第94話 君の幸せが僕の幸せ

〈Zero〉『あー、どんまい』

〈Daikon〉『うん』


 ギルドメンバー全員でギルドハウスに戻り、たろさんともこさんの総括的な話がギルドチャットで流れる中、俺はだいと個別メッセージで話していた。

 おかげで二人が何を言っていたかは全然覚えていないのは許して欲しい。

 

 でももし俺がだいの立場だったら、気まずくて回線不良と嘘ついて、パソコンの電源を落としてたかもしれないな。

 だいは責任感が強いから、重い雰囲気でもちゃんとギルドハウスに来ていたんだけど。

 なんていうか、偉そうに言うわけじゃないけど、偉いなって思ったよ。


〈Zero〉『初リーダーだろ?そんな落ち込むなって』

〈Daikon〉『うん』

〈Zero〉『失敗したことがあるから、成功のイメージもつかめるだろうしさ』

〈Zero〉『次の機会に名誉挽回すりゃいいって』

〈Daikon〉『俺には無理だよ』

〈Zero〉『おいおい、ネガネガティブなんなって』

〈Daikon〉『もう誰も指示なんて聞いてくんないだろうし』

〈Daikon〉『むしろ俺はいない方がいいんじゃないかな』

〈Zero〉『はぁ?』

〈Daikon〉『また迷惑かけちゃうかもしれないし』

〈Daikon〉『ギルド抜けようかな』

〈Daikon〉『野良でやってる方が気楽だし』


 畳み掛けるように表示されるだいの言葉ログ

 だがそれは、初めてだいが見せてくれた、弱気であり、本音だったように見えた。


〈Zero〉『お前それ本気で言ってんの?』

〈Daikon〉『うん』

〈Zero〉『冗談でもそんなこと言うな』

〈Zero〉『得手不得手があるだけの話じゃん』

〈Zero〉『俺とコンビのくせに、甘えてんじゃねぇよ』

〈Daikon〉『ゼロやんは、俺を買い被りすぎだよ』

〈Daikon〉『俺みたいなやつ、いっぱいいるって』

〈Zero〉『俺だけじゃない。もこさんもだいのこと高く買ってるぞ?』

〈Daikon〉『え?』

〈Zero〉『もこさん、だいを選抜パーティにいれたいって言ってたんだよ』

〈Daikon〉『嘘だろ?』

〈Daikon〉『そもそも、なんでゼロやんがそんなこと知ってんの?』

〈Zero〉『相談されたから』

〈Daikon〉『なんでゼロやんが?』

〈Zero〉『だって俺らコンビじゃん?』

〈Zero〉『だい、あんまし喋んないし』

〈Daikon〉『そりゃ・・・そうだけど』

〈Zero〉『で、だいは入れたいけど、やっぱガンナーのDPSじゃ選抜ファイターには及ばないから』

〈Zero〉『だいだけ抜いても平気か?って俺言われたんだよ』

〈Daikon〉『そう、なんだ』

〈Daikon〉『それで、なんて答えたの?』

〈Zero〉『決まってんだろw』

〈Zero〉『俺が選抜入れるくらい強くなるまで待ってくださいって言ったw』

〈Daikon〉『は?』

〈Zero〉『俺が選抜入るくらい強くなれば、一緒に選抜入れるわけじゃん?』

〈Zero〉『さすがにファイター級に削るのはしんどいけどさ』

〈Zero〉『ヒーラーなしとかさ、もっと人数減らして挑むとか』

〈Zero〉『そういう編成にすればガンナーの重要性に気づいてもらえると思うんだよなぁ』

〈Daikon〉『俺の気持ちは?w』

〈Zero〉『だってお前、俺いないと全然会話しねーじゃんw』

〈Zero〉『俺いてもほとんど話してるのみたことないけどw』

〈Zero〉『MMOなのにコミュニケーション取らないとか、NPCNon Player Characterかと思われるぞw』

〈Zero〉『意思の疎通はちゃんとしないとw』

〈Daikon〉『馬鹿にされてる気がする・・・』

〈Zero〉『じゃあ俺いなくて平気だったか?w』

〈Daikon〉『・・・無理』

〈Zero〉『だろ?w』

〈Zero〉『てか素直かよw』

〈Zero〉『でも俺も今日、アタッカーにだいがいないの、もどかしく思ったけどw』

〈Daikon〉『え?』

〈Zero〉『だいならもっと早く動いてたとか、そのスキルは使わなかったとか』

〈Zero〉『メンバーとお前比べちゃったわー』

〈Daikon〉『ふーん・・・』

〈Zero〉『やっぱ俺らコンビじゃん?』

〈Zero〉『セットじゃないと、ダメなんだよw』

〈Daikon〉『しょうがねぇなぁ』

〈Zero〉『え、おまいう!?』

〈Daikon〉『俺の代わりにコミュニケーションはゼロやんが取って』

〈Daikon〉『ゼロやんが一人分多くコミュニケーション取る代わりに、俺は何も言われなくてもゼロやんの考え通りに動く』

〈Daikon〉『これでいこう』

〈Zero〉『え、なにそれw』

〈Zero〉『俺話すだけの人みたいw』

〈Daikon〉『だから、これからは俺がいるパーティは、ゼロやんがリーダーやってよw』

〈Zero〉『まじかよw』

〈Zero〉『許可もらえるかな?w』

〈Daikon〉『人と話すのは君の出番だぞ?』

〈Zero〉『え、これも!?w』

〈Daikon〉『そうです』

〈Zero〉『えー、まぁ、しょうがねぇなー』

〈Zero〉『足りない部分は補い合うか』

〈Daikon〉『うむ。ゼロやんの分も俺が削るし』

〈Zero〉『おい、ガンナーの火力ディスんな!?』

〈Daikon〉『DPS低くて可哀想』

〈Zero〉『うわ、今それ言う!?』

〈Zero〉『全ガンナーに謝れ!w』

〈Daikon〉『www』

〈Daikon〉『ありがとね』

〈Zero〉『急に素直w』

〈Zero〉『どういたしましてw』

〈Zero〉『でもやっぱ落ち込んでるなんてだいらしくないしさ』

〈Zero〉『俺はだいと一緒にLAやってきたいし』

〈Zero〉『俺ら二人で、もっと上目指そうぜ、?』


 会話の途中で、だいが少しだけでも回復したのは、なんとなくわかった。


 というか今考えると、凹んでるだいを慰めるために、俺もけっこう恥ずかしいこと言ってた気がする。

 うん、たしかこの頃は、まもなく社会人1年目になる直前だし、22歳だったし、若気の至りだと思いたいね!

 



 でも、このあと俺がリーダーになってだいとパーティを組むことはなかった。

 

 理由は知らないが、このパーティシャッフルのあと、俺とだいはセットでもこさん率いる選抜パーティに呼ばれたからだ。

 選抜に選ばれたのが嬉しくて、社会人なってからも俺は張り切って頑張った。

 でも、結局はリアルとのバランスで1年が限界だったんだけどね。



 でも俺が【Mocomococlub】を抜けても、だいは変わらず俺とコンビでいてくれた。

 俺が相談したからか、だいもギルド抜けたけど、やっぱあいつには俺がいないとダメって思いはあったんだろう。

 直接聞いたことはないし、第1回オフで、本人が採用試験の勉強のためとか言ってたけど、本音は俺がいないとダメだったからだと思う。

 え、自意識過剰だって?

 でもほんと、だいの代わりに色々話を繋げるのは俺の役目だったんだ。

 俺が、だいの分も色んなやつと話して、だいのことを伝えてた。

 なんというか、当時の俺にとってだいは、可愛い弟分みたい感じだったんだよ。




 あー、懐かしいな。

 変わらぬコタンの丘の風景の中、延々とワーム型モンスターを狩り続ける俺とだい。

 既に狩り開始からゲーム内で一昼夜が過ぎ去った。

 

 また1匹と倒したところで、なんとなくだいの顔が見たくなった俺は、久々に後方を振り返る。


「な、何?」


 するとどうだろう、だいもちょうどこちらを見ていたようで、目が合った。


「い、いや別に」


 俺が振り返ったことでこちらに気づくことは予想してたが、まさか先に見られていたとは思っていなかった。

 そのせいか、変な恥ずかしさに照れてしまい、俺は再びモニターに視線を戻す。


 でも、やっぱり、相変らずだいは可愛かった。

 今度はモニター上の〈Daikon〉を見る。

 相変わらずこいつはイケメンだ。


 ずっと男だと思って接してきてたけど、もしだいのリアルがこんな美人だと知ってたら、俺はだいにあんなこと相棒宣言なんて、言えてたのだろうか。

 

 ……きっと無理だな。

 男だと思ってたから、こんなに長く付き合ってこれたのだ。


 【Mocomococlub】を抜けたあとも、【Teachers】に入ってからも、ずっと一緒にやってこれたのは、だいのことを里見菜月ではなく、〈Daikon〉として見てきたからだ。


 でも今の俺は、里見菜月女性として出会った彼女だいのことを、好きになってしまっている。

 俺にとって、だいは特別な存在だったんだと、思う。


 でも、こんな気持ちのままで、これからもこいつと一緒にやっていけるのだろうか?

 だいの恋が実っても、俺は変わらずだいと接していけるだろうか?


 考えれば考えるほど、自信がなくなる。


 すぐそばにいるけど。

 すぐそばにいたいけど。

 俺には、だいの恋心をどうすることもできない。


 だから、この想いを告げることはできない。


 教師になってだいも色々変わったとは思うが、こいつは基本的に人見知りで、話すのが得意じゃないのを知っているから。


 俺が告白なんかしたら、きっと困ってしまうだろうから。


 それなら、今の距離感でいたほうが、幸せかもしれない。


 人の幸せを願えない人間は、幸せにはなれない。

 

 だったら俺は、お前の幸せを願う想いを押し殺すよ。


 モニター上で協力しながらモンスターを倒していく〈Zero〉と〈Daikon〉を見ながら、俺は一人、そんなことを思うのだった。







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以下作者の声です。本編と関係ありません。

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 話の区切りの都合により、明日、明後日は(2020/6/4,5投稿予定)は1話掲載とさせていただきます。ご了承くださいm(_ _)m

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