第96話 幸せなら手をたたこう!

 待て待て待て待て!!!

 うん、待て! 今何が起きた!?


 え!? 好き!?

 付き合ってください!?

 こいつ誰に言ってんの!?

 え、俺!?


 あ、告白の練習か?

 うん、そうだよな!?

 だってこいつ6年前から好きな人がいるって言ってたし。

 

 うん、きっとそう!!


 完。



 って、だいがこんな冗談言うわけあるかあああああああ!!!!!


 ってことは、つまり……これは俺は対する告白!?

 そうなるよね?!


 いや、告りたかったの俺なんですけど!?!?!?


 え?

 えええええええええええええ!?!?!?



 脳内大パニック。

 今キングサウルスに挑めば、全ミスするくらいのテンパり。

 いや、ドラキュラ伯爵にすら負けるかも。

 もうそれくらいのテンパり。



 俺はだいが告げた「好きです」に完全に困惑していた。

 脳内はこんななのに、身体は完全に固まっている。

 びっくりしすぎると本当に身体って硬直するんだなーとか、ちょっと余計なことまで考え出す始末。


 だから、俺の視線は動かない。

 真っすぐだいと見つめ合ったまま。

 

 だが、答えるのは俺の使命。

 俺はなんとか、声を絞り出す。


「……本気まじ?」

「冗談でこんなこと言うわけないでしょ馬鹿!!」


 絞り出た言葉のダサさに絶望した俺だったが、間髪いれずに返ってきた言葉は、俺の硬直を解いてくれた。

 だいの「馬鹿」のおかげで、一気に全身へ血が巡り始める。


 え、本気なの!?!?!?!?


 だが身体が動くようになるや、ワンテンポ遅れて全身から変な汗が噴き出す!


 暑い! いや、もうだ!!


 そして俺の脳内の留まっていた言葉たちが、氷解するように溢れ出す!


「え、待ってって! マジなの!?」

「ああもう! 何よそれ! 人が勇気出したのに、何なの!?」

「いや、待って脳が追い付いてない!」

「何でよ!? イエスかノーか言うだけでしょ!?」

「いやだって告りたかったのは俺の方――」

「――え?」

「あ」


 しまった、口が滑った! 

 でも、ええい、ままよ!!

 

 突撃あるのみ!!!!!


「え!? ちょっと待って! え、待って!」

「ああもう! 言う! 俺も言う!」

「え、待って、心の準備ができてない!」

「うるせえ知るか! 好きだ! 俺はだいが好きだ!!!」

「そんなヤケになった感じで言わないでよ!?」

「うるせえ! 何回でも言ってやる! 俺は! お前が!! 大好きだ!!!」


 深夜で近所迷惑になることなどお構いなしに、俺は大声を出してだいに愛を叫ぶ。

 一度口にすると、もう止まらんのだよ! 俺の想いは!!


「ほんともう……なんなのよ」


 だが俺の言葉を聞いて喜ぶとかそんなことはなく、だいは耳まで赤くしながら、なぜか俯いてぐったりしていた。

 

 俺? 俺の顔はもう絶対真っ赤だよ。聞かなくても分かるだろ!


「それはこっちのセリフだわ、なんだよお前、6年前から好きな人いるって言ってたじゃん!」

「はぁ?」

「そのせいで俺がどんだけショック受けたか知ってんのか!?」

「え、待って、本気で言ってる?」

「当たり前だろ!?」

「……ほんとにぴょんの言ってた通りだったのね……」

「何の話だよ?」

「うるさいこの鈍感!!」

「どっ!? はあ!? コミュ障に言われたくねぇわ!」

「いーえ! ゼロやんの方が鈍感です」

「なんなんだよ……って」


 なんつー顔してるんだこいつ。

 

 告白し合った直後に何故か言い合いになった俺とだいなのに。

 こいつはもう、それはもう幸せそうな顔をしていた。


 こんな顔みたことない。

 にゃんこの前ですら、こんな顔にはなっていなかった。

 にやけすぎて、可愛いすぎて――


 なんだよその顔、ずるいだろ!


 あ、やばい、つられて俺もにやけそう。

 てか、にやける!


 表情を我慢できたか分からないが、俺は今の顔を見られたくないがため、なるべくだいの方を見ないようにしつつ、自分の席から立ち上がる。

 そして彼女へ近づき――


「え!?」

「――いいだろ。好き同士なんだから」


 思い切りだいのことを抱きしめた。

 ベッドがだいの背もたれになってなかったら、もう押し倒してたね!


 抱きしめただいの髪は、なんだかいい匂いがした気がする。


「……うん。好き同士、なんだね」

「ああ」

「……私でいいの?」

「何で?」

「亜衣菜さんの方が可愛いし、ゆめも可愛いし、ゆっきーだって若くて可愛いし」

 

 おいおい、今さら日和るなよ?

 でも、しれっとここにぴょんを入れない辺りに、だいのセンスを感じるな。


「ぴょんだって面白いし」


 あ、別枠なのね!


「だいいいんだ」

「なんで?」

「なんでって……ずっと俺といてくれたのはだいだし、ずっと俺を支えてくれてたのも、だいだったし」

「男だと思ってたくせに」

「う、うるせえな!」


 抱きしめているから、顔が見えなくてよかった。

 こんなこと、顔見ながらじゃ言えないから。


「お前が女って知っても、お前といたい気持ちは変わらなかったから。……ずっといたいと、思ったから」


 ほんとはリアルで出会ってからの姿に惹かれたとかもあるけど、今は恥ずかしいから言わないでおこう。


「ふーん……」

「なんだよ?」

「ううん。好き」

「え?」

「好きー」

「おい、キャラ変わってないか?」

「好き!」

「お、おい!?」


 そう言って俺を押し返しただいによって、今度は押し倒される形になる。

 ちなみに俺の背後にテーブルがあるのは分かってたからな。

 ギリギリ身体の向きを変えて、回避には成功したぜ。


 おかげで、床に押し倒されてるんですけどね!


 全身に感じる、だいの重みと温もり。

 やばい、これ幸せだ。


 しかも、押し倒した俺の胸に顔をこすりつけてくるだい。

 今までも可愛かったけど、これはまた今までの印象と違って、めちゃくちゃ可愛い。


 もしかして、これがこいつの素?

 え、やっぱ末っ子育ちだから、甘えん坊だったりするの!?


 普段はものすごい美人の、クールなだいが、こんなに可愛く甘えてくるなんて、やばい。

 ギャップで悶え死にそう!


「ねぇ」

「な、なんだ?」

「好き?」

「……好きだよ」

「ふふーんっ」

 

 何この可愛い生き物!?

 やばいんですけど!?


 俺の「好きだよ」にさらに甘えたが加速したのか、だいはガンガンに俺に身体をこすりつけるようにくっついてくる。

 犬だったら尻尾ガン振り。

 猫だったら尻尾ピーンだな!

 

 ちなみに当然、だいの豊満なお胸も当たってるわけで、男としてこれはたまらない。

 というか、そろそろやばい。

 意識しないようにしてたけど、こんなんどうやったって反応しちゃうって!?


「……嬉しいな」

「え?」

「幸せなの」

「そ、そうか」


 もはや全くの別人なんじゃないかと思うような、だいの変化。

 でも声は、甘えた声になっていても、だいのものだ。

 あー、ずっと聞いてたいな、この声。


「なんか、甘いもの食べたくなっちゃった」

「え?」

「買いにいこ!」

「い、今から?」

「うん。ダメ?」


 だいが身体を起こしたので、身体が自由になった俺も身体を起こす。

 そしたらいきなりのこれだ。


 小首を傾げて上目遣いで「ダメ?」とか、反則だからな、それ!!




 こうして、お互いの好意好きを伝え合い、俺たちは晴れてからになった。

 6年前から、という言葉の意味はまだよくわかんないけど、どうやら俺たちは両想いだったらしい。

 付き合ったって言ったら、色んな奴らに色々言われるんだろうけど、もうなってしまった以上は仕方ない。


 これは俺とだいが選んだ答えだから。

 彼女の幸せのために、俺は俺にできる全てのことをやっていきたいと、そう思う。




 7月4日日曜日の、午前2時過ぎ。


 深夜の静けと引き換えに、太陽がくれたぬくもりはみな消え去り、少し肌寒さを感じさせる気温だったと思う。

 それでも、幸せそうな彼女だいと手を繋いでコンビニまで歩く道のりは、なぜだか温かいような、そんな気持ちにさせてくれた。

 昨日繋いだ手とは違う、今日は、今日からは好き同士の手繋ぎ。

 幸せって、こういうことなのかもしれないな。


 雲一つない夜空に浮かぶ美しい三日月すら、俺たちを祝ってくれているように感じられる。


 この幸せを、今は胸に抱きしめたい。


 夜空を見上げると、何だか幸せを叫びたい気持ちになってくる。

 何て叫ぶかって? そうだな……ここは強気に、うん!



 世界よ! 俺たちを祝福しろ!!!

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