第84話 電波は自由
20時半前。
ギルドの活動時間まではあと30分ほど、洗い物を終えてそろそろログインしないとなと思った俺が部屋に戻ると。
「え、何してんの?」
「あ、ちょうどよかった。パスワード教えて」
「はい?」
「接続できないじゃない」
「え、ここで?」
「そうだけど?」
「え、え?」
前髪をピンで左右に分けて、ブルーライトカットだろうか、薄っすら色のついたレンズの眼鏡をかけただいが、至って真顔でこっちを見てくる。
前髪分けも、眼鏡姿も、ものすごい新鮮というか、ザ・家姿って感じがしてたまらない。
もし俺が彼氏だったら、可愛すぎて抱きしめてるレベルだ。
って、そういうことじゃない!
え、電話でwi-fi確認してたのって、そういうことだったの!?
スマホで動画見る程度かと思ったけど、え、うちでログインすんの!?
食事をしたテーブルの上に置かれた、1台のノートパソコン。
それはこの前だいの家でみたパソコンに違いない。
ちゃっかり電源コードを接続してるし、USB接続されたコントローラーもあるし、あの大荷物の中にはこいつも入ってたのか!
「こ、これ」
「ありがと」
押しに弱い俺はだいにパスワードが書いてある紙を渡す。
それを受け取っただいが手際よくタイピングしてパソコンをネットに接続する。
その様子を突っ立って眺める俺。
え、ご飯作って終わりじゃないの!?
いや、まだいれるのは嬉しいけど……まだ帰ってもログイン間に合うよね!?
「ほら、ゼロやんもログインしなさいよ」
「お、おう」
だいはテーブルを少しずらし、ベッドを背にする形でクッションをしいて床に座っている。あ、ちなみに飯の時から俺用のクッションをだいに貸してたからな!
幸い俺のPCデスクは、だいを背にする形になって視界には入らないのだが、背中越しに誰かいながらログインするって、なんか緊張する……!
同じ部屋で誰かとログインするとか……亜衣菜と半同棲してた学生以来か……。
あの時は横並ぶに座ってたけど、だいの視界に俺はいて、俺の視界にだいがいないのは、ちょっとなんか、やりづらい!
再び襲ってきた緊張感を覚えつつ、俺はPCを起動し、LAへのログイン操作を行う。
PCの起動音が、静かな部屋の中に響いていく。
「デスクトップだと、やっぱりスクリーンが大きくていいわね」
「ん? ああ、そ、そうだな」
「私も買おうかなぁ」
「むしろそのサイズでよくやってると尊敬するよ」
「別に、慣れれば平気よ」
背中越しに話しかけられ、俺は相手の目も見ずに言葉を返す。
なんだこれ、すごい違和感!
一人暮らしの寂しさを埋めるために続けている
「あ、もうみんないるわね」
「そうみたいだな」
〈Daikon〉『こんばんは』
〈Zero〉『うぃーっす』
〈Jack〉『やっほーーーーw』
〈Pyonkichi〉『うわ!同時ログインとか!』
〈Yume〉『すごいタイミングだね~』
〈Yukimura〉『こんばんは』
〈Gen〉『おうwあーすがまだこないか』
〈Soulking〉『今回も楽しかったみたいだねーw』
ギルドには、あーすを除くみんなが揃っていた。
嫁きんぐの口ぶり的に、ぴょんとかゆめがもうオフ会の話してたのかな?
ちなみに同時ログインについてはノーコメントだぞ。
「夜中までみんなと一緒にいたなんて、不思議な感じね」
「そ、そうだな」
〈Gen〉『いやーwしかしゼロやんはいいなぁw両手に花どころじゃなかったんだってw』
〈Zero〉『え、あ、いや』
〈Pyonkichi〉『6Pだよ6P』
〈Zero〉『おい!!!』
「……いつもそうやって顔にでてるんだ」
「え、あ! み、見んなよ!」
ぴょんの言葉でモニター越しに焦りながら
くそ、俺は向こうの顔が見えないから、やりづれぇ!
〈Gen〉『いいなーw俺も混ぜてほしかった』
〈Soulking〉『あん?』
〈Gen〉『ごめんなさい』
「ふふっ」
あ、だい笑ってる。
俺も思わず笑っちゃうようなリダ夫婦の会話だが、なんだよこいつ、人のこと言えねーじゃん!
「ほんと仲良いわよね、この二人」
「だなー」
「いい夫婦ってのがよくわかる」
夫婦ね、うん。リダ夫婦はいい関係だと思う。
じゃあ、付き合ってるわけじゃないのに、俺んちに二人きりでいる俺らって、どんな関係なんだろう。
そう聞いてみたいけど、その答えが怖い。
答え次第じゃ、今日は活動どころじゃなくなるだろうし。
あーもう! 今日ミスっても俺のせいじゃねえからな!?
〈Yume〉『ゆっきーも可愛い子だったよ~』
〈Yukimura〉『いえいえ、ゆめさんの方が可愛いです』
〈Jack〉『みんな可愛かったーーーーw』
〈Daikon〉『うん、みんな可愛かった』
〈Pyonkichi〉『えへっ』
〈Zero〉『ダウト』
〈Pyonkichi〉『おい巨〇ン殺すぞ?』
〈Zero〉『やめろ!!!!!』
「は?」
「違う! 何もない!」
「ふーん……」
何という爆撃!
いや、この状況って、もう地雷原じゃん!
やめろぴょん! マジで変なこと言わないで!!
〈Gen〉『おいおいガチ6P?』
〈Yukimura〉『6ポイントって何ですか?』
〈Yume〉『ゆっきーは天然だな~w』
〈Pyonkichi〉『教えてしんぜよう』
〈Zero〉『やめろ!!!』
〈Soulking〉『いいなーw早く宇都宮きてーw』
〈Daikon〉『早く行きたいね』
〈Yukimura〉『結局6Pとは・・・』
〈Zero〉『分からなくていい!』
相変わらずのこいつらだが、相変わらずが心地良い。
やっぱり今回のオフ会も、色々あったけど楽しかったな、改めて、そう思える。
室内に響く
回線の違いからか、俺とだいのPCからそれぞれ流れるBGMは二重に聴こえるものの、僅かなずれを含んでいる。
楽しい会話のはずなのに、そのずれはまるで俺とだいのすれ違いのように思えて。
あー、ほんともう、俺の気も知らないで……!
背中越しにいる存在に密かに毒づきつつ、俺は目の前のモニターに集中するよう、自分に言い聞かせるのだった。
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