589.サボテン水の可能性

 ナナの用意したコップにサボテンの果肉をつけて、サボテン水の完成だ。


 ステラが残ったサボテンを軽く揺らす。


 ちゃぷちゃぷ。


「残り半分くらいですね」

「ふむ、やはり大人15人分くらいか」


 俺、ステラ、ウッド、レイア、ナナ、ヴィクター兄さん。ディアとマルコシアスは2人で大人1人分だ。


「ぴよー! 飲むぴよー!」

「ああ、おいしく頂こう」


 そんな感じでサボテン水を各々飲み始める。

 ……いや、着ぐるみ組はストローだが。


「コレは皮までイケるから、そのまま口に突っ込んでも大丈夫だぞ」


 ヴィクター兄さんは果肉から行く派らしい。早くも果肉をくちばしの奥へぐっと突っ込む。


「経験があるんだね」

「砂漠でフィールドワークしたこともある。というより、海より陸の砂漠のほうが魔物研究は安全だが」

「ウゴ、言われてみれば」

「水中では魔法を発動させるのも難しい。呼吸用の魔法具がないと何分も潜っていられないぞ」

「感覚が麻痺しているが、そうだな」


 俺はストローをくちばしに運び、ゆっくりとサボテン水を飲み始める。


 果たしてどんな味か。

 最初はちょっとだけにしよう。


 ズズッ……。


 ――ッ!


 アロエジュースだ、これ……!!


 ねっとり甘く、少し癖がある。

 確かに甘いだけじゃない。

 でも爽やかな風味が……砂漠によく合う。


「ぴよよ、おいしいぴよよー!」

「こってり甘みとちょっとした酸味がいいんだぞ!」


 ディアとマルコシアスがごっくごくとサボテン水を飲んでいく。


「ウゴ、果肉もおいしーよ!」

「ぴよっ! 皮ごといっちゃうぴよね……!」


 ディアがサボテン果肉を羽で取り、一気に頬張る。


「もしゃもしゃ……ぴよ! ジューシーぴよね! サボテン水がよく染み込んでいるぴよ!」

「どれどれだぞ……もしゃもしゃ」


 マルコシアスもサボテン果肉を食べる。


「だぞ! これはいいんだぞ!」

「ぴよよー!」


 よかった、子どもたちには大好評のようだな。


「これは初めて飲むけど、イケるね」

「私は久しぶりですけれど、味がよくなってますね」


 ナナとレイアもおいしそうに飲んでいる。


「ふむ……しかし思ったより、フルーツっぽいな。おいしい」

「ここら辺りでは貴重な農作物みたいですからね」


 だろうな。見渡す限り砂漠では、普通の農業は営めない。


 とはいえ、物珍しさはあるし……味も良い。

 村でも育てられれば、面白そうだが……。


 おっ、何やら商人たちが休憩所から去っていく。


「砂嵐が去ったぞー!」

「急いで出発だー!」


 バタバタと大勢が出ていったな。

 これもまた風情だ……。


 よし、俺たちも出発しようか。

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