654.竜との決戦

 黒い砂嵐の竜は、ゆっくりとステラとナナを睨みつける。ナナはその姿形よりも、魔力量に肌がぴりぴりするのを感じていた。


「ヤバいね。桁外れの魔力だ」

「ええ、しかし……ここは天井が低いですからね。宮殿のときよりもずっと有利です」


 ステラはバットを構えている。

 ファントムはまだ空を漂っているが――さっきから攻撃を止めていた。


「魔力が……砂嵐の竜に集まっている?」


 むしろファントムの影が砂嵐の竜へと流れていくようだ。


「どうやら細かい攻撃ではなく、一気に集まって決着をつけるようですね」

「まぁ、そのほうがありがたいけど……」


 ナナがお腹のポケットから鞭を取り出そうとすると、砂嵐の竜から猛烈な風が吹き込んできた。


「うわーっ!?」

「くっ……かなりの威力ですねっ」


 黒い砂嵐が連なり、竜が迫ってくる。

 竜の前脚が振りかぶられ――ステラが叫んだ。


「爪に注意してください!」

「はえっ? うわったった……!」


 振り下ろされる竜の前脚。

 大半は黒い砂粒と風だが、爪だけは構造が違った。

 砂の精霊でできており実体があるのだ。


 ステラとナナは前脚の一撃を回避する。

 ステラはサイドステップで避け、ナナは加速能力でかろうじてだが。


「まだ攻撃しちゃダメなんだよね……!?」

「ええ、魔力の波が――えいっ!」


 ステラが爪の部分から分離した砂の精霊をバットで弾き飛ばす。砂嵐の竜の顔面へと。


 パッコーン!!


 卓越したバットコントロールで、砂の精霊は竜の顔面部分へと激突する。


「グアアア……!!」


 砂の竜が少しのけぞる。その様子にナナは少し驚いた。


「効いてる……」

「どうやらエルぴよちゃんの魔力の波で、竜の特質も変化しているようですね。少しは効果があるようです」

「まだ先は長いか……ふぅ」

「今の手応え、ふつーのドラゴンならかなりの打撃のはずですからね」

「……軽く打ったようだけど?」

「ふふっ……今のわたしはノッてますからね!」


 砂の竜がふたたび爪を振りかぶる。

 ステラの瞳がきらりと光った。


「これはイケます!」

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