531.過去のことなので
うーむ、このままでは話もできない。
「よくわからんが――まぁ、とりあえず立ってくれ」
「うぅぅ、すみません……」
ちなみにステラは震えていた。
俺がこそっと止めてなかったら、土下座合戦になっていたかもな。
中に入ってもらうと、ディアとマルコシアスが起き上がっていた。どうやら今の謝罪の声で起き上がったらしい。
「ぴよよー。お客さんぴよ?」
「みたいなんだぞ」
ディアはそれを聞くと、ぴしっと立ち上がった。
「ぴよ! 歓迎しますぴよよ!」
「ようこそおいでくださいましたなんだぞ」
「ありがとうございます……。お噂はかねがね……」
カミーユはディアとマルコシアスに順番に握手をする。
あれだな、鍛冶ギルドの面々は縮こまっている。
そのまま応接間へと通し、座ってもらう。
「楽にしてくれ。それで、さっきの謝罪についてだが……こちらはあまり心当たりがない。どういう訳なんだ?」
「むしろ謝罪するのはわたしのほうだった気がしますが……」
俺とステラの言葉に、カミーユがバッグから1冊の薄い本を取り出す。
結構古ぼけているな……。相当古い本だ。
「こちらは鍛冶ギルドに伝わる、業務日誌ですが……。ちょうどステラ様のおられた頃のものです」
「ほう……」
なるほど、古いはずだ。
数百年前の書類というわけだな。
「ここに、先代達の……その、不敬な行為の数々がっ! 魔物を退治してくださったステラ様に様々なご無礼をー!」
また土下座しそうになるカミーユ達。
俺はそれを手で制する。
「わかった、そういうことか……」
鍛冶ギルドの面々は面々で、気に病んでいたんだな。
こちらがどうにかするまでもなかったらしい。
ステラを見ると、顔が晴れやかになっている。
「わたしも気にしてはいませんよ……! 今日という日は新しい未来に向けて、ともに歩む日にしましょう!」
「「ステラ様ー!」」
「借りていた武器を壊しちゃった件、これも綺麗に水に流すということで……!」
「「もちろんですー!!」」
「魔物の襲来でバリケード代わりに内装を破壊してしまった件も、なかったということで……!」
「「ははー、当然でございますー!!」」
ふむふむ、良かった。
ステラがノッてきたのか、拳をぐっと握る。
「では、わたしが魔物をふっ飛ばして工房を木っ端微塵にしたのも不可抗力ということで……!」
「「……えっ」」
そこでカミーユ達は顔を見合わせた。
「初めて聞きました……!」
「もしかしてあの謎の損失計上……?」
「なぜか記録上、工房が更地になったアレ……?」
あっ、どうやらこの件は把握してなかったらしい。
ステラも拳を握ったままフリーズしている。
「……まぁ、昔のことだ。一件落着ということで!」
俺の言葉にカミーユ達がはっとした。
そして声を揃える。
「「ということで!!」」
鍛冶ギルドもまぜ返す気はないようだ。
うむ、良かった。
何も良くないかもしれないが、これで過去の話は終わったのだ……!
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