第2話 ゲームをするのは個人の自由

Genゲン〉『回復!』

〈Zero〉『タゲよろ!』

Yumeゆめ〉『アタックいきまs』

Jackジャック〉『おせーーーーーーーーーーーーー』

〈Gen〉『あとちょい』

Daikonだいこん〉『MPへるぷ!』

〈Jack〉『おk』

Yukimuraゆきむら〉『ころせ!』

〈Jack〉『やれーーーーーーーーーー』


 時刻にして23時を回った頃、俺の目の前のモニターには激しいエフェクトの中、巨大な恐竜型のモンスターと戦う6人のキャラクターが映っている。


盾と剣を持ち、漆黒の鎧を着た狼の顔をした獣人の〈Gen〉

斧を振り回す金髪の女エルフ〈Yume〉

メイスを握る銀髪の男エルフ〈Jack〉

刀を構える、赤い髪の野性味あふれる顔立ちをした男ヒューム〈Yukimura〉

樫の杖を振るう、金髪のツンツンヘアーの男ヒューム〈Daikon〉

そして銃を構える、前髪を下ろした黒髪の男ヒューム〈Zero〉。


 ゲームのキャラクターだけあって、獣人キャラを除きみんなみんなイケメンだったり美人だったり。

 そのうちの一人、俺の分身が〈Zero〉だ。


 モニターの下部には怒涛の如くモンスターとの戦闘ログが流れ、青色に区別された仲間たちの言葉だけが、フィルター設定により一瞬だけ姿を見せ、流れていく。

 既に戦闘を開始してから27分が経過。俺たちが今戦っている、現在実装されている最強コンテンツのモンスターとの戦闘可能時間は30分。

 このメンバーでの挑戦はこれで6回目だが、これまでは5戦5敗。

 全滅したり、時間切れになったり、苦渋を舐め続けた相手だったのだが。


〈Daikon〉『ゼロやんうて!』


 仲間のログを見るまでもなく、俺の相棒ともいえる〈Zero〉が、動き回る恐竜を捉え、その銃口から迸る光の奔流を放つ。


 そして。


〈Jack〉『よっしゃーーーーーーーーー』

〈Gen〉『勝った!!!』

〈Zero〉『おお』

〈Yume〉『やったねっ』

〈Yukimura〉『歓喜』

〈Daikon〉『みんなおつかれさま!!』

〈Jack〉『つかれたーーーーーーーー』


 黒髪の人間風キャラクターが放った銃撃の技を受けたモンスターのHPゲージが0になり、『WIN!!』という表示とともに大量のアイテムドロップがログに現れた。

 その勝利に、俺たちは歓喜のログで互いをたたえ合う。

 画面越しに、俺も思わず表情が緩む。


〈Daikon〉『いやー、さすがゼロやん、ナイスタイミング!』

〈Zero〉『狙い通り』

〈Jack〉『いやーーーー、やっとだねーーーー。こいつ実装からどんだけ経ったけ?』

〈Yume〉『たしか1か月くらい?』

〈Gen〉『俺らからしたら上出来っしょw』

〈Daikon〉『リダリダ、ちゃんと撮れた?』

〈Gen〉『おうよ、ばっちり!』

〈Yukimura〉『トドメドロップうらやま』

〈Zero〉『あざす』

〈Jack〉『おめおめwゼロやん強化で、次はもうちょい早く勝てるかなーーーー』

〈Yume〉『ゆめ斧欲しい』

〈Zero〉『次のトドメがんば』

〈Daikon〉『しばらくは周回だね~』

〈Jack〉『でも次回はプリーストいれたいw』

〈Zero〉『火力全振り編成だったもんなぁ、ジャックおつ』

〈Yukimura〉『どのサイトも推奨は8人以上って書いてた』

〈Yume〉『リダは次嫁同伴でよろ』

〈Gen〉『き、聞いておく!』

〈Gen〉『さぁ今回の動画も一般ユーザーの希望となれ!』

〈Gen〉『次回は土曜に再挑戦でよろしく!』


 延々と続きそうな、勝利を喜ぶログラッシュだったが、俺たちのリーダーの〈Gen〉のまとめで今日の冒険が終了する。


 あー、疲れたー。

 俺は一度大きく伸びをすると、コキコキと軽い音が背中から聞こえる。ボス戦に至るまでのダンジョン進行にも30分ほどがかかったため、ボス戦含めて1時間ほど、ほぼずっと同じ姿勢でいたのだ。身体が固まっている。


 だが、今日の疲れはいい疲れだった。

 いやぁまた一つ強くなったぜ。

 なんたってついに難敵を倒し、念願の現状最高峰の銃を手に入れたのだから!


 仲間たちとパーティを解散し、各プレイヤーがホームタウンに用意されているプレイヤーハウスに戻り、俺は早速手に入れた新たな銃を装備してみた。


 っと、いろいろ説明してなかったな。

 今俺たちがプレイしているのは『Legendary Adventureレジェンダリー アドベンチャー』――通称LA――というPCゲームで、今年でサービス開始から8年目になる中堅MMORPGだ。

 いわゆるファンタジーワールドで冒険するという、まぁよくありそうな設定のMMOだな。


 プレイヤーはヒューム、エルフ、小人、獣人からプレイヤーキャラクターを作成し、魔国から現れるモンスターや魔族を倒していく王道RPGシナリオ。

 最終的には魔国の王、魔王を倒すのが運営が謳っているが、サービス開始から8年目になっても魔王討伐のコンテンツはまだ実装されていない。


 すでに拡張データは5回に渡り配信されており、世間的にもそれなりに知名度も人気もあるのだが、まだまだ終わりを見せない点が個人的には気に入っている。


 他のMMORPGと違う点といえば、キャラクターレベルがないことだろうか。ステータス値は全キャラ同一。装備によってそれが増減するシステムになっている。

 さらにこのゲームにはRPGにありがちなジョブ制度やジョブレベルがなく、装備している武器で使えるスキルや魔法が変わる仕様となっている。そのため様々な武器を持っていれば持っているだけ、プレイスタイルは広がるのだ。

 でもまぁ、戦闘中の武器変更はリアルタイムで3分間のスキル及び魔法使用不可のペナルティを食らうから、メイン武器は絞る必要があるんだけどな。


 で、このスキルや魔法として行使できるものはキャラクターの武器スキルに依存している。だが高位の武器やレアな武器には高めの武器スキル補正が入るが、いきなり現状の最高位の武器を装備しても全てのスキルや魔法が使えるわけではない。

 キャラクターにはレベルの代わりに武器スキルのレベルが設定されており、基本的にプレイヤーはこの武器スキルを上げることでキャラクターを育成することになっているのだ。

 ぶっちゃけこれ、レベル上げと同義だというツッコミは受け付けないぞ☆


 で、この武器スキルを上げるのが基本になるんだが……。

 上げる方法はいたってシンプル。上げたいスキルの武器を装備して敵を倒せばいいのだ。それでいいのだが、まぁこれがかなりマゾくてね。

 スキル100くらいまでそんなに大変でもない――とはいえ1日2時間のプレイで1か月はかかる――だが、100オーバーとなると、1あげるのに1日2時間程度のプレイだと4,5日はかかる。

 250を超えてからなんて、10日以上かかるのだから、本当に途方もないよ。


 拡張データ1回ごとにキャラクターのスキル上限が初期の100から50ずつ上がったはずだから、今のキャラクタースキルキャップは350。それに装備補正込みのキャップ値が+100となっており、現状の武器スキルの最高値は450になっている。

 現状一つでもキャラクターの武器スキルを最高値まで上げ切っているプレイヤーなど、いわゆる“廃人”と呼ばれるプレイヤーくらいだろう。


 ちなみに武器の種類は格闘・盾&片手剣・短剣・大剣・斧・槍・刀・苦無・弓・銃・樫の杖・錫杖・メイスの13種類もあり、全武器スキルがキャップしているプレイヤーは、運営会社の調査でまだ一人もいないと言われている。

 ちなみに運営が言っているわけではないが、プレイヤーたちが勝手に装備した武器による使えるスキルや魔法が変わることから、ジョブっぽい名前は付けている。

・格闘武器使いには“グラップラー”(人によってはモンク)

・盾&片手剣使いには“パラディン“(人によってはナイト、ガーディアン)

・短剣使いには“ロバー”(人によってはシーフ)

・大剣、斧、槍使いには“ファイター”(これはだいたい一緒。こだわるやつは槍使いだけランサーって言うやつもいる)

・刀使いは“武士”(人によっては侍やソードマスター)

・苦無使いは“忍者”(女キャラだとくノ一って言うやつもいる)

・弓使いは“アーチャー”

・銃使いは“ガンナー”(人によってはアーチャーもガンナーもシューターというやつもいる)

・樫の杖使いは攻撃魔法に特化するため“ウィザード”(人によってはソーサラー)

・錫杖使いは回復魔法に特化するため“プリースト”(人によってはクレリック)

・メイス使いは支援魔法が多いため“サポーター”(人によってはエンチャンター)

とまぁ、こんな感じだ。呼び方に統一がないのは運営が言ってるわけではないのと、まぁ今までやってきたゲームの影響だろうな。


 俺のキャラクターである”Zero”はサービス開始からプレイしている古参キャラクターで、いわゆるガンナー銃使いをメインでプレイしている。

 特に銃スキルは現在332とプレイヤーの中でもトップクラスに入るとは思うが、運営が発表しているスキルキャップにはまだ及ばない。少なくとも、俺より上のガンナーは確実に一人いるのを知っているし。

 でもさっき手に入った銃のスキル補正が現状最高値の+100だから、銃装備で使えるスキルと魔法は、武器スキルキャップ値で解放されるもの以外全部使えるようにはなったのか。


 っと、攻略サイトでまだまだ先が長いことを確認したりしてると日が変わってしまう危険がある。

 明日も仕事だからな。メリハリは大事だ。

 そういうわけで俺は充実感を胸にしたままログアウトしようとすると。


〈Daikon〉『銃おめ~。短剣出るまでしっかり働いてね^^』


 先ほどまでパーティを組んでいた、見慣れたフレンドからのメッセージが俺に届いた。


〈Zero〉『さんくー。かなり火力上がったし、任せとけ』

〈Daikon〉『期待してるよ~、じゃおやすー』

〈Zero〉『おう、おやすみ』


 じゃあ改めてログアウト、と。


 フレンドの〈Daikon〉――俺は“だい”と呼ぶが――は俺と同じサービス開始時からプレイしている古参プレイヤーで、LA内で出会ってもう7年になる。俺と同じヒューマンの男キャラでプレイしており、昔に2,3回武器スキル上げのパーティを連続で組んだことからフレンドになった。

 お互いに時折小休止を挟んだりはしたが、長期離脱はせずにLAを続けており、今ではかなり気心の知れた“相棒”だ。

 大学進学に際して上京した一人暮らし10年目の俺にとって、帰宅後の一人の家ではあるが、ゲームの中でも誰かと話せるのは正直ありがたい。


 もちろんリアルでは会ったこともないし、顔も名前も年齢も住んでるところも性別も――性別はまぁ男だろうけど――知らない。

 そんなほとんど素性を知らないような存在なのだが、共にLAで長い時間を過ごした信頼できる存在には違いない。


 あ、でも一つだけ知っていることはあるんだ。

 そう、知っているのはあいつの仕事。


 あいつ“も”俺“も”、職業は教師。


 なぜ知ってるかって? 

 理由は簡単。なぜなら〈Gen〉をリーダーとする俺たちのギルドの名は【Teachersティーチャーズ】。

 そう、その名の通り職業が教師のLAプレイヤーの集まりだからだ。

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