第47話 効果はばつぐんだ!

「ありがとうございました」


 和服姿の店員さんに見送られて俺と亜衣菜は店を出る。

 奢ってくれるというから任せたが、果たしていくらだったんだろうか。

 カード1回って言ってたけど、怖いから聞くのはやめておこう。


「おいしかったねー」

「ああ、めっちゃ美味かった」

「また来たくなったでしょ~?」

「そ、それは、まぁ、うん」

「またこよーよ」

「いや、でも高そうだからなー」

「えー、あたし出すよ?」

「それは男としてのプライドがある」


 亜衣菜の提案を断るのは、男としての矜持だ。

 ボーナス直後とかならいいけど、さすがにこの店は、敷居が高い……!


 俺たちは店を出てから、まっすぐに駅の方へ戻っていた。

 既に時刻は22時。いつもならログインしてLAをプレイしている時間だが、久々の時間に今日ばかりは話し込んでしまった。

 日曜のこの時間に外にいるのは、俺としてはけっこう珍しいことなんだがな。


 さすがにもう、駅周辺にも既に人影は少ないようだ。


「じゃあ、菜月ちゃんも誘って、今度は違うとこいこー?」

「へ?」

「だめー?」

「いやー、何でお前らそんな仲良くなったの?」

「えー秘密だけど、しいて言うなら……」

「うん」

だからかな?」

「あー、まぁたしかには、多くはないわな」


 俺の周りにはいっぱいいるみたいですけどね!!


「あははー。りんりんは面白いなぁ」

「は?」

「そういうことにしといてあげるよ」

「どういうことだよ?」


 要領を得ない俺に、亜衣菜は笑って見せるだけ。

 弾むように歩く度に揺れるワンピースが、なんだか少しだけ、幻想的に見える。

 外に出たため再びマスクと伊達眼鏡姿になっているが、そんな動きを見ていると、やっぱり可愛いなとか思うのは、しょうがないよな!


「けっこう遅くなっちゃったねー」

「そうなー」

「でも、あっという間だったー」

「うん、まぁそうだな」

「なんで楽しい時間ってあっという間なんだろ?」


 その言葉に俺はなんと返せばいいのだろうか?

 同意したい気持ちはあるが、こいつといるのが楽しいと、伝えてしまった時の意味を考えてしまう。


 俺はもっとこいつといたいのか?

 やっぱり、好きなのか?


 あー、わかんねぇ!


「引っ越したいなー」

「なんで?」

「出版社近いから、秋葉原住んでるけど、やっぱあたし知ってる人がねー」

「あー、多いか」

「うん。写真撮られるのはまぁしょうがないとしても、触ってこようとしたりとかさー、ちょっと怖いよね」

「まじ? そんなやついんの?」

「たまーにね? たまーにくらいだけど」

「送ってくか?」

「え、ううん! さすがにりんりん明日仕事だし、駅からタクシー乗るよっ」

「そうか、気を付けろよ」

「うん、ありがと……やっぱりりんりん、優しいね」

「そんな話聞けば普通だろ」

「えー、そっかなー?」


 そしてたどり着く、神田駅の改札前。


「じゃあ、今日はご馳走様」

「んーん。楽しかったよっ」

「まぁ、俺も」

「ん、素直でよろしい」

「んだよ、じゃあな。気を付けて帰れよ?」


 別れる直前だったから、今度は素直に楽しかったと伝えられた。

 言い逃げみたいだから言えたってのは、ちょっと情けないけど。


 俺は「じゃあな」と言って軽く手を振ってから、改札へ向かったはずだったが。


 何かが、俺の歩みにストップをかける。


 左手に感じる、不思議な温もり。


「や、やっぱり! ……家まで送ってほしいんだけど?」

「……へ?」

「……だめ?」


 首を傾げて、上目遣いにそう言ってくる亜衣菜。


 首傾げ+上目遣い+甘えた声。


 これはどんなボスも倒せる連撃と同じくらいの強さだろう!


 ああ、くそ。それが許されるのは可愛い子だけ……って、そうだ、こいつ可愛いんだった……。

 自分の顔が、赤くなるのを感じる。


 こう言われて断れる男なんて、この世にいるもんかよ。



 どうやら、俺と亜衣菜の時間はもう少し伸びるようです。

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