ナイトプラント

秋月漕

第1話 採集員

 市街地から離れた廃棄地区。


 外界との境にあるこの地区は地下世界パタラとは違い、防護服なしでは生きることができない。眼前にかかる透明な防護幕ヴェールの向こう側には、僕たちにとって有害な空気が漂っている。それにしても防護服の息苦しさにはいまだに慣れることができないな。


 周囲には僕と同じように全身を防護服で覆った人たちがぞろぞろと集まっていた。

 「では各自採集作業を開始。定刻になったら作業を終え、ここに集合。戻らなかった者については構わず置いていく」

 チームリーダーからの指示はいつもと変わらない。僕たちもいつもと同じように回収作業に取り掛かり始めた。


 周囲を切り立った岸壁に囲まれたこの廃棄地区は、巨大な高さを誇る瀑布ばくふとそのふもとにある滝壺が印象的だ。滝壺からは地面を分断するように川が続き、おかげで一帯には豊かな自然が形成されている。岸壁には木々が生い茂り、高いところに生えた枝には野鳥が巣を作っている。川沿いには緑のほかに赤や黄色の草が色を添えていた。

 自然の力強さや荘厳さといったものを閉じ込めたかのようなこの空間は、しかし多くの採集員コレクターたちにとってはすでに当たり前の光景になっていた。

 「メルクさんよー、さっさと行こうぜ。早くしねーと他のやつらにお宝を取られちまうよ」

 「ああ、ごめん。今いくよ」


 今日はいつもの採集場所から少し離れた雑木林の中を探索することにした。

 僕たちのような貧困層の人間は、廃棄地区と呼ばれる、かつて僕たち以外の人間がいた時代の「遺産」を採集して生計を立てている。「遺産」といっても多くは金属が目当てだ。樹脂はボロボロに風化しているため、採集する途中で壊れてしまうことがほとんど。おまけに加工させるにも質が悪すぎる。その点、金属は丈夫で加工の幅が広く、再利用が可能なため、街では高値で買い取ってもらうことができた。

 採集チームの編成はおよそ20人で1組。大人も数人混じってはいるが、ほとんどが10代くらいの子供だ。しかしこれだけの人数がいれば、そこそこ広大な廃棄地区であっても、数週間もすれば遺産は採り尽くされてしまう。だから早いところ自分達だけ遺産を見つけだして、稼ぎをいただこうという話だ。

 「そっちはどう。いいものあった?」

 「まぁそんなに焦んなよ。お宝は俺たちに探されるのを待ってるんだ。逃げやしねーよ」

 そう言いながらも彼はどんどん先へと進んでいく。茂みの中は良い意味でも悪い意味でも何があるか分からない。外界は地底とは違い、強力な毒を持った植物や巨大化した生物が紛れ込んでいることがしばしばある。一歩間違えれば命を落としかねない。だから、僕たちはどれだけ質素であっても防護服を着る必要があった。


 「カイー、どこ行ったー?」

 僕の相棒である少年、カイが進んでいったであろう場所を、ツタや草をかき分けて先を見定めながら慎重に進んで行く。カイはいつだって突っ走っていくクセがある。

 「おーい、こっちだこっち!早くきてみろよ!」

 呼ばれるままに先に進むと、茂みの奥には予想もしない光景が広がっていた。植物が絡まってしまい元の形が見えづらくはなっているが、これは鉄パイプの山だ!これほどの量の金属がよく今まで誰にも発見されずにいたものだ。ここはだ!

 「静かにしろよ。ここは俺たちだけの秘密の場所だ。来るところは誰にも見られてないはずだから、帰りも気をつけて帰ろうぜ。もちろんお宝をがっぽり抱えてな!」

 小声で話してはいるものの、本当に宝の山を発見したカイは飛び上がりそうなほどに高揚している。僕たちは、そこらに転がっている鉄パイプや何かの部品を背中のリュックに詰め込めるだけ詰め込み、腰にはワイヤーを掛けられるだけ引っ掛けた。カイの後ろ姿は、以前どこかの書物で見たパイプオルガンというものに似ていた。


 「これだけの遺産がこんなにあっさり見つかっちまうとはな。今日はツイてるぜ」

 「そうだね、カイ。でもここは植物たちの中だ。外界では何が起こるか分からない。用が済んだら早く戻ろう」

 僕たちは自分の体重以上にもなるの遺産を担いで――それでも、次回の採集分にあたるくらいの金属をこの場所に置いていくことになったが――先ほど来た道を引き返し、滝壺にある集合地点へと向かった。

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