第64話 家に帰るまでがオフ会ですが

「ごめんね~~。明日朝からくもんと会うからさ~~、あたしはお先に失礼するね~~」

「うん、楽しかった。気を付けて帰ってね」

「ジャックはいい相手がいていいなー!」

「くもんさんとどこ行くの~?」

「あ、リアルじゃないよ? LA内だよ~~?」

「そっちかい!」


 見事に騙された俺たち全員だったが、ジャックとゆきむらも含めてTalkの連絡先を交換し、最年長ジャックは一足先に帰っていった。

 まぁそんな遠くに住んでるわけでもないし、そう遠くない時期には会えるだろう。


 うん、ジャックはいい奴だった!


「じゃあ名残惜しいけどお開きに――」

「は?」

「え?」

「おいおい、わざわざ金曜にした意味考えろよ!」

「え、明日休みだから、だろ?」

「明日休みだからだろ!」


 いやどういうことだよ?

 俺の言葉に突っかかってくるぴょんに俺が疑問を浮かべると、ゆめが俺に近づき、俺の腕を取った。

 ちょっともうこれに動じない俺がいるから、慣れってこわい。


 しかし、駅近くで女性4人に囲まれる俺って、どういう風に見えるんだろ?

 なんか、けっこう見られてる気するよな……だいが美人だからかもしれないけど!


「カラオケ、予約しているでありま~す」

「ナイスだぞゆめメンバー!」

「おお、私カラオケ久しぶりです」

「ゼロやんは強制だよ~」

「ってことは、だいも行くよな?」

「べ、別にゼロやん関係なく行くわよ!」

「よし、じゃあ行くぞー!」


 相変わらず俺に拒否権はないらしい。

 ま、解散するのをちょっとだけ寂しく思ってたのは事実だし、別にいいんだけどさ。

 俺は家近いから余裕だし。

 みんな終電とか、何時なんだろ?


 ゆめに加え再び俺の腕にしがみついてきたぴょんを見て、だいはあきれた顔をしていた。

 ゆきむらも……いや、ゆきむらは変わらないぽーっとした表情か。

 俺? 俺はもちろんあきらめ顔だよ。

 そんな4人で、夜の新宿の街を進む。

 

 しかし、こんなとこ誰かに見られたら、やばいよな!

 ま、こんだけ人で溢れてたら、知り合いいてもわかんなそうだけど。




「相変わらずうめーなー」

「えへへ~それほどです~」

「さすが音楽科の先生ですね」


 カラオケでは適当にお酒を注文しつつ、俺たちはまずはゆめの美声を聞いていた。

 流行りの女性アーティストの曲だったが、なんというかゆめの方が迫力があった。

 小柄な身体なのにどこからあの声がでるのか、不思議である。


 続いてぴょんがちょっと年代古めの男性グループの歌を、だいが女性シンガーソングライターの歌を歌う。

 二人ともプロ並みとかではないが、普通に上手い。

 だいの歌う姿とか、歌声とか、この前はカラオケ来なかったら初だったけど、普段は見れない姿で、可愛かったな……。


 続いては俺。少し前にドラマの主題歌にもなった4人組男性バンドの歌を歌う。

 自分でいうのもなんだが、まぁ可もなく不可もなく、という感じだったと思うぞ。


「私、カラオケ本当に久しぶりです」

「いつぶりなの~?」

「小学生、でしょうか……1度だけ家族と行ったことがあるんですけど、それ以来一度も行ってないです」

「まじかよー、若いのに」

「若さって関係あるのかしら……?」


 ゆきむらがいれたのは、ちょっと前に流行ったアイドルの歌。

 選曲にも驚いたが、まぁ、歌声が全てを持って行ったね。


「……なるほど」

「本人楽しそうなら、いいんだよ~。歌ってそういうもんじゃん?」

「音楽科の先生の言葉には重みがあるわね……」

「個性的、とも言えるもんな」


 まぁ、会話から察してくれたと思うが、すごかった。

 色んな意味ですごかった。

 見た目からは想像もできない声量と、とても歌い方。

 まぁ、本人が楽しそうだからな! たぶん!

 ゆめが言う通り、俺たちはプロじゃないんだし、楽しければいいだろ!



「あ、コスプレ衣装とかあるみたいだなー」

「あ、どうするー? ゼロやんどれか着てほしい~?」

「わ、私はいやよ!」

「でも、けっこう可愛いですね」


 歌もそこそこに歌いつつ、室内にあるレンタル衣装のカタログがあることに気づくぴょん。

 ちなみにカラオケの席はコの字型で、左右にぴょんとゆめ、だいとゆきむらが座り、俺はまるで接待されるように横長のソファーに一人で座ってい

 今は、みんなぴょんが見始めたカタログに集まってるけど。


「社長さん、何がお好みですかー?」

「うわ、でたよ酔っ払いの悪ノリ」

「元カノコスプレイヤーなんだから、絶対ゼロやんも好きそうなのに~」

「やめろ! 変な話題出すな!」

「卑猥」

「だいさん!?」

「ゼロさんはコスプレ好きなんですか」

「ほらもう! ゆきむら勘違いしちゃうから!」


 まぁ間違ってはないんだけどね!

 俺の名誉のために、さすがに秘密にさせてもらうけど!


「あ、じゃああたしら適当に選んで着替えてくっから、ゼロやんが一番好きな衣装選んだやつが、カラオケ代ゼロやん持ちにしようぜ!」

「おお、面白そう~」

「私もやるの……?」

「ゼロさんの好み、なんでしょう……」

「え!? 俺の同意は!?」


 だいはちょっと嫌そうだったが、ノリノリのぴょんに腕を取られて連れられて行った。

 部屋に一人残される俺。そして強制的に二人分払わされることが決まる俺。

 いや、でもみんなそれぞれタイプが違うし、ちょっと楽しみだから……いっか……


 うわ、しかし急に一人になると、寂しいなー。

 歌うのもなんだし、ソシャゲでもやってるか……。


 そう思って俺がスマホを取り出すと。


 ブブッ

 

 うお! びっくりした、なんてタイミングで通知くんだよ。

 土曜の夜に、誰だって、うわ亜衣菜か。

 いや、うわ、ってのも失礼だけど。


武田亜衣菜『明日明後日あたり休みだしーって思ったんだけど』

武田亜衣菜『りんりんがになったりしてたらごめん!』


 やめい! とかないわい!!

 つか何がごめんなんだよ!


武田亜衣菜『愛しの亜衣菜ちゃんは、絶賛です』


 何の情報だああああああああ!!!


北条倫『聞いてねぇから!!』

北条倫『その気もなってねぇし!!』


武田亜衣菜『えー、少しくらいなってろし』


 そのメッセージとともに、拗ねた猫のスタンプを送ってくる亜衣菜。

 なんだよ、どういうタイミングでこいつ俺に送って来てんだよ!


武田亜衣菜『代わりにこの写真あげるねー』

武田亜衣菜『未掲載写真だから、悪用しないでね?』


 メッセージとともに、送られてくる画像。

 それは、LA内のイベント装備として配布された水着装備を着ている〈Cecil〉の再現コスプレ写真だった。

 ゲーム内だから許される際どい水着なのだが、リアルだともうほぼ裸と言ってもいいレベルの衣装の、猫耳をつけた笑顔の亜衣菜が、前かがみになって小首を傾げている写真だ。

 写真からでもそのふくよかな谷間に興奮を覚えずにはいられないような……

ってうがーーーーーーーー!!!

 なるかああああああああああああ!!!!!


武田亜衣菜『可愛いでしょ』

北条倫『ノーコメント』

武田亜衣菜『えー、この水着可愛いと思うのに』

武田亜衣菜『今度になってくれたら、着てあげるね』

北条倫『やかましいわ!』


 なんだったんだこいつ!

 なんでこのタイミングでコスプレ写真送ってくんだ!

 いや、可愛いけど!

 目の前にしたらちょっと我慢できるかわかんないけど!


 亜衣菜のせいで変に紋々した気分になった俺は、自分を落ち着かせるためにネットで猫の画像を検索してにデレデレしながら、みんなが戻ってくるのを待つのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る