597.砂の精霊

「戦い振り……ですか?」

「ああ、こちらの学者先生は擬似的に精霊を生み出せる魔法を使える」


 ヴィクター兄さんがぽにっと促すと、後ろの学者が手をかざした。


 魔力がゆっくりと練られて、形になっていく。

 やがてそれは巨大な砂の結晶となった。


「精霊魔法か」


 精霊魔法はその名の通り、様々な属性の精霊を生み出して操る魔法だ。

 それなりに遠くからでも操れるので、戦闘には便利な魔法と言える。


「おっ、なんだなんだ」

「早くも一戦やるのか」


 奥から学者風の人がぞろぞろと現れる。


「この奥の広間が発表会場になっていて、かなりの人がもう到着しているからな。これから人は来るぞ」

「なるほど……。それでステラはどうする?」


 こうした戦い振りを見せてほしいという展開だと、ステラは乗ったりしない。


 だが、ヴィクター兄さんと学者先生がすすっとスライドしてくる。


「野ボールのすごさを見せてくれないか?」

「そうそう、コカ博士から聞いて興味があるんだ」

「ぜひとも精霊学の発展のために……!」


 事前に練習してたかのようなムーブだった。

 ステラを煽っていくぅ。


「野ボールに興味があるのですか……。それならもちろん、やらないわけにはいかないですねっ」


 ステラがバットを手に取る。


「さくっと行きます!」

「おー、やる気だ……」

「ナナ、応援用バットを!」

「あいよー」


 ごそごそとナナがお腹から数本のバットを取り出す。


「これ、応援用のバットみたいなんで」

「これが……」

「ふむふむ……」


 ナナがすすっと学者先生へと配っていく。


「じゃあ、俺も配るか」


 すすすっとナナからバットを受け取り、俺も配っていく。


「このバットはそこにおられるエルぴよちゃん謹製の神バットですので、どうぞご確認のほどを……!」

「普通の木のような……」

「神、これが……?」


 いや、普通のバットだからな。

 特別なことは何もないはずだ。ステラが特別なだけである。


「さぁ、行きますよ……!」

「始めよう。適当に砂の精霊を動かしてくれ」


 ヴィクター兄さんが促すと、砂の精霊が空中を滑るように移動してくる。


「ちなみにこの部屋はかなり頑丈にできている。理論上はドラゴンの鱗よりも硬い」

「なるほど……!」


 ステラが前に出ながら、バットを振り抜く。


 砂の精霊は木っ端微塵に砕け散った。


 ステラが再びバットを構える。


「では、加減しないとマズいですねっ!」

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