412.海ぴよと帰還

「今日は引き上げか……」

「仕方ねぇよ、相手が違うんだ……」

「でもこのクラゲって、どういう魔物なんだ?」

「……さぁ?」


ルイーゼの帰還命令に、甲板の船乗りが応じるのが聞こえる。


若干の戸惑いはあるようだが反論はない。

まぁ、残されてもリヴァイアサンと戦うことは出来ないからな。仕切り直しということだ。


「ぴよ、これがクラゲぴよね」

「鮮烈な色なんだぞ。見ようによっては、お星さまに見えなくもないんだぞ」

「海で見たらキレーぴよかも……ぴよ」


ディアとマルコシアスの視線が俺と海を行ったり来たりしている。

ステラの顔も少し厳しい。


わかっている。

このまま帰る前に、ルイーゼにはひとつ言いたいことがある。


俺達の船のすぐ側には岩場のコカトリス達がいた。

どうするのか、彼女達も戸惑っているようだな。


「……このコカトリス達はどうする?」

「置いていくしかねーだろ。連れて行ってどうするんだ」


ルイーゼは難しい顔をしていたが、きっぱりそう答えた。


「リヴァイアサンか星クラゲをどうにかすれば、生態系も戻る。コカトリスも餌に困らなくなる。それでいいじゃねーか」


理屈としてはそうだ。

しかし……。


「ぴよー?」

「ぴよよー……」


なんとなく不安そうなコカトリス達。

俺はルイーゼにずいっと近寄る。


「連れ帰るのはだめか?」

「連れ帰って、どうするんだ?」

「……もう少し、話を聞きたい。海のことなら潜れる海コカトリスに聞くのが良くないか?」

「ぴよ! あたしが通訳するぴよよ!」


いつの間にかディアが俺の近くにいた。

レイアの懐からこちらにダッシュしてきたらしい。


ルイーゼは髪に触れながら、ヴィクターに向き直る。


そういえばヴィクターは何の反応もしていなかった。コカトリス好きだと思ったのだが。


「ぴよ博士の意見は?」

「ここはルイーゼの領内だ。俺の考えはあるが、言わないでおく」

「……そーか。あたしに反対されそうな考えってこと?」


ヴィクターは答えない。

ぴこぴこと羽を動かすだけだ。


ルイーゼは空を仰ぎ見ると、ややあって結論を出した。


「ヒールベリーの村で責任を持つなら、いい。会話ができるなら、やりようもある」

「助かる……!」

「ルイーゼ様……」


クロウズがやや不服そうな声を出す。わかっていた反応だ。


「コカトリスの情報に期待するわけじゃねぇ。でも役に立つ何かを知っている可能性も、ゼロじゃない。星クラゲはあたし達もそんなに遭遇しない魔物なんだ。闇雲に海に潜って、どうこうなるか?」

「……承知いたしました。そこまでお考えであれば」


クロウズにも妙案があるわけではない。ただ懸念を伝えたかっただけのようだな。


「ぴよ! それじゃ……海ぴよも連れて帰れるぴよね!」

「そういうことになりますね……!」


ディアもステラも微笑んでいる。


この判断が正しいかどうかはわからないが……。

とりあえず、もっと話を聞き出す必要があるのは確かだと思うのだ。


ちなみに海コカトリスはすんなりついてくることになった。


「……ぴよ」(草だんごが食べられるなら……)


やはり偉大だ、草だんご。


俺も宿舎に戻ったらコカトリス用の草だんごをこねこねしよう。

草だんごパーティーで仲良くなるのだ。

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