469.それぞれの間

 大廊下の先に石の扉があった。

 ここまでは記憶通りだ。


 ウッドが門に触れて力を込めると、扉がずずっと動く。


「ウゴ……重そうだけど、開きそうだね」

「では、せーので行きますか……!」


 ステラとウッドがフロントで、俺達は後方でスタンバイする。

 一応、何が起きるかわからないからな。


 魔物の気配というか、そういうのはないようだが。


「行きます……せーの!」

「ウゴ……!!」


 ゴゴゴ……!


 ゆっくりと石の扉が開いていく。


 ……ごくり。

 さて、何があるか……。


「んんっ……?」


 覗き込んだステラが声を出して――そのまま中へと入っていく。


「これは……!!」

「何かあったか……?」


 続いて俺達も台座の間へ入っていく。


 そこにあったのは――枯れかけた大樹と大理石の像だった。


「ぴよっとしてますね……!」


 ステラの瞳がきらきらしている。

 さっきまでのシリアスな雰囲気は消し飛んでいた。


 それもそのはず、大理石の像はコカトリスをモチーフにしていた。


『ぴよっ!』


 そんな感じで楽しそうに片脚を上げて――さらに片方の翼でバットを持っている。

 ……謎の像だ。


「ふむ、ふむ……」


 ヴィクターぴよもすすっと像に引き寄せられている。


「あまり迂闊に近づくと――」

「わかっている。着ぐるみがあるから、万が一のときも大事には至らん」

「着ぐるみに命を預けてますわね……」


 周囲を見渡してみると、大広間ほどではないが天井の高い空間だな。


 面積は広くないが、高さのおかげで開放感がある。

 こころなしか……壁面と床が白いような? より光沢がある。


 と、ナナが床に着ぐるみヘッドを押し付けていた。

 土下座みたいな態勢になっている。


「興味深いね……」

「床を調べているのか……?」

「そう、その通り。僕にもわかるくらい、床の下を魔力が通っているね。どうやら海底神殿の全域からここに魔力が集中しているようだね」


 ナナが床を羽でさすさすしている。


「いや、もっと広いかな。神殿だけじゃない。この海域……あるいはもっと範囲は広いかもしれない」


 ヴィクターとナナは自分の世界に入っているな……。


「はぅ、なかなかの彫像ですね……。レベル高いです。コカトリススキーの波動を感じます」

「そ、そうか……」


 俺が気になっているのは、像の後ろにある枯れかけた大樹なんだが……。


 この大樹も像もゲームの中にはなかった。


「……まぁ、いいか」


 ちょっとだけ安心した。

 やはりこの世界はゲームとは違うのだ。


 ちなみにぴよ達は……。


「……ぴよ」(……ねます)

「ぴよよ……」(おひるね……)


 興味を引かれるものがなかったためか、集まって寝転がっていた。

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