第126話 ガンナーの本領

 18時32分。


「いやー、俺も知ったのは最近なんだって」

「まさかせんかんとゼロやんが同僚だったとか、ゼロやんの奇跡は男相手でも起きるんだな!」

「世界せま~い」

「びっくりですね」

「やかましいわっ」


 どうやらみんなは大和、みんなからしたらせんかんから既に俺との関係を聞いていたらしい。

 大げさにびっくりした顔をする大和にイラっとしながらも、俺はとりあえずみんなにツッコミを入れる。


「ゼロやんの学年にさ、LAやってる奴らいるだろ? あの男4人組のやつら」

「あー、いるな」


 うちの学年のゲーマーズのことか。俺を崇める可愛いやつらだ。


「この前日直で校内回ってたら、そいつらが教室残って動画見ててさ。何見てんだーって聞いたら、LAの動画で、しかも【Teachers】のだって言うじゃん? 懐かしい仲間だなぁって密かに思って一緒に見てたらさ、その中の〈Zero〉がお前だって教えてくれてさ」

「あいつらかー……いつ?」

「あー、テスト最終日だったかな。まさか元フレンドが一緒に働いてるとか、俺だってマジびびったって!」

「そりゃびびるよなー!」


 そう言ってばしばしとせんかんの背中を叩くぴょん。

 すごいなぴょん、ゲーム内でもまだ会ってまもないし、リアルなら初対面のくせに。

 酒の力恐るべし。


「すぐ復帰手続きはしたんだけど、さすがに期末直後は忙しいじゃん? だからちょっとひと段落してから復帰したんだけどさ。いやぁ、まさか倫がゼロやんとはなぁ。カミングアウトのタイミングは、サプライズってやつ?」

「倫ちゃんびっくりですね」

「ゆきむら!?」

「あ、ゆっきーその呼び方しちゃう~?」


 不意に隣から呼ばれた倫ちゃん呼びに俺は思わずゆきむらを見る。

 俺に見られていつもの顔のまま首を傾げるゆきむら。

 

 この子はほんと何を考えてるの!?


「……本当にそれだけが復帰のきっかけか?」

「え?」

よこしまな思いがあったんじゃないか?」


 なんとなくモヤモヤ収まらぬ俺は、大和に目線を戻してじっとこいつの目を見た。

 俺がいたからとか、それだけではないはずだ。

 俺にはその確信があった。


 たとえ同僚が元フレンドという奇跡が起きたとしても、いつもの大和を考えれば復帰するかは別として、すぐに俺に話しかけてきたと思うからだ。

 猪突猛進型だし。


 でもあえてのサプライズ狙いとか、回りくどいことをしたのは、きっとこいつが俺のギルドメンバーをリアルで見てたから。

 復帰した理由も絶対そう。


「お前、この前オフ会終わりの俺ら見たって言ってたもんな?」

「さ、さぁ? 何のことやら?」


 同僚とはいえ同い年の気の置けない友達だと思っていたのに、すぐに言ってくれなかった大和に俺はちょっとだけ嫌がらせめいた言葉をかける。

 

 え? 女々しいって? いいんだよこいつには。


「え、オフ会終わりって、いつ~?」

「新宿でやったとき。そう言ってたよな?」


 大和の顔に浮かぶ焦りの色。

 俺は覚えてるからな? お前が俺にずるいって言ってたの。


「め、女々しいぞ倫! だってお前ばっか女の人と遊んでてずるいじゃん!?」


 はい陥落。

 しかし清々しいほどにはっきり言ったなお前。


「お、なんだー? せんかんも独り身なのかー?」


 その言葉にぴょんがけたけた笑う。

 今のぴょんはまさに触らぬ神に祟りなし状態だから、タゲ標的が大和に向いてる状態はもちろん静観。


 さすがグラップラー盾役。タゲ管理ばっちりじゃん。

 さぁいじられてしまうがいい!!


「じゃああたしと付き合うか!」


 おっと! 酔っ払い暴走!?


「おおっ」

「あれ、ぴょんさん争奪戦は……?」


 ずっと笑いっぱなしのぴょんが再びばしばしと大和を叩きながら大胆発言。

 その言葉にゆめは面白そうに笑い、ゆきむらは……いつも通りか。

 

 しかし争奪戦はもう終わったんだよとかは、まだ言うタイミングじゃないよな。


「え?」


 ぴょんの発言を受けた大和は、ぴょんの顔を見た後にそっとその目線を下げた。

 どこを見たかは言うまでもあるまい。


 あー、死んだなこいつ。


「おい、殺すぞ?」

「え、まっ!?」


 おっぱい魔人の未来には、死あるのみ。

 ドスの効いた声を放ったぴょんの正拳突きグーパンが大和の肩をえぐる。

 ものすごく痛そうな顔をする大和。


 おいおい、グラップラー格闘使いはどっちだよ?

 でもまぁ、ぴょんへのまな板いじりはそうなるよ。うん。

 いやー、しかし俺以外にも男がいるとこんなに楽なんて!


 その光景に俺はもう満面の笑みである。


「すごいよね~、いきなり仲良しだ~」

「そうですね。でも、お二人はお似合いなような?」

「ね~、色も似てるし~」

「あたしはこんなに黒くないぞ!」

「いや、ぴょんも十分黒いだろ!?」

「あっ!?」


 すごいぞ大和。さらに燃料投下するとか、君は俺を楽しませる天才か!

 そして誰も今さらぴょんのまな板いじりをしないとか、俺らも大人になったなぁ。


 やばい。楽しい。

 標的が俺じゃないというこの空気、良い!!


「試合中もお前ら二人の声はよく聞こえたよ」

「ね~、割とすぐ意気投合してたよね~」

「そうですね。いきなり話しかけられた時はびっくりしましたが、ぴょんさんはすぐ打ち解けてましたしね」

「ほうほう、そうなんだ」


 目の前でイチャイチャ……ではなくぴょんの攻撃を一方的に受ける大和を眺めつつ、テーブル挟んだ安全地帯の俺たちはほのぼのとした会話をする。

 うん、これが攻撃を受けずに戦うガンナー銃使いのあるべき姿なのだよ。


 グラップラー盾役のくせにカウンターもできず、ウィザードアタッカーにフルボッコにされる光景は見てて楽しいもんだなぁ!


「いや、まじ、痛いから! おい、止めろよ倫!?」

「あ、俺ガンナーなんで」

「わたしもファイター斧使いだからな~」

「私も最近はファイター槍使いです」


 いや、ゆきむらは武士刀使いで盾役だろとか、そんなフォローはしないよ?

 みんなアタッカーだからね。しょうがないよね。


「残念、みんなアタッカーだからお前を救えない」

「ぴょ、ぴょん!? とりあえず! 倫まだ酒頼んでないから! 乾杯! 乾杯しようぜ!?」


 苦し紛れの大和の言葉に、ぴょんの手が一瞬止まる。

 これはあれだな、酒って言葉の力だな。

 てかそう言えば俺まだ乾杯もしてないじゃん。


「倫早く注文して!?」

「んー、何にしよっかなー」

「いや! お前いつも最初ビールじゃん!?」


 若干涙目な大和の願いを華麗にスルーする俺。

 攻撃が止まったのも束の間、やはり大和の視線まな板いじりはヘイトを爆増させていたようで、暴れ狂うぴょんの攻撃が再開。

 その光景に満足な俺は、満面の笑みで注文用のタブレットをゆっくり眺める。


「わたしも何飲もうかな~」

「私はもう1度ウーロンハイで」

「あたしビール!」


 そしてもうしばらく大和がやられるのを楽しみつつ、ようやくぴょんの攻撃も止まったところで、俺はビールを選択。

 きっと大和には、ぴょんへのNGワードが刻み込まれたことだろう。


 そして俺同様目の前のワンサイドゲームをまるでガン無視していたゆめとゆきむらを心の中で称賛しつつ、俺は両サイドからタブレットを覗き込んできた二人の注文も選んであげた。

 ぴょんもビールだし、ビールは3っと。


 いやー、しかし今日暑かったし、ビール美味いだろうなぁ……。

 今日勝ってれば、なお美味かったんだろうけど。

 まぁこれは今さらしょうがない。

 あいつらはよく戦った。それで十分だから。


 みんなと笑いつつ、ちょっとだけ、ちょっとだけセンチな気持ちになりながら、俺はビールの到着を待つのだった。




 18時46分。


「倫ちゃんおつかれ~かんぱ~いっ」

「「「かんぱーいっ」」」

「倫ちゃんはやめろっ!?」


 ゆめのまさかの乾杯の音頭に俺はビールを口にする前にツッコミを入れてしまう。

 でもみんなは気にせず各々自分の飲み物を口にする。

 しょうがないので俺も少し遅れてビールを流し込む。


 あー!! 美味い!!!

 ほんとこれは魔法の飲み物だな!!


 ちなみに新しいビールがきてぴょんは一旦落ち着いた。

 あれだな、餌をもらった動物的な感じ。


「今日の試合の話はだいが来てからするとして~」

「うん?」

「せんかんは、やっぱり大和って名前からキャラ名つけたの~?」

「おう! そうだぞ! やっぱ大和ったら戦艦だろ? いやぁロマンがあるよな!」

「さすが日本史の教員だな」

「せんかんさんは日本史の先生なんですか」

「おう! 倫と一緒の社会科だぞ!」

「いやー、わたしも高校希望すりゃよかったなー」

「わたしも東京に転職しようかな~」


 いやいや、普通知り合いが同じ職場なるとかないからな?

 って、俺が言っても説得力ないけどさ!


「ゆきむらは受かったらどっち希望するんだ?」

「私は……高校ですね」


 ちらっと俺の方を一瞥してから、ゆきむらが大和の質問に答える。

 え、何? 俺なんか関係あるの? それ。


「これはあたしも異校種間中学→高校異動希望するべきか?」

「え~、なんかずるいよ~」

「みんなで同じ学校で働いたら、楽しそうだな!」

「そんな奇跡起きるわけねーだろ」


 ぴょんとゆめの言葉を受け、楽しそうな顔を浮かべる大和に俺が呆れ顔でツッコむ。

 あれだけぴょんの猛攻を受けてもなおそんなこと言えるとは、こいつまさか、ドMか?


「でもたしかに、この中の誰かと働けたらいいなって思います」


 再びゆきむらの視線が俺に送られる。


 いや、だからさ、何なんだいゆきむらよ……。

 そんなゆきむらを見るぴょんとゆめも、何だか不思議な顔をしていた。


「だいはいつ来るんだー?」

「んっと、あ、通知来てたわ。もうすぐ新宿着くっぽいから、俺迎え行ってくるよ」


 ぴょんの言葉にスマホを確認すると、5分前に『電車乗った』とだいからメッセージが来ていた。

 だいを迎えに行くため、立ち上がる俺。


「いってらー」

「よろしくね~」

「え、グループの方通知来てませんけど?」


 ぴょんとゆめとは異なり、自分のスマホを確認したゆきむらだけ不思議そうな表情を浮かべる。

 おおう。あの馬鹿め、グループに送らんかい!


「え、ああ。ほら、大会関係で連絡取り合ってたから、それで俺に来たんじゃないかな?」

「そうなんですか」


 だいのいないところで実は俺たち付き合いましたとか言いづらいので、俺はとりあえずそう誤魔化す。

 頼む、信じてくれよ……!

 

「じゃあ、私も一緒に行きます」

「え? いや、いいよ。俺一人で大丈夫」

「私が行ったらお邪魔ですか?」

「おいおい倫、ゆきむらも早くだいと会いたいんだろ? 一緒に行ってやれよ」


 少しだけ寂しそうな(気がする)表情のゆきむらをフォローする大和。

 俺が立ち上がっているため、見上げてくるゆきむらの上目遣いが心に刺さる。


 くっ! こいつ、さっきの仕返しか……!

 

 このメンバーの中で俺とだいが付き合ってるのを知ってるのは、大和のみ。

 その情報を利用してきた大和へ俺は無言の睨みを送る。


 ニヤニヤしてる顔がむかつくわー。


「わかったよ、ゆきむら行こう」

「はい」


 寂しそうな顔から一転、嬉しそうな(気がする)ゆきむらも俺に続いて立ち上がる。

 部屋を出る時ぴょんとゆめも何かニヤニヤしてる気がしたのは、気のせいだったろうか?


北条倫>里見菜月『今から迎え行く。東口改札でよろ』18:59


 そうだいにメッセージを送りつつ、俺はゆきむらと一旦店を後にした。



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以下作者の声です。

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お知らせ

 本編とは別にお送りしている『オフ会から始まるワンダフルデイズ〜Side Stories〜』の更新を明日(2020/7/5)より再開いたします。

 本編で減ったきたあのパートをメインに描けるような、そんな人物を中心とした物語を展開します!

 

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