第63話 素敵な仲間たち

 俺が二人が好きかだって?


 ああ、好きだよ。だいも亜衣菜も好きだよ。

 それは言える。


 でも、どっちも好きは言っちゃいけないんだ。

 それは誰も幸せにならない言葉だから。


 人生は取捨選択の連続だ。

 天秤が掲げた方を捨て去り、選ばなかった世界線に別れを告げ、前に進むしかできない。

 セーブポイントがあって、そこに戻るができたら人間みんなハッピーエンドになれそうなのに、ゲームオンの世界よりリアルオフの世界の方が圧倒的にハードモード難しいなんだよ。


「お、俺は――」


 意を決して、俺が心に任せて言葉を発しようとしたとき。


「トイレ!!!」

「うお!?」


 死んでいた戦闘不能だっただいが突然大きな声をあげて、立ち上がった。

 その声に、俺は自分が何を言おうとしていたのか、自分の言葉を見失った。


「おいおい、大の大人が大きい声で言うもんじゃねえぞー?」

「あたしも行くよ~~」


 あれ? ちょっとだけ、ぴょんの声が優しかった、気がするような……?

 トイレに向かおうとするだいにジャックが続き、俺の向かい側に座るのはゆきむらだけになる。

 ゆきむらの視線は、迷うことなく俺を向いているロックオン


「ゆっきー」

「はい?」


 だったのだが、なんだか妙に落ち着いたトーンのぴょんの声に、ゆきむらの視線が動いた。


「人の心の機微きびに、自分の心を合わせなさい」

「むむ?」

「それが国語科の先輩としてのアドバイスだよ」

「うわ~、ぴょんがなんかえらそ~」

「う、うるせえな! 事実先輩だぞこっちは!?」

「そういえばそうでした~。でもねゆっきー、今の話の答えは我慢してあげよ~」

「どうしてですか?」

「ん~、ゆっきーの聞きたい話を聞きたい人もいれば、聞きたくない人もいるかもだからね~」

「なるほど……勉強になります」

「色んながいるからなー。何でもかんでも聞いてあげるのが、正解じゃないときもあるんだよ」

「そだね~。尊敬できないかもだけど、わたしたち一応先輩だからさ~」

「そんなことないです。深いお考え、勉強になりました」


 ……あれ?

 なんか、危機が去った?


 ぴょんもゆめも、落ち着いている。落ち着いているばかりか、ゆきむらになんかいいことを言っている。

 なんだ? 急にどうしたんだ?


「ゼロやんも、女心を勉強しろよ?」

「は? な、なんだよ急に」

「そのままだと残念イケメンだよ~?」

「ま、余ったらもらってやるけどな!」

「あっ、わたしのとこでもいいよ~?」

「お、おい!?」


 急に優しくなった両サイドが、前回のように俺の腕に抱き着いてくる。

 突然の行動に俺は慌てるが、だいがいない今止めてくれる人はいない。

 ゆきむらは再びぽーっと俺の方を見てるし、なんだこれ? え、どういうこと!?


「まな板よりわたしがいいよ~」

「おい! まな板はがいいんだぞ!?」

「まさかのカミングアウト~」

「それ言ってて恥ずかしくないのか……?」


 二人の言葉にはもう、こっちが恥ずかしくなりそうだ。

 すぐそばにある二人の髪から、なんとなくいい匂いがする気がする。

 あ、やばい。今俺きっと、顔赤くなってそう。


「酒飲めないから、両手塞ぐのはやめてくれ……」


 この赤くなった顔を隠すために俺は酒を所望するが、二人は離してくれない。

 ゆきむらは、少しだけ首をかしげてこちらを見つめていた。


「ぴょんさんとゆめさんは、ゼロさんが好きなんですか……?」

「そだよ~?」

「争奪戦エントリー者だからな!」

「か、からかうのはやめてくれっ」

「争奪戦……なるほど」

「ど、どうした?」

「それは、私も参加できますか?」


 はあああああ!?

 どうしたゆきむら!

 何がどうしてそういう流れになったんだ!?


「いいよ~、ギルド【Teachers】と違ってこっちは条件なしだよ~」

「若いやつには負けねーぞー?」

「ああもう! とりあえず離せお前ら!」


 なんとか二人を振りほどき、俺は自分のハイボールを一気に飲み干す。

 ちなみにこれは4杯目な! まだまだ飲むけど!



「盛り上がってるね~~」

「おかえり~」

「お、だいも復活したかー」

「も、元々死んでないし!」

「いや、死んでたじゃ~~ん」


 そう言ってジャックはだいの頬をつついていた。

 トイレから戻ってきた二人のために、ゆきむらが奥に詰めてだい、ジャックの順に席に戻る。

 あ、正面がだいじゃん。うわ、合わせる顔がない……!


「でも、ほんとみんないい人であたしは嬉しいよ~~」


 戻ってきたジャックは、細い目をさらに細めるくらい、笑顔だった。

 なんとなく、話の流れを変えてくれそうな気がするぞ!


「リダとか嫁キングとか、あーすにも会いにいきたいね~」

「夏は宇都宮オフだぞ!」

「餃子……」

「だいの食べたものはどこに入ってんの~?」

「会ってないメンバーもそうだし、いなくなったメンバーにも会ってみたかったな~~」


 相変わらずのだいの食欲にゆめが呆れ顔だが、ジャックの言葉に俺とだいは、少しだけ懐かしい気持ちにさせられた。


 俺とだい、ジャックはギルドの立ち上げから参加しているため、今年でギルド歴は4年だ。

 それに対してぴょんとゆきむらが2年ほど、ゆめが1年半くらい。

 3人が加入するまでに、引退してしまった仲間も、会ったことはないがいい奴らだった。


「やめちゃった人ってどれくらいいたの~?」

「あたしが入ってから〈Kamomeかもめ〉がやめちゃったのは知ってるけど」

「あ、かもめさん懐かしいですね」

「え、わたしその人知らないな~」

「懐かしいなー。だいのライバルだったよな?」

「別に、張り合ったことなんかないわよ」

「ほかにも、ギルド結成から1年でやめちゃった〈Senkanせんかん〉とか、2年経たないくらいでやめちゃった〈Chonちょん〉とかいたね~~」

「あー、懐かしいな! せんかんにちょんか、元気かな」

「ちょんは結婚してやめちゃったのよね。リダみたいに子ども生まれたのかしら」

「どうだろね~~。でも、どっかで会えたらいいよね~~」

「色んな方がいたんですね」


 順に説明すると〈Kamome〉はギルド立ち上げメンバーの一人で、だいと同じロバー短剣使いだった。うさ耳獣人キャラの、キャラと同じくリアルも女性だろうなー、というのを感じさせていたプレイヤーだ。

 小学校教師という話だったが、段々と仕事の多忙さと合わさって引退していったんだよな。


 続いて〈Senkan〉もギルド立ち上げメンバーだ。肌が黒い男エルフキャラの、グラップラー格闘使いだった。プレイヤースキルも高かったし、頼もしい仲間だったが勤務する高校の部活で主顧問しゅこもんになって忙しいとか、そんな理由で3年前くらいに引退した。

 当時はよく二人で下ネタトークしたりもした、今思えば貴重な男仲間だったな……。


 そして〈Chon〉はギルド結成後、リダの初動画投稿をきっかけに加入してきた男小人族のファイター斧使いだった。

 男キャラだけど中身女だよー、と公言していた小学校教師で、結婚します! という宣言とともに引退したメンバーでもある。

 もう2年半くらい前だし、もう子どもとか生まれたのかな?


「みんな、懐かしいわね」

「せんかん、もどってこねーかなー」

「男仲間欲しいなら、あーすと喋ればいいじゃ~~ん?」

「それは可哀想だろ……」

「あんなバレバレなネカマ珍しいよね~」

「というか、隠す気はないよな、あいつ」

「え、あーすさんは男の人なんですか?」

「うっそ、ゆっきー気づいてなかったの!?」

「どう見たって男じゃ~ん」

「気づきませんでした……」


 ゆきむらの天然に、みんなが和やかに笑い合う。


 ああ、楽しいな、と俺は心から思った。


 さっきまではちょっとしんどい話題だったし、うざったい時も多いメンバーでもあるが、やっぱり俺はこのギルドが好きだと、本心で思う。


 いつか、やめてったメンバーも含めて、みんなで遊んだりできたらいいな。

 とりあえずまずはリダたちも誘ってか、うん。

 こいつらとはずっと付き合っていきたい。

 

 あ、変な意味じゃないからな?


 気づけば18時過ぎの開始から、既に時刻は21時半を回っていた。

 楽しい時間はあっという間に過ぎるのは、なんでだろうな。


 そんなこんなで、最年長ジャックの締めの言葉で、第2回オフ会も楽しく終了となるのだった。

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