596.迎撃の間

 そんなわけで宮殿内を進む。

 準備員には出くわすが、特に何も言われないな。


 調度品の雰囲気は俺の国とはかなり違う。

 丸いのは砂が原因だが、白が圧倒的に多いのだ。


「この宮殿もそうだが、砂漠の国では白が尊ばれているのかな?」

「言われればそうだね……。なんでだろう?」

「聞いたことがあります。砂漠の国だと光を吸収しない白が利用されているらしいです」

「ああ! そっちの理由か」


 俺はぴこぴこと羽を動かした。


「実用的な理由だったな、うん」

「へー、そこまで考えているんだね。砂漠の国はよく知らなかったけど、面白い」


 ふむ……旅経験豊富そうなナナもそうなのか。


「ヴァンパイアはこの辺りにはいないのか?」

「いないね。太陽光がキツすぎる。それにトマトもない」

「野菜類は高級品ですね。外から買うのが主になりますから」

「ううむ、なるほど……。タイミングが良ければ街にも出てみたいな。ここは砂漠の真ん中だし」


 さっきの境界の街はすぐ荒野があり、周りを完全に砂に囲まれているわけじゃない。


 実際、あの周囲の村や街は砂漠の国へ食料品を輸出している。


 そして砂漠の国は、地下資源をそうした村や街へと輸出している。


 お互いに生産性の良い品目で取引しているというわけだ。


「砂嵐はおさまりつつあるか」

「ですね……。弱まっているように思います」

「それでもまだ外へは出ないほうがいいと思うけど」


 それから道なりに廊下を歩いて適当に進んでいくと、大広間へと出た。


 しかしここには調度品が少ない。殺風景な大広間だ。


「ほうほう……ここは迎撃の間ですね」

「迎撃の間?」

「侵入者を効率よく撃退できるよう、罠として作られた広間です。ほら、足音が違います」


 ステラがぽむぽむと足を踏み鳴らす。


「……すまん、よくわからん」

「んむ、落とし穴? よく気がついたね」


 ナナはわかったようだ。ぽにぽにと足を踏み鳴らす。

 ペンギンがバタバタしてるみたいだな……。


「浅い落とし穴だね。下半身がハマるくらいだ」

「そうです。いざというときは、ここが落ちるんです」


 なるほどな、実践的な仕組みだ。俺の国にはここまでの備えはない。

 感心していると、広間の奥から何人かの学者風な人が歩いてきた。


「むっ……?」


 その中の一人は見覚えのある着ぐるみだった。

 ヴィクター兄さんだ。


「ちょうどよい、ステラ。ここに来ていたか」

「? 何かありましたでしょうか」

「うむ、向こうで精霊学者たちと話していたんだが……先に見たいそうだ」


 ぽてぽて。


「君の戦いぶりをな」

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