第91話 廃人ギルドへの誘い
「ここで狩りしてると色々思い出すなー」
「ごめん、あんま話しかけないで」
「あ、わり」
コタンの丘の、城塞近くのエリアで、
入る経験値もちょうどよい感じ、倒すのもそんな時間がかからない。というか俺は高レベル装備のおかげでかなり楽だった。
でもだいは、いつぶりの銃なのか知らないが、照準合わせ作業に苦労してるみたいだな!
「ゼロやん、よくこんな武器ずっと使ってられるわね」
「慣れだよ慣れ」
「あー、肩凝りそう」
「ベストショットじゃなくても別に大丈夫だろ。その銃くそ強いし」
「そうか、これでかなり照準大きくなってるのよね」
「そうだぞ? その銃の補正は今後もあるけど、スコープ外したらもうちょっと小さくなるぞ」
「もっと補正が低い頃の銃で、もこさんのところで活躍してたなんて、ちょっと見る目変わった気がするわ」
「もっと褒めていいぞ?」
「はい、ちゃんと防いで」
「す、すみません」
話しかけないでって言ってきたくせに、自分から話しかけてきただいとの会話に気を取られ、俺はワームに何発か殴られていた。
死んだりはしないけど、HPは減る。うん、やっぱよそ見はよくないな。
でも、確かに今は装備が充実して、どんどん強くなってるけど、【
ゲーム全体でそうだったわけだが、たしかにだいの言う通り、よくやってたもんだ。
懐かしいな、もう7年前の夏か。
俺とだいが、もこさんのギルドに入ったの。
だいとフレンドになって、ほぼ毎日固定でスキル上げをしたから、俺たちの銃と短剣がスキルキャップなるまではそんなに時間はかからなかった。
俺がログインするとだいは毎日メッセージを送ってきてくれて、それが俺のスキル上げ募集の合図だった。
あの頃が一番主催やってたかもな。
で、銃と短剣が終わったので、俺はメイス、だいは樫の杖を上げ始めた。
アタッカーコンビよりも後衛コンビで募集する方が、正直簡単に応募が来たからスキル上げるのは早かったね。
ほんと、ほぼ毎日スキル上げをしてた気がする。
段々とだいも打ち解けてきて、6月になる頃にはだいの一人称も「俺」になり、敬語もため口になった。
まぁ相変わらず俺以外にはよそよそしかったけど。
ちなみにだいと打ち解けてきた6月といえば、俺は3週間ほど平日のログインができない時期もあった。
そう、俺のリアルでの大イベント、地元の
さすがにこの期間は忙しさと緊張で、金曜夜と土曜夜しかログインできなかったけど、それでもだいは俺が来た日は普段と変わらず接してくれてたっけな。
この段階で俺はだいに今大学4年で、教員志望、東京で教師をやるつもりだと告げていた。だいは、たしか千葉に住んでて、学生だけど就職先は未定って聞いてた気がするな。
そして教育実習と、7月にあった教員採用試験の一次試験を終えて、俺は半ば就職試験を終えた気になっていた。
大学での交友関係をささやかにする引き換えに、ひたすら勉強はしてたから、試験の手ごたえはあったし、二次試験は面接だから、なんとなくいけるだろって思ってた気がする。
今考えると、ほんと舐めてるよな。
教師なんて責任ある仕事に就こうとしてた人間の考えとは思えない。
ごめんな、こんなクズでも教師やってて!
でも、ログインすれば気の置けない相棒がいる。
亜衣菜ほどじゃないが、あの頃はかなり前のめりにLA生活を送ってた気がするな。
そして試験も終わった解放感からログイン時間を増やした俺は、だいが合わせてくれたのもあり、7月の中旬にはメイススキルを100まで上げ切った。もちろんだいも樫の杖が100になった。
2つもスキルキャップがあれば、十分活躍できる。
そう思って、俺は思い切って、だいにある提案をしたんだ。
〈Zero〉『一緒にギルド入らないか?』
〈Daikon〉『え、まじ?』
〈Zero〉『さすがに俺ら二人だと、取れる装備も限界あるしさ』
〈Zero〉『秋には拡張データ配信だし、それまでに今取れるものはとっておきたくない?』
〈Daikon〉『知らない人増えんのかー』
〈Zero〉『知らない人ってw仲間っていえ仲間ってw』
〈Daikon〉『どっか候補あるの?』
〈Zero〉『この前さ、スキル上げに来てくれたたろさんっていたじゃん?』
〈Daikon〉『〈Taro〉さん?』
〈Zero〉『そうそう。あの人にギルド入ってるか聞かれて、よかったらって言われたんだよね』
〈Daikon〉『どこ?』
〈Zero〉『聞いて驚くなよ?w』
〈Daikon〉『なんだよw』
〈Zero〉『【Mocomococlub】』
〈Daikon〉『は?』
〈Daikon〉『まじ?』
〈Zero〉『驚くよなwww』
〈Daikon〉『超大手じゃん!』
〈Daikon〉『無理無理無理無理!』
〈Zero〉『まぁそういうなってwとりあえず1回コンテンツ参加だけでもしてみようぜw』
〈Daikon〉『えー、やだなぁ』
〈Zero〉『俺とだいのコンビを、01サーバーに見せつける時がきたんだよ!w』
〈Daikon〉『なんだよそれw』
たしかこんな感じで話を切り出した気がする。
この時すでに【Mocomococlub】は【
今考えると、もこさんと亜衣菜の関係から、もこさんが俺にコンタクト取ろうとしたのかなとか、ちょっと思うところがないわけじゃないが。
とりあえず俺は渋るだいを強引に引っ張り、たろさんにコンタクトを取ったのだ。
うん、試験終わりの解放感もあっただろうね。
これで自由にLAできる! って思ってた気がする。
まだ就職決まったわけじゃなかったのにな!
〈Moco〉『たろから聞いてるよーよろしくねー』
〈Taro〉『いやぁ噂通りのプレイヤースキルコンビですよ!太鼓判押します』
〈Zero〉『噂、ですか?』
〈Taro〉『稼げる主催コンビってw』
〈Taro〉『おかげさまでボクもいい思いできましたw』
〈Zero〉『そんな噂なってたんですか?』
〈Taro〉『手際の良い
〈Taro〉『火力ある
〈Taro〉『うちのギルメンもけっこうお世話になったみたいですよw』
〈Moco〉『ゼロくんて、ちょっと前までけんろうのとこいなかったっけ?』
〈Zero〉『あ、はい。リアルで色々あって抜けたんですけど』
〈Zero〉『3月まで所属してました』
〈Moco〉『だいこんくんは、ギルド経験は?』
〈Daikon〉『ないです・・・』
〈Zero〉『あ、でもだいはかなり上手ですよ!』
〈Zero〉『俺レベルの視点では、ですけど』
〈Moco〉『ほうほう。二人とも、メインがサポーターとウィザード?』
〈Zero〉『いえ、俺はメイン
〈Daikon〉『はい』
〈Taro〉『お!うちガンナーほしかったんだよね!』
〈Moco〉『そうねー。あんまし上手い子いないのよねー』
〈Taro〉『ルチアーノさんとこの、セシルさんみたいに固定ガンナーいてほしいですねw』
〈Moco〉『あの子と比べるのは、可哀想じゃない?』
〈Taro〉『今日の腕前拝見ですねw』
初めて【Mocomococlub】のギルドハウスを訪れた俺とだいを迎えてくれたのが、仲介してくれたたろさんと、ギルドリーダーのもこさんだった。
あの有名なもこさんと初めて会った時の緊張ったら、いやぁ、今思い出してもすごかったな。
まだ亜衣菜は学生で、『月間MMO』のコラムを持ってたわけじゃないから、一部の人しか知らない存在だったわけだが、この時から【Vinchitore】の〈Cecil〉は名の知れたガンナーだったな。
まぁ今だからこそ、亜衣菜が【Vinchitore】に入った理由も、重宝された理由もわかるんだけどさ。
もしあいつが普通の野良プレイヤーだったら、俺とあいつの関係は変わってたのかな……。
って、今こんなこと考えてもしょうがねぇか。
〈Moco〉『じゃあ、とりあえず腕試しに、伯爵討伐やろっか』
〈Daikon〉『え』
〈Zero〉『大丈夫だって、だいならできるさ』
〈Daikon〉『ゼロやんと違って俺はやったことねーんだよ』
〈Taro〉『お!初ですか!それはいいw』
〈Moco〉『進行とか攻略とか、全部説明するから、言われた通りにやってみてねー』
〈Daikon〉『・・・わかりました』
〈Taro〉『おお、もこさんの言われた通りを実践できる自信ありとは!』
〈Taro〉『頼もしいw』
〈Moco〉『とりあえずタロはウィザードと
〈Taro〉『了解です!』
〈Daikon〉『あ、自分は短剣でいいんですか?』
〈Moco〉『うん。だってメイン武器なんでしょ?』
〈Daikon〉『はい』
〈Moco〉『ゼロくんも銃でー』
〈Zero〉『了解です』
そんなやりとりをして。
まさかいきなり
ちなみにだいからは、個人メッセージでの文句や不安が乱発してたのは、秘密だぞ。
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