479.記憶をたぐって

「いつの間に作ったんだ……? 良く出来てる」


 そのぬいぐるみは一目で俺の着ぐるみを元にしているとわかった。

 ちゃんと同じようなリボンも付いてるし……。

 かわいい。


「昨日の夜、せっせと作った。割といい出来だろう?」

「ああ、驚いた……ところで、断然良いというのは?」

「ふむ……この前、北の芸術祭でミニチュアサイズのヒールベリーの村を見た」


 コカトニアの村だな。

 あれも調整中だが、販売は近いはずだ。


「単品のぬいぐるみだけではなく、ああいうシリーズとしてまとめるのは非常に賢い。軌道に乗れば、長く優位を保てるだろう」

「だと願っているが……それで?」


 そこでヴィクターは博士とエルぴよぬいぐるみを手に取って揺らした。


「キャラクター性を付与すれば、さらに優位を得られる……そう思わないか?」


 むっ。

 ……鋭い。


「確かに……それはそうだ」


 俺はふむふむと頷く。

 コカトリスグッズはザンザスだけの専売特許ではない。

 この港にもコカトリスのガラス製品があったしな。


「なるほど……そう考えると悪くない」


 俺の着ぐるみのぬいぐるみは……うん、まぁ……。


「すぐにとは言わん。検討してくれ」

「わかった。前向きに考えよう」


 ヴィクターがすすっと試作品のぬいぐるみ2体を俺に差し出す。


「さて――次の話だ。ベルゼルから聞いたが、お前の母親についてだ」


 ヴィクターが幾分か重々しい口調になった。


「俺はお前の母親に会ったことが、多分ある」

「――ッ!」


 俺は立ち上がりそうになるのを堪えた。

 持って回った言い方がひっかかる。


「……多分か。歯切れの悪い言い方だな」

「後から思えば、あの人がお前の母親だったのではないかと……そう判断できただけだ。つまりお互いに予期せぬ顔合わせだったということ」

「ばったり会った、ということか? でもまぁ、この国の貴族なら、どこかの社交場やらで会ったことくらいはあるだろう」


 言っているうちに、俺は冷静さを取り戻した。


 思えばある程度以上の年齢なら、俺の母親と顔見知りだったのはあり得る。

 近況を知る人間は少ないだろうが、過去は――。


 だが、次のヴィクターの言葉に俺は衝撃を受けた。


「……会ったのはザンザスだ。一時期、お前の母親は冒険者としてザンザスにいたんだ」

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