510.鍛冶ギルドのカミーユ

「るんるんー」


 レイアは鼻歌をしながらザンザスの大通りを歩いていた。その隣にはシエイがいる。


「ご機嫌でござるな」

「ええ、ステラ様のおかげで本格的な図ができましたから。これだけの情報があれば、ザンザスの鍛冶ギルドはやってくれるはず……!」


 レイアがぐっと拳を握る。


「魔導トロッコでもお世話になったが、今回もお世話になるつもりだ」

「お世話になりっぱなしでござるな」

「お金はちゃんと払ってるし……」


 シエイはジト目である。

 レイアと同じペースで働き続けることなど、誰にもできない。

 まぁ、最近のレイアはその点にも自覚があるから良いが。


 鍛冶ギルドは冒険者ギルドから少し離れたところにある。大掛かりな実験室と工房とセットであり、常に煙が吹き上げているのだ。


 レイアは鍛冶ギルドの本部前で、ちょちょいと佇まいを直す。

 コカトリス帽子も完璧な位置にセットされた。


「お邪魔します……!」


 ◇


「またですか! またお仕事ですか! またまたまた追加のお仕事なんですか!」


 鍛冶ギルドの副ギルドマスターは、応接間のレイアに詰め寄った。


 もこもこ毛、ほぼ二足歩行の白ウサギであるラビット族のカミーユが叫んでいた。


「でもおかげで、お金はたくさん稼げています。ありがとう!」


 ぺこり。


「どういたしまして……!」


 レイアもカミーユとの付き合いは長い。

 このあたりのやり取りは定型である。


 カミーユはレイアからもらった書類を見ながら、ささっと走り書きをしている。

 持ち手の先に、コカトリスのミニ像がくっついたペンである。


「はー……。滑車と台と魔法具、なるほどー……」

「ロウリュと言う施設ですね。予算やスケジュールの細かいところはシエイからの資料に――」

「こちらでござる」


 シエイの差し出した資料を、カミーユが黙読していく。

 下まで読んで、カミーユがむむむと唸る。


「相変わらず、かなりの高額予算とキツめのスケジュール……!」

「日常業務に追加でござるからな」


 近隣の鍛冶職人にも声を掛け、仕事を割り振らないとならないだろう。

 それなりに長い付き合いなので、シエイにもその苦労はわかった。


「やはり『無理』ですかねぇ……?」


 ぬいーんと首を伸ばすレイア。

 こうした態度を取るのは、ザンザスの同業者だけである。


「いやー、さすがの鍛冶ギルドでも荷が重い話でしたか……」

「むっ! 聞き捨てなりません!」


 カミーユがばっと立ち上がる。

 その瞳はメラメラと燃えていた。


「受けて立ちましょう! ザンザスに鍛冶ギルドあり! たくさん働いて、たくさんお金をゲットします! お財布の紐を緩める用意をしていてください!」

「頼もしいでござるな」

「ええ、本当に。あっ、こちらはカミーユに……」


 レイアが鞄の中から、すすっとニンジンを取り出す。


「はわっ! ニンジン……!」

「いつもすみませんね、無理を言って」


 レイアは手慣れた様子でカミーユにニンジンを渡す。

 それをニマニマしながら、カミーユは受け取った。


「……んふふー」

「では、詰めの話をしましょうか」

「ですねー」


 二人ともライバル意識はあれど、それなりにうまくやっている。


 こうしてロウリュ作りは急加速していくのであった。

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