561.見えてないところで

 魔導トロッコを見学しに、村人達が集まってくる。

 ここで半日展示したあと、いよいよ地下へと運ばれる。


 アラサー冒険者とナールが連れ立っているな。


「ほー。これがウチの魔導トロッコ……」

「にゃ! 素晴らしい出来栄えにゃ!」

「ぴよっとしてますぜ、これは」


 すでに村人はボートで慣れているからな。

 この見た目や内装を疑問に思う人はいない。


「もっぐ! 興味ある人は客席に入れますもぐよー!」


 俺は特使の人に声をかけた。


「特使の方、もしよろしければ乗ってゆかれますか?」

「おお、お気遣いありがとうございます。では、そうですな……ここはひとつ、お邪魔いたしましょう」


 そう言って、特使の方が乗り込む。


「ぴっぴよー」(おー、できてるー)

「ぴよよー」(でっかーい)


 お、コカトリス達がやってきた。

 ステラが解説する。


「今日、トロッコを地下まで運んでくれるぴよちゃんですね……!」

「凛々しい顔付きですなぁ……。やはりザンザスのコカトリスとは違うような」


 コカトリスはキリッとした顔をしている。


「ぴよ」(おやつをもらえると聞いて……)

「ぴよ」(たぷみを減らせると聞いて……)


 ……多分、おやつとダイエットのことを考えている顔だな。

 それにしてもザンザスとの違いがある……のか?


「ザンザスとここのコカトリスはそんなに違うのか?」

「ザンザスぴよのほうが好奇心が強いですね。まず二足歩行していると近寄ってきますから」

「そうですなぁ、私も何度もご飯をねだられましたからな」


 はははっ! とステラと特使は笑い合う。


「ここのぴよは野にいたり、ドリアードと暮らしていたからな。やはりマインドが少し違うのか」

「そうですね、あり得る話です……。ぴよちゃんには無限の適応性がありますから」

「およそ人間が住めないところにもコカトリスはいますからなぁ……」


 そんな感じで和やかに会話は進む。


 やがて順番が来て、特使の人がぴよシートに腰掛ける。もちろん俺も隣で一緒に座る。


「ほほう、これはこれは……実に座り心地が良いですねぇ」

「このシートは村の内製になるが、どうだろうか?」

「なるほど……ノウハウはキチッと持っておられると。レイア殿が仰られる通りですな」


 そのレイアはトロッコから離れて、静かにコカトリスをもふっていた。

 間違いない。コカトリスの斜め後ろ、皆の死角にひそみ――もふもふしてる。


「レイア殿は卓越した経営者です。このたびもこの魔導トロッコを――」


 特使の人が語り始める。


 その向こうで、レイアは大胆にもコカトリスの背中に顔を埋めつつあった。

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