659.ぐびっと地上へ

 ふよよー。

 ヴィクター兄さんの風魔法がステラとナナを包み込んだ。


 しかし……なんだかいつもより、風魔法がふらふらしてるな。やはり崩壊後の魔力の荒波でコントロールがうまくいかないのか。


「スピードは出せんな、上から落ちてくるモノがあったら、迎撃してくれ」

「わかった!」


 ヴィクター兄さんが言うや否や、空からぱらぱらと砂や大きめの石が落ちてくる。


「魔力は散っていますが、まだだいぶ残ってます……!」


 少しぐったりしたナナを抱えているステラが声を上げる。

 彼女の言葉通り、魔力は散っているが……空から砂の精霊も降ってくる。


「くっ……!」


 俺は着ぐるみの羽から長い蔦を生み、降ってくる砂の精霊をぺしぺしと叩き落とした。


 大して攻撃力がある魔法ではないが、追尾性と射程は悪くない。こういう情況にはぴったりだ。


「うぐっ、僕の鞭は燃費が悪くて……」


 ナナがお腹のポケットをごそごそして、魔力ポーションを取り出した。

 そして蓋を着ぐるみの羽で開けようとするが、手こずっているな。開いてない。


「あれ? 開かない……」

「任せてください!」


 ステラはすすっとナナが持っているポーションを受け取り、きゅっぽんと蓋を開けた。


 その間にもヴィクター兄さんはふよよーと俺たちを運んでいる。俺は蔦を振り回し、近づいてくる砂の精霊を迎撃だ。


「さぁ、ぐびぐびっと!」


 ステラがポーションをナナのくちばしへと突っ込む。


「ごっきゅごっきゅ……!」

「いい飲みっぷりです!」


 大丈夫なのか……?

 羽をバタバタさせてるけど。


 しかしちょっとするとポーションの効果が出たようだ。

 びくっと震えた直後、ナナに魔力がみなぎっている。


「魔力戻ってきた!」

「良かったです……!」


 ヴィクター兄さんが羽をぴこぴこさせる。


「むっ、それじゃ……地上に飛んでくれるか? 俺の風魔法だとこの状況で速度が出せん」

「まとまるのは任せろ」


 俺はみんなを蔦の魔法で優しく包む。

 ヴィクター兄さんの風魔法もぎゅむっとまとまるのを感じる。

 これで大丈夫だろう、うん。


「わかった……! いっくよー!」


 ナナの着ぐるみが超加速をし、俺たちも一緒に飛んでいく。


 砂嵐がどんどん遠ざかっていく。

 よし……これで脱出もオッケーだな!

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