511.鍛冶ギルドとのアレコレ

 ロウリュの話を進めて1週間。

 いよいよ本格的な春になってきた。


「今日はかなり暖かいな」


 まだ朝だが、もう厚着は必要ない気温だな。

 ユニフォームで十分なくらいだ。


 今日は休日だ。

 読書をしながら、ゆっくりとソファーに腰掛けて紅茶をすする。


「そうですねぇ……」


 ステラも俺の隣にひっつきながら、ぽわぽわしている。


「まだ半分寝てるんだぞ」

「そうですねぇ……」

「半分寝てるぴよね」


 マルコシアスは子犬姿になって、ディアとテーブルの上に寝転んでいる。


「ウゴ! じゃあ湖に行ってくる!」

「気をつけてな」

「いってらっしゃい〜」

「いってらだぞー!」

「いってらっしゃいぴよー!」


 今日のウッドはララトマとデートだな。

 黄色いスカーフを首に巻いて、おしゃれしている。


 俺としては成功を願うばかりだ……。


「そういえば、そろそろロウリュの試作や土風呂の移設だな……」

「はっ! そうでしたね……!」


 ステラがぴくっと動く。


「ザンザスの鍛冶ギルドは優秀だそうで、もう試作はできるみたいだ」

「ははぁ……。なるほど……。鍛冶ギルドですね、なるほど……」

「母上が目をそらしたんだぞ」

「なにかあったぴよね」

「なにかあったんだぞ」

「借りていた剣や槍を折って、泣かれたことなんてありません」

「あったんだな……。ふむ……」


 ザンザス三大ギルドの中でも、鍛冶ギルドだけはヒールベリーの村との付き合いが浅いかもな。


 冒険者ギルドはステラを(時に過剰に)敬っている。

 薬師ギルドは――アナリアを始め、何人も移住して薬関係を作っている。


 それに比べると、鍛冶ギルドからは連名で書状が来る程度だ。


「不思議と言えば、ちょっと不思議か……」


 俺のつぶやきに、マルコシアスが手をちょいちょいと振る。かわいい。


「多分、母上とのアレコレが関係してる気がするんだぞ」

「マルちゃんは察しがいいぴよね。そんな気がするぴよ」


 もみもみ。

 ディアがマルコシアスの脇をもみもみしている。


「まぁ……俺もちょっと気にしてみるか。トロッコやロウリュのように、機械的な話も進んでいることだしな」


 機会があったら会ってみるのも手である。


「そう、ですね……。……先に伝えておきますが……」

「うん」

「魔物が大挙して押し寄せてきたとき、鍛冶ギルドの工房で大暴れしてメチャクチャにしました」

「……うん」

「鍛冶ギルドの方々は泣きながら、不可抗力だよとは言ってくれましたが」

「……だぞ」

「その後も2回、魔物が押し寄せてきて――いつも鍛冶ギルドのあった方角から狙われるんです。もう移転したようですが。つまり、その――」

「何度も壊しちゃった、と……」


 ううう、とステラはうなだれた。


「だって硬そうな鉄や資材がそこにあるので……!」

「そ、そうか。そうだな……」


 魔物が押し寄せてきたとき、その被害をどう受け止めるか。今なら相当マニュアル化されているが、数百年前だとな……。

 色々とあったろう。


 俺はステラの肩を抱いて、ぽんぽんと慰めた。


「ぴよ!」


 ディアがぴょんと前に出てくる。


「仕方ないぴよよー!」

「仕方ないですよね……! 人的被害はゼロにしましたし……!」


 ……うん、ステラは悪くない。

 コラテラル・ダメージというやつだろう。

 だけど、それとなく探りは入れてみようか……。

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