街の小説家さん
あまみず
第1話 山岸理央その1
山岸理央。16歳。女子高校生。JKというやつだな。明るい性格で頭は悪く、よく人に流されやすい。生意気でワガママだが、心優しい女の子だ。なぜ物語冒頭いきなりJKの話をしてるかって…? それは今回の物語の主人公だからだ…。
その日はいつも通り「スマイルストア」で買い物をしていた。
「えーじゃがいもと玉ねぎと豚肉だろ…あとは…あ、カレーのルーを忘れていた…。」
今日の夕飯はカレーである。カレーは大好物だ。今日カレーにしようと決めたときは食材を買うときから既にワクワクが止まらない。そんな愉快な気持ちで食材を決めてると後ろから声をかけられた…。
「あ、あの…岸先生ですよね…?小説家の…。」
「……確かにぼくは岸だが…君は?」
「あ、え、えっと…東方高校に通う高校2年生、山岸理央です。先生の書く小説の大ファンです。」
後ろにいたのは制服姿の女だった。なるほど。小説のファンか…。東方高校はここの近所の高校だ。ぼく、岸龍一は小説家だ。恋愛小説を書いている。自分で言うのもなんだが、かなり人気の小説家だと思っている。特にぼくの書く小説は女子高生から人気が凄く、よく街中で声をかけられる。
「で?要件はなんだ?握手か?サインか?」
「いやそんなことじゃないんです…」
「は?じゃあなぜぼくに声をかけた?」
「えっと…その…私の…私の恋手伝ってもらえませんか!!!」
目を丸くした。何を言ってるんだこの女…?頭の理解が今起こってる現象に追いつかなかった。
数秒経ってやっと理解が追いついた。
「嫌です。」
「え…え?ど、どうしてですか?」
彼女の中では断られるということを想定していなかったのだろう。そのときの彼女はまるで正月に親戚全員からお年玉はないですと告げられたときの子どものような衝撃的な表情をしていた。
「あのなぁ…ぼくは忙しいんだぞ?そんな人様の恋愛に首を突っ込む時間なんてあるわけがないだろ。」
彼女は少し考えていた。しばらくして彼女は口を開いた。
「じゃあ岸先生。私の恋を小説のネタにしてもいいですよー?多分私の恋をネタにしたら売れると思うなぁー…」
「え…。」
彼女の言葉に、思わず「え…」と声に出てしまった…。
この女からなにか面白そうな空気を感じたのだ。
「そ、そんなに面白い恋をしているのか…?」
「……えぇそうですよー。甘くて苦くてドッキドッキの恋をしています。あ、でもそっか時間ないですもんねー…。一人で頑張るしかないか…。」
「ちょっと待ちな…話だけなら聞こう」
「ほ、本当ですか?やったー!!!!」
物語を作るにおいて一番人気が出るのは物語のリアルさである。ぼくは、まぁ実際の高校生のリアルな恋愛を聞き出してやるのも悪くないそう思っていた。
いつの間にかカレーのことは忘れていた。
そうしてぼく達は近くにある喫茶店に移動した。
「えぇ!なんでも頼んでいいんですか?」
「ダメだ!誰が奢ると言った?」
「そんなぁ…。ケチ!!」
「ケチとはなんだ! 君なぁ…友達みたいな接し方だがぼくは君より10歳年上だぞ!」
全く最近のJKというものは年上との接し方がなってないものだ。そうこうしてるうちに本題の話になった。
「で?君の恋というやつを聞かせてくれ」
「え?聞きたいですか?」
「あぁ…。さっさと話せ。」
「えぇ…恥ずかしいなぁ。」
「君から言ったことだろ!」
ふと彼女の顔を見ると、彼女は頬を赤らめて俯いていた。ぼくは彼女がふざけてもったいぶっているのではなく、本気で恥ずかしいから言えないということに気づいた。全くなんてピュアなのだ。最近の高校生というものは皆そういうものなのか…。いや、彼女が特別なのかもしれない。彼女の方から口を開けるのを待った。すると…。
「高校生にもなってお恥ずかしいですが、私今まで恋をしたことなかったんです。小学校の頃も中学校の頃も好きな男の子なんて出来なかったんです。私は元から頭悪くてですね…、高校に入れたことも奇跡なんですよ…。そんなバカな私に一から優しく教えてくれた東方高校の現代文の広瀬先生のことが好きになっちゃったんです…。初恋ってやつです…。」
「……それで…?」
「…それで……えっと……私、恋愛経験薄くてどうすればいいのかなぁ…って…」
「……それだけか?」
「それだけって…言わないでくださいよ…」
なんてありきたりな恋をしているんだ。さっきまでのワクワクした気持ちがガクッと下がった。教師と生徒の恋なんて書き尽くされている。これは小説のネタになりゃしない…。
「あのなぁ…恋愛に疎いみたいだから一つ言っておくが教師と生徒の恋なんてろくな事ないぞ?」
「え……?」
「もし付き合えたとしてもなにかあったらその先生は犯罪者になってしまうんだぞ? 最悪の場合逮捕だって有り得るんだ。」
「そ、そんなこと…」
「君が好きでいるってのは構わないが、その想いは相手にとっては不幸を呼ぶ可能性が極めて高い。相手の幸せを考えれない恋愛は長続き出来ないぞ?」
「そんなこと分かってますよ!!!!」
店内に彼女の声が響き渡った。何も知らない他のお客はこちらのテーブルを覗いていた。このカフェ内の時間が止まったようにも感じた。
彼女は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「私だってそんなこと分かってるんです…。 好きになっちゃダメって分かっているんです。何回もこの気持ち忘れようって努力したんです。でもダメなんです。ここまで好きになってしまったのは初めてだから…。だから恋愛小説を書いてる先生にお願いしたんです。」
なるほど……。彼女の言いたいことが読めたような気がした。
恋とは制御出来るようなものではない。一度、一人を愛してしまったのなら社会上の立場だとか、周りの目だとか関係ない。愛してしまえば…好きになってしまえば…もうその気持ちを止めることはどんなに感情のコントロールが上手い人でも出来ない。そんな単純なこともぼくは忘れていたのだろうか…。
「ククク…面白いな君…。そうか…そうだな…。それが恋というものだったな…。」
「えぇ…と?」
「いや、すまない…。山岸理央!! 君のその恋。この岸龍一が手伝ってやろう!!」
「え…本当ですか!?」
こうして、山岸理央の物語は始まったのだ。
街の小説家さん あまみず @utai06282001
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