろ」

「え、いやっ! 違うっ!?」

「慌ててるって図星じゃーん」


 呆れ顔の大和の表情に全力で首を振るも、それが余計に怪しかったか、あーすが笑う。

 く……不覚!!


「さぁて、じゃあぼちぼち上がって、まずは浴衣姿のお姫様たちを堪能するとしますかっ」

「おっさんかよお前……」

「その言い方なんか卑猥だよー。でも楽しみだねー」


 まぁ、俺もみんなの浴衣姿は楽しみだけどさ……!


 大和の仕切りで揃って湯舟から上がり、さっと身体を流してから再び俺たちは脱衣所に戻る。


 ほんと、学生みたいな会話してしまったけど、まぁ男同士で集まるとこんなもんだよな。


 女風呂では、だいの話を中心に盛り上がっているのだろうか?

 俺と話したいって言ってたから、とりあえず風呂あがったらだいを待つか。


 旅館に用意されていた浴衣へ着替えつつ、俺はそんなことを思いながら、自分たちの部屋へと向かうのだった。




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以下作者の声です。

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 さすがに職業が職業なので、覗こうとかそういう展開はありません。笑

 男ならではのあるあるなトークをお送りしました。


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本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。現在は〈Airi〉と〈Shizuru〉のシリーズが完結しています。

 え、誰?と思った方はぜひご覧ください!

 

 3本目、こつこつ……頑張ります……。

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