658.脱出

 そんなことを言っている間にも、黒い砂漠のフィールドは崩壊しつつあった。

 だんだんと揺れがひどくなり、魔力が吹き上げながら散っていく。


「わ、わかったよ……。手加減してね」

「もちろんです! ええと、力加減は――はい」


 すすっとステラが構えを取る。手刀を前に、ぽっこんと押し込む構えだ。


 ステラのパワーを知っているナナは、着ぐるみの中でぶるっと震えた。

 もちろんステラの加減はいつだって完璧で、悪かったことなど1回もない。


 しかしそれはそれ。フルアーマーな着ぐるみナナでも、ステラの手刀は恐ろしいのだ。


「では、いきますよ! 動かないでくださいね!」


 ステラの声にナナが羽をぴよっとしながら目をつむる。


 ぽっこん!


 軽い衝撃とともにナナが地面の下へと落ちていく。

 同時に砂漠の地面もひび割れた。ステラのパワーに耐えられなかったのだ。


 ステラもそのひび割れに飲み込まれ、空へと放り出される。


「ナナぴよに掴まらないと……!」


 ステラはすぐに体勢を立て直し、急降下していく。

 先に落ちたナナで空を飛ばないといけないのだ。


 ちらっとステラが上空を見ると、砂嵐が急速に散り散りになっていた。砂嵐の魔力も繋ぎ止めるものがなくなり、どんどん拡散している。


「えーい!」


 矢のように鋭くステラは急降下し、ナナへと近づく。

 ナナもステラを視認したようだ。落ちながら羽をぱたぱたさせている……ほとんど意味はないが。


 ぱたぱた……!


「もっと近くに!」

「はい、もう少しで……!」


 むぎゅ。ステラは柔らかくナナを空中でキャッチする。


「大丈夫です!」

「よし、じゃあ――」


 そのままばびゅーんと空を飛ぼうとしたナナの動きが止まる。

 砂嵐の崩壊が急速に進みすぎて、岩が空から降ってきているのだ。


「この中を……!? 魔力に余裕はないのにっ」


 ナナが叫ぶと同時に、ぶわっとしたから風が巻き上がってきた。


「大丈夫か!?」

「ふむ、間に合った」


 エルトとヴィクターの声が聞こえる。後方からふたりが風をまといながら迫ってきていた。


 ヴィクターの風魔法でエルトが運ばれているのだ。

 ダブル着ぐるみが迎えにきたのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る