第5話 勤務時間後の生徒指導ですが、時間外手当はでますか?

〈Juria〉『せんせー、フレ登録よろー』


 その日の夜、仕事から帰宅し飯を食って風呂に入り終えた20時過ぎ、俺がLAにログインするや否や今日の部活中に聞いたキャラネームからのメッセージが届いた。


〈Zero〉『この中でせんせーはやめろ』


 確かに【Teachers】に所属しているから俺は教師と思われているとは分かっているが、さすがにこのプライベートタイムに「せんせー」と呼ばれると何とも言えない気分になる。

 LAにログインしてる時の俺は北条倫ではなく、〈Zero〉なのだ。別にロールプレイをしているわけでもないが、MMO経験者なら分かってもらえるのではないだろうか?


〈Juria〉『えー、じゃあ師匠とかにするよぅ……』

〈Zero〉『なんでだよ』

〈Juria〉『だって師匠、検索したらまとめサイトにも載るくらいの有名キャラじゃーんw』

〈Zero〉『く、バレたか……』


 自分でひけらかすことではないが、たしかに俺は自分でもガンナーとしては最強クラスの自負はある。昨日〈Gen〉が動画をUPしたことで、俺が現状最強の銃装備を手に入れたことももうすでに周知の事実となってしまったし、一部のLA掲示板で俺を称える声や妬む声もエゴサしたので知っている。


〈Juria〉『ということで、ご指導よろしくおねがいしますっ』

〈Zero〉『うわ、グランドでも聞いたことない敬語とか』

〈Juria〉『えへへー』

〈Zero〉『かわいこぶってんじゃねぇ。いいか、俺が面倒みるのは22時までだからな?』

〈Juria〉『えー、夜はこれからじゃーん』

〈Zero〉『青少年健全育成条例』

〈Juria〉『うわ、出たよ

〈Zero〉『うるせえ、言うこときいとけ』

〈Juria〉『しょうがないなーわかりましたよー』

〈Zero〉『よろしい。お前、種族は?』

〈Juria〉『えーと、エルフにした!』

〈Zero〉『おk。じゃあとりあえずプレイヤーハウス出たとこで待ってろ』

〈Juria〉『り』


 つか、自分の学年の生徒とプレイしたこともないのに、これは2年のゲーマーズには秘密だな……。

 決して萩原が女の子だから手伝ってあげるんじゃないぞ、俺の名誉のために言っておくが。手伝わなかったら手伝わなかったで、部活のときになんか言われかねないだからな!


 そんなこんなで俺もプレイヤーハウスを出て、転移の魔法を使ってエルフの国へと向かう。

 ちなみに俺のキャラは無難なヒュームの男キャラ。キャラクターメイクはけっこう自由度が高く、キャラクターメイクをした大学3年の頃、当時付き合ってた彼女の影響で、前髪を下ろしている可愛い系の顔立ちのキャラになったのだ。


 ん? その時の彼女? そんなもん大学4年なる前に別れたよ? そっから彼女なんかいないよ?

 まぁ〈Zero〉の顔立ちはそんな黒歴史も込められているのだが、もう8年目になるこのキャラには相応の愛着もあるので、よしとしている。


 えーと、Juria、Juriaと……、お、あいつか。

 うわ、ロリエルフにしやがったのかこいつ……。

 森の中に築かれているという設定のエルフの国「アルトヴァルト」のプレイヤーハウス前で、俺の指示通りにJuriaというキャラが立っていた。

 さっきも言った通り、このゲームのキャラクターメイクは自由度が高い。顔の造形だけでなく、その肢体についてもかなり融通が効くのだ。

 その自由度の中で萩原が作ったのは子どもの外見の女の子エルフ。正直、それを使ってるのは中身おっさんの人しかいないと思ってたが、高校生くらいの感覚だと有り、なのか?


〈Juria〉『あ、師匠発見。こうやって近くで見ると、割と本人に似てる?』

〈Zero〉『美化されすぎだろwまぁお前よりは似てるだろうけど』

〈Juria〉『あたしのこと似てるって言ったら通報レベル』

〈Zero〉『そ、そうですよね』


 こえー。さらっと言う現役JKこえーーー。


〈Zero〉『じゃあとりあえずパーティ誘うから、入って』

〈Juria〉『はーい』


 コマンド入力で萩原を誘い、俺がリーダーの二人パーティが組まれる。


〈Zero〉『えーっと、槍持ちか、珍しいな』

〈Juria〉『かっこいいっしょ』

〈Zero〉『まぁ好き好きだな』


 ロリエルフのくせに近接戦闘スタイルを選ぶとは、そういうギャップ好きなんだろうな、こいつ。

 だが実はファイター大剣or斧or槍使いの武器の中で槍は初心者に優しい武器なのだ。攻撃力は斧や大剣よりも低いが槍スキルは動きがシンプルなものが多く、突きを基本とするように直線的な動きで分かりやすい。

 このゲームの戦闘はほぼアクションのため、攻撃の振りが遅めな斧や自己中心範囲に放つものが多い大剣のスキルは使いこなすには慣れ必要なのだ。

 さすがに魔法はコマンドから選択して対象に使うためアクション要素ではないが、スキルで攻撃するにしろ、魔法を使うにしろ、というか通常攻撃するにしろショートカットコマンドを自分で作成することがこのゲームをストレスなくプレイするためには必要になる。

 オススメコマンドなどが攻略サイトで紹介されるくらい、必須なのだ。


 そういうショートカットコマンドを駆使して戦っていくのは慣れが必要だし、初心者の萩原にいきなり使いこなせるものでもないだろうから、とりあえず今日は攻撃コマンドを2,3教えて初級ダンジョンでもいくとしよう。


〈Zero〉『って、お前のその槍、初期武器じゃなくね?』

〈Juria〉『うん、フレンドがくれたw』

〈Zero〉『え、それ、けっこう高スキルの槍じゃね?』

〈Juria〉『んーと、攻撃+180、命中+200、槍スキル補正+70とかいろいろ書いてるよー』

〈Zero〉『マジk』


 危うく吹き出しかけたが、萩原がフレンドからもらったという槍の性能は破格だった。

 基本的に初心者が最初に持つ武器は、攻撃+10、武器スキル補正+5くらいがベースだ。サービス8年目ともなると新規用に多少+αの性能の武器も付与されるみたいだが、今萩原が言っていた性能は、モンスターを倒さずに手に入る武器としてはおそらく最高峰。現状において武器製作職人が高価な素材で製作する製作武器の極みなのである。

 ゲーム内の取引価格は700万リブラというくっそ高い値段がつく。ちなみに8年プレイしてる俺で所持金が7000万リブラほど。だがこれくらいあっても700万リブラの武器をほいと人にあげるのは、ちょっと抵抗がある……。


 だがまぁ、もらった以上は使うべきだし、武器スキル補正で+70もあれば、キャラクターの武器スキル0でも拡張データ配信前からあるオリジナルエリアなら、だいたいどこでも敵を倒せるだろう。

 格上と戦って行けば武器スキルもさくさくあがるから、その武器があれば、1か月くらいちゃんと武器スキル上げをすれば超難関コンテンツならまだしも、ある程度の難関コンテンツにも参加できるくらいにはなるんじゃないかな。


 余談だが、俺が昨日手に入れた銃は譲渡不可で攻撃+300(現状MAX)、命中+250(現状MAX)、各種ダメージ耐性+20%、武器スキル+100、オリジナルスキル“サドンリーデス”、各種ステータスボーナス……とぶっこわれ性能なんだけどね!


〈Zero〉『お前のフレンド、何者だよ?』

〈Juria〉『Mobkunもぶくんって人。LAじゃなく、別なアニメファンのSNSで知り合った人なんだよねー』

〈Zero〉『あー……あの人ね』

〈Juria〉『師匠知り合い?』

〈Zero〉『知り合いってほどじゃないけど、古参のプレイヤーの一人だよ。【Vinchitore】の主力グラップラー格闘使いだし、お前すげえ奴と知り合いなんだな』


 素性はよく知らないが、ほぼ常時インしているイメージがあるプレイヤーだな。もちろんどんな仕事をしているかは定かではないが、格闘スキルはキャップって話だし、プレイヤースキル・装備ともに最強クラスのプレイヤーの一人だ。

 重度のゲーマーという風の噂はあったが……SNSでJKと知り合うとか、ちょっと偏見持っちゃったなー。

 ちなみに【Vinchitoreヴィンチトーレ】は俺から言わせればこのゲーム最強ギルドのだ。幹部級のプレイヤーなどもはや廃と言ってもいいだろう。


 とりあえず装備は大丈夫そうなので、俺は武器を錫杖に切り替えて適当なダンジョンの近くまで転移魔法を唱える。こういう転移魔法は錫杖、樫の杖、メイスと魔法主体系の装備をすれば低スキルでも使えるから、ほとんどのプレイヤーが持っている必需品だ。


〈Juria〉『おー、森フィールドってこんな感じなんだー』

〈Zero〉『戦闘はしたことあるのか?』

〈Juria〉『インストール自体は一昨日だったから、街でたとこの草原でちょっとだけならやったよー』

〈Zero〉『じゃあとりあえずダンジョン行くか』


 移動の道すがら、基本的な戦闘用ショートカットコマンドを教え、萩原……いやLAプレイヤーとしての敬意を表しJuriaと呼ぼう。Juriaを伴って、数分の移動の後、ダンジョンへと到着した。

 あ、でもこれあいつの実名だから、下の名前呼びみたいでちょっと恥ずかしいかもしれない……。



〈Zero〉『そーそー、そんな感じで、ターゲットマークでてる時にアタックだ。基本的に槍スキルは通常アタックと同じタイミングで当たる仕様だから、次は“三段突き”発動させてみ』

〈Juria〉『わかったぜ師匠!』


 Juriaの飲み込みは、まぁ若いだけあり早かった。部活もこれくらい素直に真剣にやってくれりゃいいのに、というツッコミは野暮ってもんだろう。まぁこれは明日直接言うことにしよう。

 そんな感じで俺がJuriaに手ほどきをしていると。


〈Daikon〉『よーっす。ちょっと素材集めしたいんだけど……何かやってんの?』


 見慣れたフレンドからのメッセージが、俺に届いた。

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