588.サボテン水をぱらっとね

 ミニサボテンの下は棘が抜かれている。

 なのでしっかり持てば大丈夫だな。


 15杯分と考えると……5キロくらいあるのか、これ?


「わたしが持ちますね……!」

「ありがとぴよ!」


 ステラがすすっと軽々ミニサボテンを持つ。


 さて、どこか落ち着ける場所は……。


「ウゴ、あそこに空き地があるよ」


 ウッドが街の奥を指差す。

 そこには馬車や商人が大勢たむろしていた。


 近くには看板があり『休憩所』とある。


「旅人用の共用スペースみたいだな、あそこへ行こう」

「ぴよ! 飲んでみたいぴよねー!」

「わふ。どんな味なんだぞ?」

「きっとすごーく甘かったりするぴよ!」

「ふふ、そうですね」


 ステラは微笑んでいる。


 あっ、これは……『違うと知っているけど、ほどよく肯定しておくステラの笑み』だ!


 ちょっと困っている雰囲気が出ているので、俺にはわかる。


「……ぴよ」

「な、なんでしょう?」

「じぃーぴよ……」


 ディアがステラを見上げる。

 ちょっとして、ディアがマルちゃんに密着して話し始める。


「……ちょっと違うそうぴよよ、マルちゃん」

「そうなんだぞ?」

「わかったぴよよ。かあさまの顔が『少しだけ甘いといえるけど……』そんな顔ぴよ」

「ふぇぇ……ぐ、具体的ですっ!」

「ま、まぁ……飲んでみよう」


 休憩所について、スペースを確保する。


 軽い木造の屋根にベンチとテーブルがあるだけだが、休む場所としては妥当か。


 休憩所にもいくつか看板がある。

『→貸しシャワー屋通り』『↑仮眠所通り』

 と次の客を逃がそうとしないのは立派だ。


 この街が交易都市であることがよくわかる。


「じゃあ、さっそく飲みましょうか……!」

「コップはあるよ」


 ナナがお腹から取り出したコップを眺めつつ、ヴィクター兄さんがつぶやく。


「便利だな」

「ナイフもありますか?」

「はい。さすがに手刀じゃ無理なんだね」


 ナナがどでかいミスリルのナイフを渡す。


「3分の1くらい中身がなくなっていいなら、可能なのですが……!」

「手で切れるんだぞ?」

「こう、しゅってやれば切れますよ。でも精密さには欠けますから、派手にぶちまけちゃいます」

「ウゴ、それだと残念……」

「そうです、やはり基本に忠実にやらないとですね」


 ステラは言いながら、ナイフを軽く動かす。


 するとサボテンの上に筋が入り、ぱらっとぶつ切りになった。


 ……はやい。

 この部分を果肉として食べるんだな。

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