443.マルちゃんの部屋

 ……ステラは夢を見ていた。


 コカトリスグッズに埋もれた、謎の空間。

 そこにふもっとした子犬姿のマルコシアスがいる。


「だぞだぞ」

「こ、ここは……?」

「マルちゃん時空だぞ」

「マルちゃん時空……?!」

「マルちゃんの部屋とも言うんだぞ」

「……何が起こるんです?」

「大したことじゃないんだぞ」


 マルコシアスがぴっと脚を上げる。


「お昼寝したり、ゲストを呼んでおもしろ会話をしたり何か企画をやったり……だらだらするんだぞ」

「……本当に大したことがありませんね」

「それで今回のゲストは母上なんだぞ」

「わたし……ですか」


 ステラがコカトリスクッションを抱きしめる。


「ごくり……」

「ここに特別企画の案があるんだぞ」


 マルコシアスがトランプくらいの大きさのカードを取り出す。


「選んでくれたのは、我の地獄仲間なんだぞ。地獄横断サイクルに出かけて1000年戻ってこない、バアルちゃんからのミッションなんだぞ」

「色々な意味でヤバそうですね」

「でーん! 皆で食べよう激辛料理……だぞ」

「あっ、それはイケます」

「だぞ?!」


 ステラが胸を張る。


「エルフ料理には激辛料理もありますからね……! 常人なら気絶するレベルでも……」

「……じゃあ、これチャレンジするんだぞ。だぞ?」

「わ、わたしはイケますよ!」

「わふ。それなら呼んじゃうんだぞ……!? カモン、激辛料理だぞ!」


 マルコシアスが言うと、空間に扉ができる。

 そこからバタンと扉が開いて、アシスタントぴよが現れた。両方の羽に激辛ラーメンの器を持っている。


「ぴよっぴ!」(へい! インフェルノ・ラーメンおまち!)


 アシスタントぴよはステラとマルコシアスの前に激辛ラーメンとお箸を置くと、風のように去っていった。


 置かれたのは、ぐつぐつと煮立った真っ赤な激辛ラーメン。

 ラー油、ハバネロ、その他香辛料。

 麺にもハバネロが練り込まれている念の入れようである。香りからして、すでに人を殺してそうな風格があった。


 マルコシアスは無言である。


「…………」

「マルちゃん……?」

「お先にどうぞだぞ」

「わ、わかりました……では、頂きます! はふはふ……」


 ステラはすちゃっと箸を構えると、ラーメンを勢いよく食べ始める。


「んん、なかなか……でも大丈夫ですね。おいしいです!」

「明らかにヤバそうなラーメンなんだぞ」

「わたし以外が食べると悶絶するか、翌日起き上がれなくなるレベルかもですね」


 はふはふとステラは真っ赤なラーメンを食べ進める。


「……だぞだぞ」

「そちらも食べましょうか……? マルちゃん、無理は激辛料理に良くないです」

「ありがとだぞ……!」


 マルコシアスがよちよちと前脚でラーメンの器を抱えて、ステラの元へ持っていく。


「そこに置いて頂ければ、はい……。ああ、ラーメンのレベルは極めて高くていいですね。スープもちゃんと辛みの奥に深みも……」

「だぞだぞ。後は任せてもいいんだぞ?」

「ええ、もちろんです。……あっ、爪が伸びてますね。あとで切りましょうね」


 マルコシアスがラーメンの器を置いて、さっと前脚を隠す。


「レベルが下がるんだぞ……!」

「下がりませんよ!」


 ……後編に続く。

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