第90話 初めての出会い

 だいたい7年前。俺はまだ大学4年生になったばかりの5月くらいだったかな。

 3月に亜衣菜と別れた俺は、4年に進級しても卒業に必要な単位をほとんど取り終えていたため、日中は大学図書館で教員採用試験の勉強、夜はLAという生活を送っていた。

 サークルも3年の秋でほぼ引退してたし、なんていうかあんまり人と関わろうとしなかった時期だった記憶がある。

 睡眠時間とかも、電気を消して暗い部屋に一人になると、想い出とか別れた辛さが襲ってきてネガティブになるから、あんま取らないようにしてた気がするな。


 うん、俺の中の黒歴史だ!


 そういうわけなので、21時くらいに家に帰宅し、ログインしてスキル上げパーティが募集されていれば、積極的に応募していた。

 当時だとガンナー銃使いは圧倒的に他のアタッカーより火力が低いイメージを持たれてたから、断られることも多かったけどな。

 でも装備をしっかりして、ちゃんとベストショットを連発できれば、ライト級近接アタッカーよりも火力は出せたんだぞ?

 一応亜衣菜と競ってたこともあり、俺も装備とかは気合いれたたからな。


 ちなみにここらへんのガンナー事情が変わったのは、亜衣菜が『月間MMO』にコラム持ち始めた頃からだったのは間違いない。

 〈Cecil〉の名が知れ渡ったことで、ガンナー人口はちょっと増えた。

 そして、被ダメ0で敵を倒せるというメリットも、プレイヤーによってはしっかり火力が出せるということも、かなりの人が知ることとなった。


 うん、この点については亜衣菜には感謝したいと思う。


 亜衣菜の登場以降、サポーターの主催の人なんかだと、パーティ全体の回復が面倒だからと盾1人にアタッカーとしてガンナーorアーチャー弓使い3人の編成に組まれたこともあったし。

 ちなみにそれはそれでけっこう経験値稼げたような記憶もあるぞ。


 っと、話がそれたが、つまり俺とだいが出会ったのはそんな頃。

 俺が絶賛ネガティブ真っ最中だった頃なのだ。

 初めての会話とか……こんな感じだった気がする




〈Zero〉『よろしくーっす』

Sobayaそばや〉『おう!よろしく!』

〈Daikon〉『よろしくおねがいします』

Yuugenゆうげん〉『よろー』

Robertロバート〉『よろしくねー』


 すげえありきたりな、普通のパーティ加入挨拶だな。

 俺とだいの初対面を飾ったメンバーは、そばやさんに、ユーゲンさんにロバートさん。もうずっと名前見てないプレイヤーだけど、移転か引退か、しちゃったのかな。

 まぁ今年で8年目だし、8年もずっと同じゲームやってることの方が珍しいか。

 就職で引退したってやつもいっぱいいるしな。


 たしかこの時のメンバーはそばやさんが武士刀使い・盾役で、俺とだいとロバートさんがアタッカー、ゆうげんさんがヒーラーだ。


 募集していたスキル帯は80前後。

 コンテンツへの参加ばっか繰り返してスキル上げを半端にしてしまっていた俺は、ちょうどソロになったことだし、いい加減スキルキャップまでスキルを上げてしまおうとか、そんなことを考えていた気がする。


 そうしてみんなで向かったコタンの丘。当時の移動とか、リアルで20分くらいはかかった気がするぞ。

 狩場にいくまでの会話は、連撃の順番とか、戦略的な話をした気がする。

 ただそばやさんがけっこう主催慣れしていて、色々提案してくれたから、みんな「おk」って言って戦略トークは終わったような記憶もなきにしもあらずだけど。


〈Sobaya〉『俺ガンナー受け入れたの初めてっすわw』


 このパーティの時に、そばやさんからこう言われたのははっきり覚えている。

 それだけ銃は不人気だったわけだが、その分俺のやる気スイッチが点火したからな!


〈Zero〉『え、じゃあ何で俺を?』

〈Sobaya〉『ゼロさんて、ちょいちょい伯爵討伐行ってるの見た気がするしw』

〈Sobaya〉『強いのかなーと思ってw』

〈Yuugen〉『すごー、私参加すらしたことないやー』

〈Sobaya〉『ゼロさん〈Kenrouけんろう〉さんとこのギルドの人でしょ?w』

〈Robert〉『そばやさん詳しいっすねー』

〈Sobaya〉『俺【Teamtokaiチームトーカイ】のメンバーだからw』 

〈Robert〉『おお、聞いたことあるギルドだ』

〈Yuugen〉『けんろうさんのギルドって、【Naturelessネイチャーレス】だっけ?』

〈Zero〉『そーっすね』

〈Zero〉『俺、3月で抜けちゃったんすけどね』

〈Sobaya〉『あ、そーなんだ!』

〈Yuugen〉『みんな強いギルドと関わってんだねー』

〈Robert〉『人それぞれでしょw』


 なんかこんな会話もした気がする。

 細かいセリフは脳内補完だけど、たしかそばやさんは俺が攻略ギルドにいるのを知ってたみたいだった。


 あ、そばやさんの【Teamtokai】も攻略ギルドだったよ。チーム東海かチーム都会なんだと思ってたら、ギルドリーダーが〈Tokaiトーカイ〉って名前だったから、そんな名前にしたとか聞いた気がする。まぁもうないんだけどね。

 

 で、俺が当時所属してた、ギルドリーダーけんろうさん率いたギルド【Natureless】は、メンバーが20人くらいもいて、MMO初心者だった俺に、MMOでも人間関係はあり、合う人合わない人がいるってことを俺に教えてくれたギルドでもある。

 ここに入った理由は、スキル上げパーティで一緒になったけんろうさんに声かけられたから。

 亜衣菜が大学3年の夏頃に【Vinchitore】に加入して、あいつとの温度差を少しずつ感じ始めていた俺にとって、あの誘いは朗報だった。

 亜衣菜が【Vinchitore】へ俺を誘わなかったことは今となってはありがたかったと思うが、やはり亜衣菜と比べて俺だけギルドに入っていないことは、なんとなく負い目を感じていたから、俺はその誘いに乗ったんだ。

 

 正直、亜衣菜のいないギルドならどこでもよかったんだけどね。


 まぁ俺が抜けて1年後くらいにはけんろうさんが引退して、ギルドは解散になったとか聞いたような気がするけど。もう【Natureless】時代のフレンドは、一人しか残ってないな。


 あ、ちなみに当時のだいは全然会話に入ってこなかった。

 これは覚えてるぞ。


 でも、このパーティはけっこういい感じに稼げた気がする。

 全然しゃべんないけど、だいに対してこの短剣使い集中力たけーなー、って思ったような、そんな記憶もあるな。


 だから。


〈Zero〉『よろしくーっす』

〈Daikon〉『よろしくおねがいします』

〈Journey〉『じゃあ、稼ぐぞー!w』

〈Zero〉『あ、だいこんさんじゃん、今日もよろしく!』

〈Journey〉『あれ?知り合い?』

〈Zero〉『昨日も組んだんすよー』

〈Journey〉『ほー』

〈Daikon〉『よろしくおねがいします』


 そばやさんとのスキル上げの翌日、ジャーニーさんのパーティでもだいの名前を見た時、珍しさからこんな感じで声かけた気がする。

 まぁ、だいのやつは御覧の通り、そっけない返しだったんだよな。


 でも、その日もやっぱりだいは高い集中力を見せた。

 コンテンツとかで見たことない名前だったから、ソロとか野良プレイヤーはそこまで強くないと偏見持ってた俺の固定概念を、壊してくれたのがだいだったな。


 そして。


〈Zero〉『よろしくーっす』

〈Daikon〉『あ』

〈Zero〉『おwだいこんさんじゃんw今日もよろしくw』

〈Daikon〉『こちらこそ』

〈Blackwhite〉『え、知り合いでござるか?』

〈Zero〉『3日連続でパーティかぶったw』

〈Blackwhite〉『なんと!それは奇縁でござるな』

〈Blackwhite〉『ガンナーと連続でかぶるとは、だいこん殿は数奇な縁をお持ちのようだ』

〈Zero〉『さりげないガンナーディス!?』


 3日連続で組んだ時は、もう笑ってしまった。

 この時初めて「よろしくおねがいします」以外の返事を聞いたんだよな。


 ちなみにブラックホワイトさんは、典型的なロールプレイプレイヤーで武器は苦無。忍者をイメージしてたんだろうなー。

 もう見なくなったけど、懐かしい。


 もちろん3日目もだいは安定のプレイを見せた。

 ほんとに、野良プレイヤーでここまで上手いやつは見たことがなかった。

 だから、そんな奴と3日連続でパーティがかぶったっていうことに不思議な縁を感じた俺は、パーティ解散後に直接だいへメッセージを送ったんだ。


〈Zero〉『おつかれっしたー。だいこんさんはどっかギルド入ってないの?』

〈Daikon〉『え』

〈Daikon〉『入ってませんよ』

〈Zero〉『もったいねーなwそれだけうまいのに』

〈Daikon〉『え』

〈Daikon〉『そうなんですか?』

〈Zero〉『え、俺に聞いてるの?w』

〈Daikon〉『客観的な強さとか、いまいちわからないので』

〈Zero〉『コンテンツとかも参加したことないの?』

〈Daikon〉『ないですね。スキル上げだけです』

〈Zero〉『え、ずっと!?』

〈Daikon〉『はい』

〈Zero〉『じゃあ、けっこうスキルキャップあったりする?』

〈Daikon〉『錫杖とメイスは100になってます』

〈Zero〉『うわ、すげえw』

〈Zero〉『だいこんさんなら普通に通用すると思うよ!』

〈Daikon〉『うーん、でも自分、コミュニケーションがちょっと苦手で』

〈Zero〉『そんなん関係ないって!この3日で俺、変に思ったこととかないし!』

〈Zero〉『寡黙なプロフェッショナルって感じ?w』

〈Zero〉『今日とか、組んだ時からまた稼げそうって思ったよ!』

〈Daikon〉『ありがとうございます・・・』

〈Daikon〉『ゼロさんも、あんなに外さないガンナーは初めて見ました』

〈Daikon〉『自分も、今日も強い人と一緒だ、って思ってました』

〈Zero〉『俺銃しかやってないからwでもまだスキルキャップじゃないんだけどねw』

〈Daikon〉『強かったと思いますよ』

〈Zero〉『そう言ってくれてありがたいw』

〈Zero〉『そうだ!フレ送ってもフレンド申請していい?』

〈Daikon〉『え』

〈Daikon〉『自分こんなつまらないやつですけど、いいんですか?』

〈Zero〉『プレイヤースキルに面白いつまらないは関係ねーだろw』

〈Zero〉『俺は上手い人とフレンドになれてラッキー。それでよくない?w』

〈Daikon〉『そういうものですか・・・』

〈Daikon〉『フレンド登録ってどうやるんですか?』

〈Zero〉『まさか初フレンドかw』

〈Zero〉『まってね、今申請するから、ログでたら〈yes〉って打ってー』

〈Daikon〉『わかりました』

〈Zero〉『ほい、送信したよ!』

〈Daikon〉『これでいいですか?』

〈Zero〉『うん、OK!』

〈Daikon〉『えーっと、これからもよろしくおねがいします』

〈Zero〉『固いw面白いじゃんw』

〈Daikon〉『面白い、ですか?』

〈Zero〉『うんwそうだ、明日からログインかぶったら固定組もうぜ!』

〈Daikon〉『固定?』

〈Zero〉『っても俺ら二人だから、コンビかw』

〈Daikon〉『固定とは?』

〈Zero〉『あーっと、毎週何曜日の何時に必ず集合とか、特定のメンバー間で、ゲーム内で活動を約束することだよ!』

〈Zero〉『今だと、俺とだいこんさんで、ログインかぶった時に、スキル上げしようぜって提案!』

〈Daikon〉『いいんですか?』

〈Zero〉『もち!俺が主催するからさ、俺の銃とだいこんさんの短剣が100なるまで、一緒にあげようぜ!』

〈Daikon〉『わかりました』

〈Zero〉『じゃあ、21時半にログインかぶったらでいい?』

〈Daikon〉『はい』

〈Zero〉『なんだったら次の武器スキル上げも一緒でもw』

〈Daikon〉『次は樫の杖を上げようと思ってます』

〈Zero〉『俺はメイスかなー』

〈Zero〉『って気が早いかw』

〈Zero〉『じゃあ、とりあえず、だいこんさんって呼ぶの長いから、だいって呼んでいい?w』

〈Daikon〉『え、あ、はい』

〈Zero〉『じゃあだいでw俺は、前いたギルドだとゼロやんって言われてたから、さんじゃなくてやんでw』

〈Daikon〉『ゼロやん

〈Zero〉『素で!?w』

〈Daikon〉『あ、ゼロやん』

〈Zero〉『だい面白いじゃんw』

〈Zero〉『これからよろしくな!w』

〈Daikon〉『面白いとは・・・』

〈Daikon〉『不束者ですがよろしくおねがいします』

〈Zero〉『嫁入りかよ!w』


 こんな感じで、俺とだいはフレンドになった。

 懐かしいな。最初はほんと余所余所よそよそしいというか、壁は感じた。


 でも、だいがだいって呼ばれるようになったのは、そういえば俺がきっかけだったんだな。


 ネガティブ期だった俺だけど、だいとフレンドになってから、俺はちょっとLAへのログインが楽しくなったような気もする。

 亜衣菜と別れた喪失感から、俺は女の子と関わることすら嫌になってたし、だいが男キャラだったから、だいは男なんだろうと短絡的に考えていた。

 大学でもバイト先でも、みんな俺が失恋したって知ってたから、気を遣われてたのも嫌だったんだ。


 だから、LAの中で面白い男友達ができた、だいとフレンドになった時の俺は、そう思ってんだよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る