第88話 第一次産業より第二次産業の方が販売価格は高いのは経済の基本
「ねぇ」
「ん?」
「スキル上げしに行かない?」
「え、今から?」
「うん」
時間は既に23時過ぎ。
こいつどうするんだろとか思ってた俺だけど、まだうちでログインを続ける気のだいに俺はちょっとだけびっくりした。
久々に振り返ると、だいの方は至って平然とした表情を浮かべている。
見慣れない眼鏡姿のだいと見つめ合ったことで、思わず俺は照れてしまい目をそらしてしまった。
「ん?」
そしてさらに首を傾げるとか!
ああもう、無意識に可愛いをやってんじゃねぇよ……!
「も、もうけっこう遅いけど、大丈夫なのか?」
「昔なんてまだ数時間スキル上げしてることもあったじゃない」
「そ、そりゃそうだけど」
「もう若くないから厳しい?」
「そういうことじゃねーよ!」
ちょっとだけ悪戯っぽい表情を浮かべただいに、俺は顔を赤くしてツッコむ。
お前のこと心配してやってんだよ……!
とは言えないけど。
でもたしかに、昔はこんな時間まだまだ序の口だった。
特に学生の頃なんか、気づけば外が明るいということもあった。
まぁそれもだいが男だと思ってたからだけど!
とりあえず俺は明日は日曜だからなと自分を無理矢理納得させる。
「あー、行くならちょっとバザールみる」
「あ、装備揃えるなら私お金出すわよ?」
「いらねーよ、俺が使うんだし」
「うーん、じゃあ1個だけ買ってあげる」
「いらねーって」
「私、たぶんゼロやんより
「う……」
勝った、という顔でちょっとドヤ顔になるだい。
たしかにだいは俺よりリブラを多く持っているとは思う。
俺は製作系スキルはからっきしだが、だいはかなり高位の防具製作スキルを持ってるから、ボスが落とした素材系アイテムを使って高価な防具作って売ったりしてるのだ。
俺もよく防具作ってもらってるし。
で、自分で使ったり人にあげたりしない防具は売りに出すわけだが、そういうプレイヤーが不用品や金目のものを売ったりする場所が、バザールだ。
どのプレイヤータウンからでもアクセスできるし、同一サーバー内であればゲーム内で対面しなくてもアイテムの売買を仲介してくれるシステムとなっている。
「だいって、いくら持ってるの?」
「んーと、今は……13億だって」
「うっそ!?」
まじかよ!
俺の20倍近いじゃん!!!
そりゃ俺は売れる装備品手に入った時とか、素材そのもの売るしか金稼げないけど……すげぇな職人、恐るべし……!
「かぶらないように先に一つ買ってあげるから、一緒に行きましょ」
「……はい」
完全なる敗北感を味わいつつ、俺は再びモニターの方に向き直り、プレイヤーホームから〈Zero〉を移動させ、バザールへ向かわせた。
俺がバザールに着くと、すでにだいは着いていたようだ。
「じゃあ、これあげる」
先に買い物を済ませていたようで、だいからのトレードが申請される。
一体何買ってくれたんだろ?
だいからのトレード申請を許可すると、だいから俺へ渡されるアイテムが表示されるアイテムボックスに、複数のアイテムが表示された。
「え、1個って言ったじゃん」
「買ったのは1個よ」
「え」
てか、うわ、マジか!!!
「防具は出品してたやつとか、出品予定だったやつだし」
「いや、お前……」
思わず振り返ったが、きっと俺、若干引いた顔をしてる。
だいはだいで、何か? みたいな真顔だけど。
俺に渡そうとしてきていたアイテムで一番高いのは、天帝の盾という、この前〈
受け取ってから恐る恐るバザールで取引履歴を見ると……たった今900万リブラでだいが落札した記録が残っていた。
さすが、使用者の少ない槍より、使用者が多い盾の方が、買う人も多いってことか……。
ちなみに正式には盾&片手剣なので、装備すると片手剣もセットでついてくるんだが、LAでのメイン機能は盾なのでアイテム名は盾の名しかつけられていない。剣は大剣があるからなんだろう、たぶん。
この盾の性能は盾スキル+70、HP+1000、防御+300、命中+150、消費MP5%軽減、ヘイト+30%、全ダメージ耐性+30%等々。攻撃性能はほぼ皆無だが防御面に特化したかなりの高性能。リダの持つキングサウルスのドロップ品には劣るが、あれよりもHPブーストは上みたいだな。
そして他に渡してきたのは、クルセイダーズ装備と呼ばれるフルプレートアーマー一式。
しかも頭部、上半身、下半身と3部位のフルセットだ。
全部位の製作に高額素材のヒヒイロカネを複数個使う、高位の防具製作職人にしか作れない装備で、バザールで確認すると、取引価格は頭部が100万、上半身が250万、下半身が150万はするらしい。
総額1400万リブラという、俺の所持金の20%相当のアイテムを、さらっと渡してくるだいに、俺は言葉を失った。
でもこいつからすると、1%くらいしかかかってないんだよな……だい恐るべし。
「装備してみてよ」
「は、はい」
俺はもう萩原のこと何も言えないな。
なんていうか、すごいヒモになった気分だ!
言われるがままに俺は〈Zero〉に渡されたアイテムを装備させる。
黒を基調としたレザーアーマー系の恰好から、十字軍の鎧を模した、白を基調としたいかつい鎧姿にチェンジする〈Zero〉。頭部はオープンフェイスのバーゴネットだから顔は見えるけど、髪とか完全に見えなくなったな。
「なんか、変な感じね」
「俺も違和感だわ」
「でも似合ってるわよ?」
「そうかー? 動き重そうだなー」
まぁ見た目だけで、移動速度とかは全く変わらないけどね!
しかしこれで装備だけ見れば、たぶんあーすと同じくらいのレベルにはなれているだろう。ヘイトを下げにくくしたり、HPをブーストする譲渡不可のアクセサリーはないから、そこらへんであーすよりは劣るかもしれないけど、盾自体はたぶんあーすの使ってるやつより上だと思う。
あれだな成金パラディンって感じだな!
しかし、俺もだいに何かあげないと気が済まないなこれ……あげれるもの、あげれるもの……うーん、浮かばん。
俺が使ってる装備は大半が譲渡不可だし、だいに渡せるものがない。
うーん、どうしたものか。
「お礼とかいいからね」
「え?」
おいおいお前もエスパーかよ!
うちのギルド、心読めるやつ多くない!?
「その代わり、スキル上げ付き合ってくれればいいから」
「そりゃそうだろ。そのためにアイテム買いにきたんだから……っても、全部買ってもらったけど」
だいと直接話しつつ、俺はこそこそとバザールで盾役用の買えるアクセサリーを買っていく。
しかしやっぱ重要な役割を担うだけあり、銃とか弓用のアクセサリーより、高額なのが多いなー。
譲渡不可のドロップ品には劣るが、ヘイトを下げにくくしたり、魔法耐性を上昇させる装備を買いつつ、〈Zero〉に装備させていく。
総額300万くらい使いつつ装備を揃える。
やはり装備が揃うとそれなりに盾役をやりたくなってくる。
〈Zero〉もついに盾デビューか。
まぁ、他の役割を知ることで立ち回りへの理解も深まるし。
中世の十字軍よろしく、重厚な装備に身を包んだ〈
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます