421.お忍び

 夜。

 植物魔法で野菜や果物を生み出し、コカトリス達と夜ご飯を食べた。


「ぴよよー!」(おいしー!)

「ぴよぴよよっ!」(はふはふ、たくさんのご飯っ!)

「ぴよっぴよ……!」(ありがとうー……!)


 海コカトリスはもりもりご飯を食べて、そして眠りについた。


「ふぅ、一段落したかな?」

「……そのようですね」


 部屋はコカトリスで満杯に近くなっている。

 俺達は隅っこで寝ることになりそうだ。でもコカトリスがいると和む……。


「ぴよ……。あたしもそろそろ寝るぴよよ……」

「わふふ。我も草だんご作って、お疲れなんだぞ……」


 ディアとマルコシアスが眠そうな顔をしている。

 今日は波に揺られたり、色々とあったからな。

 夜になると疲れが出てきたのかもしれない。


「うー、あたしもです。お日様が沈んだあとは……むにゃ」


 ララトマもあくびを噛み殺している。

 ドリアードは夜ふかしできない。うつらうつらと頭が揺れている。


「ウゴウゴ、そろそろ皆で寝よう」

「むにゃ……はいです」

「おやすみぴよよー」


 どうやら就寝モードになりそうだな。


 ステラとちょっと二人きりになりたいのだが……そう、ねぎらいの意味を込めて。


 と、そこでマルコシアスと目が合った。


「あれ? とうさまとかあさまはぴよ?」

「……まだ話し合いがあるみたいなんだぞ」

「ぴよ……大変ぴよねー」

「そうなんだぞ、我々は先にこてんと寝るんだぞ」

「そうぴよねー……」


 ディアの意識は限界のようだな。

 ウッドに抱えられたディアの目は、半分閉じている。


「……エルト様?」


 ステラはよくわかっていない顔をしていた。

 俺はこそっと耳打ちする。


「ちょっと出掛けないか、ステラ」


 そう言うとステラは一瞬ではっとした顔になった。


「そ、そうですね!」


 あとはウッドに任せておけば大丈夫だろう。

 コカトリスが寝返りをうっても、ウッドなら元の位置に戻せるだろうし……。


「行ってらっしゃいですー」

「いってらーだぞー」

「気をつけてぴよねー」

「ウゴ、こちらは任せてー」


 眠そうな皆の声を背に、俺とステラは街へと繰り出した。


 ◇


 ちなみに今の俺は商人風の寝間着みたいな服で、しかもフード付きだ。

 暗い夜なら……うん、大丈夫だろう。着ぐるみでなくとも俺とわかることはない。


「えへへ……」

「……悪かったな、連れ出して」

「いえいえ、嬉しいです」


 ステラも長いコートを着ている。

 だいぶ温かいが、まだ海から冷たい風が来るからな。


「ちょっと夜のお散歩、とても良いと思います」

「ああ、まぁ……」


 ここはヒールベリーの村ではない。

 宿舎を出ると、すぐに屋台と店が営業している。

 夜に入港したり漁をやる人もいるので、ここの夜はそこそこ長いらしい。


 まぁ、まだ夜になって……8時くらいだけど。

 ヒールベリーの村の夜はかなり早いからな。


「ステラと少し、外を歩きたくてな」


 俺がそう言うと、ステラは俺の腕を取ってひっついてきた。にこーと微笑みながら。


「はい……! わたしもです!」

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