582.夢に見る

「……そうですよね。わたしが名乗り出るわけにも行きませんし」

「名乗り出るのはナシなんだね」

「ぴよ。しかもあたしたちは南に行く途中ぴよ」


その通り。残念だが、寄り道している時間はない。


「帰りにまた寄るから、少し考えてみるか?」

「……! はい、死ぬ気で考えておきます!」

「すごく熱心なんだぞ」


それから村に入って、休憩所を探した。

村の真ん中にあるようで、酔っぱらいをかいくぐらなくちゃいけないな。


「はー、お酒おいひー」

「串焼きうまー」


完全に出来上がっている。

まぁ、お祭りだからこんなものか。


さて、休憩所は……。

人がごろごろと寝ているな。


休憩所というか、雑魚寝所になっている。


「ぴよ。人がいっぱい寝てるぴよ」

「酔いつぶれた人を転がす場所になっているんだぞ」


うむ、そんな感じだな。


「あの奥にはまだ座れそうなテーブルがあるが」


そこで俺はちらっとヴィクター兄さんを見た。

なんとなく、彼の性質にこの雑魚寝現場は合わないのではないか……?

全く想像できない。


「うぃー、コカトリスの着ぐるみかぁー?」


しかも雑に絡むおっさんが……!


「……そうだが?」

「おう、そしたら……コップにストローがねぇとなぁ!」


べろんべろんに酔っ払ったおっさんが、コップにストローを差してヴィクター兄さんに押し付ける。


「ふむ……」

「飲め飲め! スティーブン様も浴びるように酒を飲んだと言うしさぁー」

「えっ……だぞ!?」

「酒を体にかけて、トロルに突撃したらしいけど本当かなー?」

「そんなわけないですよ……!」


ステラがぶんぶんと首を横に振る。


「僕が思うに、後世の酒売り商人が捏造してるね。よくある話さ」

「ふーん。じゃあ、俺は夢の中でまたスティーブン様に会ってくるからよぉー」

「ここにいるぴよね……」


おっさんは雑に語って、テーブルにつっぷした。


「ぐごー!」


どうやら言葉通り夢の世界へと旅立ったようだ。


「嵐のように話して寝たな……」

「全く、とんでもない伝説が残っているのですね。ナナぴよ、バットを……!」

「はい」


ナナが流れるような動作でお腹のポケットからバットを取り出す。


「このサイン入りバットをそっと置いておきましょう……」


なぜ?


と、聞いたら啓蒙です!

そんな風に言われるのがわかっているので、俺は黙っていた。


どうせみんな酔って寝ていて、そばにバットがあっても気にしないだろう。きっと。


「ふむ……やはり酔っ払いはダメだな」

「うん?」


ヴィクター兄さんがストローを外し、コップを逆さまにする。しかし何もこぼれない。


「空っぽだ」

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