第114話 二人ミーティング

〈Daikon〉『おつかれさまでした。今日はちょっと先に落ちるね』

〈Pyonkichi〉『あれ、だいガンナー化計画は?w』

〈Daikon〉『また今度お願いね』

〈Yume〉『おやすみー』

〈Jack〉『じゃあねーーーーw』

〈Gen〉『火曜厳しそうなら、また連絡よろしくなー』

〈Yukimura〉『おつかれさまでした』

〈Soulking〉『おやすみー』

〈Zero〉『今日は俺も寝る』

〈Pyonkichi〉『おいおい、寝る時までセットかー?w』

〈Zero〉『俺もだいも朝から試合だったんだよ』

〈Gen〉『ほんとに一緒に仕事までしてんのかw』

〈Soulking〉『すごいねーw』

〈Yume〉『今日暑かったもんね~』

〈Yukimura〉『おつかれさまでした』

〈Zero〉『ということで、じゃ』


 キングサウルスと戦っている時から、ちょいちょいだいの「眠い」という声は聞いていた。それを何とか励ましながら討伐まで辿り着いたのだが、活動を終えるや否やだいはみんなへ落ちるログアウトする旨を伝えていた。

 当然合わせて俺も落ちるわけだが、ぴょんの発言が間違いではないのはもちろん秘密だ。


 パタン、とだいがノートPCを閉じ、背後にあるベッドにもぞもぞと登り出す。

 付き合う前なら絶対見せなかったであろう姿は、なんというか微笑ましい。


「流石に今日はちょっと眠かったわ……」

「朝早かったもんなー。おつかれさん」


 ギルドの活動を終えて、まだ日が変わる前の時間ではあったが、俺もPCをシャットダウンして、だいが横になるベッドへダイブ。


 この前と同じく、俺の右腕を枕にしてあげると、だいはちょこんと頭を乗せてくる。そうしてお互いが向き合う形で横になった。

 俺は左手でだいの頭を撫でてやりながら、眠た気な声に言葉を返す。


 ほんとは今日の試合についての話を聞きたかったんだけど、今はちょっと無理そうだな。

 この態勢、幸せすぎるし。


「理世先生って、ゼロやんの1個年上の先生なんだけど、もう子ども二人もいるのよ」


 理世先生……あ、今日月見ヶ丘で会った先生か。

 ほうほう、30歳前で、二児の母なのか。はえーなー。


「そうなんだ」

「子どもの写真、すごく可愛いの」

「子どもはなー、可愛いよなー」

「うん、いいよね、子ども」

「うんうん……うん?」


 気づくとだいがぴたっとくっついてきていた。

 二つの大きな山は、なんとノーガードのようで、とてつもない柔らかさが俺に当たってくる。


 あれ、お前眠いんじゃ……?


「私もいつか、子ども欲しいなぁ」

「……うん?」


 おいおい、いくら眠いったって、それは気が早いんじゃ……!?

 元々少なかった俺の眠気は木っ端みじんに吹っ飛び、自分の鼓動が馬鹿みたいに早くなるのを実感する。


「好きだよ、


 そう言っただいの唇が、俺に触れる。


 ああ、もう。


 とりあえず今はこの甘い時間に、溺れたいと思います。






 翌朝。

 どうやら今日は俺が先に起きたようで、俺の右側でだいは可愛らしい寝顔を浮かべていた。

 タオルケットがずれたせいで露わになった肩が冷えないように、タオルケットをかけ直してやりながら、俺はだいの頭を撫でてやる。

 どうやら外は雨が降っているようで、カーテン越しの外も薄暗く、今何時かすら分からない。


 しかしほんと、幸せに寝てやがるなぁ……。

 頬に触れても、軽くキスしてもだいに起きる気配はない。

 このままこうしているのもいいんだけど、昨日から助けてもらって、夕飯まで作ってもらって、何かしてもらってばかりだと思った俺は、ある発想にいきついた。

 

 朝飯、作ってみようかな。


 そう思えば善は急げ。

 だいを起こさないようにそっと右腕を頭の下から抜き、床に散らばってた服を着直して、俺はキッチンへと向かうのだった。




「……おはよう……」

「お、おはよ。起きちゃったか」


 俺がキッチンで卵焼きを作ってると、だいがガラガラとキッチンへのドアを開けて姿を見せた。

 とりあえず服は着なきゃと思ったのだろうが、寝ぼけてるせいかボタンを掛け違えた恰好は、普段のだいから考えると滑稽だった。

 あんまり朝弱いイメージはなかったんだけど、強いってわけでもないのかな?


「もうすぐご飯も炊けるから、炊けたら朝飯にしようぜ」

「……ありがと」


 そう言いながら、背中にピタッとくっついてくるだい。

 

 おい、どうした? 

 キッチンは戦場って、お前が言ってたんじゃなかったのか!?


「ど、どうした?」

「……起きたらいなかった」

「え?」

「起きるなら起こして」

「あー、なるほどね」


 起きたら横にいなくて、寂しかったのね。

 こいつ、ちょっと所じゃなくすげぇ甘えん坊なんだな……。


 卵焼きを作り終えた俺は皿に移し、火を止めてからくっついてくるだいの方に振り返り、だいの頭にぽんぽんと手を置く。


「とりあえず、朝ごはん食べよーな」

「ん」


 眠たそうな顔のまま、コクッと頷いただいの可愛さに悶えそうになったのは、もちろん秘密だぞ。




「ごちそうさまでした」

「おう」


 俺が作ったのは昨日だいが買ってきてくれた野菜を拝借して作った野菜炒めと卵焼き。味付けはだい好みで薄めにしたつもりだけど、大丈夫だったかな。


「美味しかったよ、ありがと。でも、卵焼き甘いんだね」

「あ、実家の甘くないの?」

「うん。うちが千葉だと少数派ではあるんだけど」

「ほうほう」

「でも甘いのも美味しかった」

「そりゃよかった」


 朝食を食べ終えて時刻はだいたい8時半。

 外は相変わらず雨が降り続いていて、今日は外に出るのも億劫な気にさせてくる。

 これは一日、冒険の世界にお出かけデートかなー。


 ちなみに朝ごはんを食べてる途中でだいはちゃんと起きてくれた。

 はっとしてからはいそいそと掛け違えたボタンを掛け直して、昨夜からずっとノーガードだった2つの大きな山にもガード装備を装着した。

 それでもやはり、そこに目が行くのは男のさがだともう開き直らせてもらおう。


「真面目な話していいか?」

「どうしたの?」


 朝食を片付け、とりあえず二人分のお茶を淹れてから、俺はテーブルを挟んでだいと向き合って座った。

 

「昨日の話」

「あ、試合の話?」

「そう」

「だいの目から見て、弱点はどこだったと思う?」

「そうね、市原さんがちゃんと投げれば、そう簡単には打たれなさそうだけど、ランナー出した時の動きはまだまだだったわね」


 少しだけ考えるような仕草のあと、だいは俺の目を見てそう伝えてくれた。


「あー、その辺か。そこは合同の時しかできねぇな」

「うん。あと2週間しかないけどそこらへんはやったほうがいいと思う」

「OK。他にはあるか?」 

「うーん、あと不安なのは、サインプレーかな」

「サインプレー?」

「ゼロやん、けっこうサイン出すの速いかもって思ったわ」

「あ、そうなの?」

「うん。星見台の子たちは慣れてるのかもしれないけど、うちの子たちあれで大丈夫かなって思った」

「なるほど。じゃあ、その辺の次の合同の時にゲーム形式でバッティングさせて、練習してみるか」

「うん。そうしましょ」

「OK」

「あとはもう、勝つも負けるも市原さん次第よ」

「まぁな」

「あと2週間、変なことしないでよね?」

「わかってるって……」


 そう言ってだいが笑う。

 それは少し前までは、想像もできなかった、自然な笑顔だ。

 

 泣いても笑っても、公立校大会は夏休み最初の土日なのは変わらない。勝ち上がっての決勝トーナメントはその2週間後だが、予選リーグで負けるような下手をすれば、2週間で終わってしまう。つまり、赤城たちの引退まであと長くても1か月。


 どのチームも3年間頑張ってきた部員がいるとは思うが、やはり今回ばかりは、自分の教え子にいい思いをさせたいのは、教師の性だろう。


 あいつらには、笑って引退して欲しいなぁ。


 最後に笑えるのは、1校しかないのは分かっているけど、それでもそう思ってしまう。


 出来ること、全部やってあげないとな。



 俺とだいはその後もオーダーについてなど細かいことを話し合い、ひとしきり部活のことについて話し合った。

 そして話を終えたあとは、外に出かけるような天気でもなかったので、予定調和のようにログインしてからの冒険デートをして、日曜日を過ごすのだった。




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以下作者の声です。

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お知らせ(再掲)

 本編とは別にお送りしている『オフ会から始まるワンダフルデイズ〜Side Stories〜』も更新されています。現在はepisode〈Airi〉をお送りしています。

 気になる方はそちらも是非お読みいただけると嬉しいです!

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