第16話 いつも通りにいかない
そんなこんなで、残りあと10分というところで俺たちは4体目の中ボスエリアにたどり着いた。序盤に時間をとられたのが、今になって効いてきた。
だがこいつを3分以内に倒せれば、ボスエリアには間に合うだろう。
既にリダも3体目の中ボスを倒したあとから盾と片手剣に武器を持ち換えている。
まぁどのみちこの4体目から、リダも盾役に回るのは俺とジャックと打ち合わせていた通りだ。
なぜなら。
〈Earth〉『えー! 2体もいるんですか!』
〈Gen〉『本当なら両方一人でキープすんだぞ?』
〈Earth〉『あーちゃんはやればできる子!』
〈Gen〉『まぁ今日は俺が片方持つから、槍持ちの方をまかせた!』
〈Earth〉『了解だぜ☆』
4体目の中ボスは、槍持ちと斧持ちの2体の恐竜型獣人、まぁほぼトカゲ人間だ。
ただサイズがでかく、後衛は一撃でも食らえば即死だろう。
そのためヘイト管理が非常に重要になる相手なのだが、今は
〈Gen〉『いつも通り、槍持ちから倒すぞ!』
〈Zero〉『りょーかい』
〈Yukimura〉『斬る』
〈Jack〉『ぴょんは斧に行動阻害よろーーーー』
〈Pyonkichi〉『おk』
〈Soulking〉『あーすちゃん回復はするから、がんばって!』
〈Earth〉『まっかせてー!』
この十数分で格段に上達したあーすが、しっかりと槍持ちの攻撃を捌き斬る。あれだけ防げば、もう槍持ちはあーすに首ったけだろう。
〈Zero〉『ゆきむらの一刀両断から、俺とだいで落とす』
〈Yukimura〉『k』
〈Yukimura〉『いく』
だいのやつ、返事ないけど大丈夫か? まぁ、動いてるから大丈夫とは思うが……。
ゆきむらの一刀両断が炸裂し、槍持ちの行動が止まる。
〈Zero〉『だい、いくぞ!』
〈Daikon〉『おk』
〈Zero〉『って! そっちちが』
〈Daikon〉『え?』
俺の放った銃スキルビッグバンショットが槍持ちに炸裂し、直後にだいのシャドウスタッブで槍持ちを倒す、はずだったのだが。
〈Yukimura〉『え』
〈Soulking〉『ぎゃー』
〈Daikon〉『ごめんごめんごめん!』
だいの放った一撃は、リダがキープしている斧持ちに炸裂する。
硬直中の一撃はヘイトの上昇を抑える効果があるのだが、何でもない状態にだいが与えた大ダメージは、斧持ちのヘイトを動かしてしまった。結果として斧持ちの重い一撃がだいをめがけて振り回され、だいとリダの近くにいたゆきむらと嫁きんぐが巻き込まれ、一撃でHPゲージを0にしたのである。
リダはさすがに盾役だけあり耐えていたが、盾で軽減もできなかったようで、6割ほどのHPを失っていた。
あの攻撃はモーションが大きく、分かっていれば避けるのも難しくないのだが、先刻ゆきむらが言った通り、目で見てからではちょっと遅いのがこのゲーム。そんなゲームで虚をつかれれば致命的なのは言うまでもない。
〈Daikon〉『申し訳ない・・・』
戦闘不能で地に倒れただいとゆきむらと嫁きんぐ。加えてリダは大ダメージを食らっており、回復をしたいところだが、もう片方は中途半端にHPを削ってしまって猛攻状態になった槍持ちの攻撃を必死に防ぐあーすと、それをサポートするジャック。
ま、みんな口にはしないが、ここから立て直すのは無理だと思ってるだろうな。
とりあえず、槍持ちだけでも倒しておくか。
サドンリーデス発動、っと。
〈Pyonkichi〉『お! ゼロやんやるのか!』
〈Yukimura〉『おお、エフェクトかっこいい』
〈Soulking〉『ほんとだー、闇堕ちしたみたい』
〈Earth〉『え!なにそれ!みたいのにー』
皮肉にも戦闘不能で動けなくなったメンバーは、俺の技をじっくり見ることができているようだ。
この前の亀よりは動くが、まぁこの程度なら問題ない。
あーすが防いだ瞬間、1秒にも満たない時間だが、敵の動きが止まる瞬間に、俺は照準を合わせる。
こい、こい、こい……よし、発射っと!
〈Yukimura〉『おお』
〈Soulking〉『なんと』
〈Earth〉『うっそ』
既にHPは6割ほどだったが、俺の一撃を受けた槍持ちがカンストダメージを受け消滅する。
俺の残りMP400、斧持ちのHPは7割弱、制限時間はあと5分。
戦闘不能状態は、蘇生魔法を受けるか、ダンジョン内での戦闘が終われば自動で復活するのだが、スキルや魔法の使用不可3分間という、戦闘中の武器変更と同じペナルティを受けるのだ。
だいとゆきむらが倒れてるし、俺一人で道中の雑魚を倒して、5体目のボスを1分で倒すのは、正直現実的じゃない。
……うーん、なら、もう1発撃っちゃうか……!
俺は思い切って再びサドンリーデスを発動させる。
〈Jack〉『もう1発うつんかーい』
〈Zero〉『ま、死んで外でるのも、やじゃん?』
〈Zero〉『ぴょん、削り切れるかわかんないから、俺の着弾にブリザードよろ』
〈Pyonkichi〉『は? いつ』
〈Zero〉『5s』
sってのはsecのことで、5秒後、の意味ね。
斧持ちの動きを予測し、そこが照準の合う時間だというのが、俺の感覚だった。
ちなみにブリザードの詠唱は3秒ほどかかるから……。
うん、さすがぴょん。ベストな詠唱開始だ。
じゃあ、俺も……発射っと!
俺の放った一撃と、ぴょんの放った氷の嵐のエフェクトが斧持ちに直撃し、カンストダメージ+ぴょんのブリザードで2万ダメージほどが与えられたが、僅かにミリほど敵のHPが残ってしまった。
〈Zero〉『あ、やべ』
〈Pyonkichi〉『さらば』
あれだけの大ダメージを与えてしまえば、もうリダが何をしようと攻撃は俺に来る。
さてどこに逃げようかと考えたが、ここは岩が多く転がるダンジョン、左に行こうと思った俺の動きを止める岩。
あー、詰んだわ。
俺が死ぬな―と、思った瞬間、斧を振りかざしていたモンスターが消滅し、戦闘BGMが終了した。
〈Zero〉『あれ』
〈Gen〉『あれくらいなら、いけるかなと思ったけど』
〈Jack〉『いけたねーーーー』
〈Earth〉『ぶい☆』
スキルと魔法使用不可のペナルティを受けつつも、リダは大剣、ジャックは格闘、あーすが弓を装備していた。
それぞれが、サブの武器としてスキルを上げている武器だ。
そうか、通常攻撃で、倒してくれたのか。
戦闘が終わったことで、だいとゆきむら、嫁きんぐが復活する。
〈Gen〉『今日はここまでだなー』
〈Daikon〉『ほんと、ごめん。ちょっと今日、色々あって』
〈Zero〉『なんだよ、なんかあったなら先に言えよ、水くせーな』
〈Daikon〉『ごめん』
〈Jack〉『まーーーー、いつも的確ななだいがそうなるって、よほどのことっしょーーーー?』
〈Yukimura〉『いつもは助けてもらってる。そんな日もあるよ』
〈Pyonkichi〉『タゲ間違いなんて、日常茶飯事!』
〈Gen〉『おいw』
だいのミスで負けたのは事実だが、誰かのミスで負けたり全滅したことなど、これまで何回もあった。俺がミスったこともあるし、極々稀だが、ジャックが眠気に負けて負けたこともある。
MMOをやる以上、誰かのせいで負けることは往々にしてるのだ。
だがそれは逆に、誰かがうまくやれば勝てるということでもある。
だいのおかげで勝てたことも、今までもあったのだから。
これもMMOの醍醐味だろう。
〈Zero〉『ま、何があったかしんないけど、切り替えてこーぜ』
〈Daikon〉『ん、さんきゅ』
そんな会話を繰り広げた後、タイムアップで俺たちはダンジョン外に転送される。
そして俺たちがダンジョン外に出た瞬間。
〈Yume〉『ねぇ聞いて!!』
ギルドチャットの緑色の文字が俺たちのモニターに現れる。
ヒーロー、ならぬヒロインは遅れてやってくる。
我がギルドの斧使いプリンセスは重役出勤だ。
ま、学校現場に重役出勤なんてないけどな!
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