517.ぴよと新しい塔

 それからまた数日が経過した。

 ヒールベリーの村はまさに春の真っ盛りである。


「ぴっぴよー」(るんるんー)

「ぴよっぴよー」(らんらんー)


 コカトリス達も軽快にお散歩をする。


「……ぴよぅ」(ぐー……)

「ぴよ」(ちょいちょい、半分寝てますよ)

「ぴよ」(かろうじて歩いているレベル)


 寝ぼけコカトリスがよたよたしている。

 春は眠い。もっと寝ていたい。しかし外に出て散歩もしたい。たぷも減らさねば……。


 そんな本能と理性の狭間で、このコカトリスは村を歩いていた。


「ぴよ……」(やっぱり寝る……)


 だが今日は小風が気持ちいい。

 本能に負けたコカトリスが、地面に寝転がる。


「……ぴよ」(……寝落ちしちゃった)

「ぴよ、ぴよよ」(やむを得ない、担いでいこう)

「ぴよっ!」(らっじゃー!)


 2体のコカトリスが寝落ちコカトリスを担いで、えっさほいさと運ぶ。


「ぴよよー……ぴよぅ」(ありがとー……すやぁ……)


 担ぎ上げるコカトリスは、元気に声を上げる。


「ぴよっ!」(昨日はボクが担がれるほうだったからねっ!)

「ぴよ! ぴよー!」(おとといはわたしだー! お互い様ー!)


 えっさほいさ。

 コカトリス達はそのまま村を練り歩く。


「ぴよ?」(ん??)

「ぴよよ?」(こんなのあったっけ……?)


 大樹の塔近くに、見慣れない建物がある。


 かなり高い建造物である。だが、大樹の塔の向こうにあったので見落としていた。


「ぴよ」(なんか作業してる……?)

「ぴよよー」(この前の温かい石を運んでるー)


 その他にも大きな馬車から荷物を下ろしたり、色々と運び込んだりしている。


 好奇心旺盛なコカトリス達が、とてとてと近寄っていく。


「おっ……コカトリス達か」


 エルトがコカトリス達へ手を振る。


「ぴよー」(こんちはー)

「ぴっぴよー」(手からご飯を出す人だー)


 コカトリスの認識は緩い。

 もろもろの身分関係など、かけらも知らない。手から植物(食べ物)を出す人だと認識している。


「ちょうど良いかもですね……。このぴよちゃん達にテストへ参加してもらっては?」


 ステラは隣のエルトに話しかける。


「ふむ……そうだな。コカトリスの視点からどうなのかも、ちょっと気になるな」

「ぴよ?」


 数十分後。

 新・大樹の塔のロウリュの部屋。


 木製の段に、コカトリス達は座っていた。


「ぴよ」(いつの間にか)

「ぴよっぴ!」(新しい遊び場にきた)

「ぴよぅ……」(ぬくい……)

 部屋の壁に接するように、サウナストーンが置かれている。すでに熱は入れられ、部屋は温められている。


「ふぅ、なかなかの暑さですね……!」


 タオル(ぴよみデザイン)を巻いたステラも、段に座っていた。


「……なぜ、わたくしもですわ?」


 タオル(普通のデザイン)を巻いたジェシカも、ステラの隣に座っている。その横には杖が立てかけてあった。


「いえ、その杖なら良い水を出せるなー……と!」

「それだけですわ!?」


 ステラはびしっと言い放つ。冒険者にはやや強めに出るステラである。


「もとい! 素晴らしき先行体験というやつです!」

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