396.海沿いの夜

 宴会は特に何事もなく終わった。

 ……ストローで飲む訓練をしておいて正解だったな。


 船乗りの朝は早い。

 宴会もほどほどの時間に終わった。


 自室に戻り、着ぐるみを脱いで一息つく。


「ふぅ……」

「お疲れ様です……!」

「……バレてはなさそうだったよな?」


 ディアとマルコシアスは窓際から海を眺めている。


「大丈夫なんだぞ。ナナぴよの同輩だと思われてるっぽいんだぞ」

「なにも間違ってないぴよね!」

「そういえばそうなんだぞ! わふふー!」

「ぴよよー!」


 テンション高いな。でもそれもわかる。

 夜空が綺麗なのはヒールベリーの村も変わらない。


 しかし離れた小島にきらびやかな光を放つ灯台があった。海にも小さな明かりをともした小船がたくさん浮かんでいる。


 それは間違いなく、美しいと言えるものだ。


「ウゴ、あの船はイカを釣ってるとか……」

「そんな風に言っていたな。干したり焼いたりするんだと」


 前世の日本でも夜釣りでイカは定番だ。

 この世界でも同じらしい。


 しばらく夜の海を眺める。

 ディアのテンションは少し落ち着いて、声が間延びしてきた。


「潮風がきもちいーぴよねー……」

「波音も心地よいんだぞ」

「同感ぴよねー……」


 ちなみにコカトリスはすでに半分ねむねむモードに突入している。

 座りながら、お互いに毛づくろいをしているのだ。


「ぴよ……ぴよ……」(こっくり……こっくり……)

「ぴよっぴー……!」(ねむみ……!)


 羽の動きも止まりそう。

 寝そうだな、これは……。


「ぴよちゃんはそろそろ寝ますです。わたしも寝ますです」


 ララトマも眠そうな声だ。


「ウゴ、明日も早いしね」

「……夜更しできなくてごめんなさいです」

「ウゴ、気にしないで。眠いときには寝るのが一番だよ」


 ウッドがそっとララトマの頬に触れる。


「環境が変わると眠りも浅くなるからな……。俺達も寝るか」

「そうですね。十分な睡眠は、能力を最大限に発揮するのに必要ですし」

「ウゴ! じゃあ、綿を出すね」

「ああ、頼む」


 ウッドがぽぽんと綿を床へと打ち出す。

 この綿布団はとてもふかふか、横になるだけで深く眠れる優れものである。


「ぴよ……もう寝ちゃうぴよ?」


 そう言うディアの目はしょぼしょぼしてる。

 だんだんとねむみが増しているようだ。


「実を言うと、我はもうだいぶ眠いんだぞ」

「……そうなのぴよ?」

「綿に転がされたらびっくりするくらい、ストンと寝るんだぞ」

「限界ぴよ」


 ふにゅんとディアが丸くなる。


「また明日も夜の海は見られるんだぞ」

「……そうぴよね。眠いとあんまり頭に入ってこないかもぴよ」


 えらいぞ、マルコシアス。

 ディアもウトウトし始めていた。寝るモードに入ったようだ。


「よし、それじゃ寝るか……!」


 ぐっーと伸びをする。この暖かさなら、あとは軽く布団があれば大丈夫だな。


「ぴよ……!」(もこもこ綿だ……!)

「ぴよぴよ」(なかなかのふわもこ感)


 コカトリスも綿の上にごろんと寝転がる。

 床は広いので問題ない。


「ウゴ、それじゃ俺も寝るよ」

「頼んだぞ……!」


 ウッドがコカトリスの横に寝る。

 ひそかに決めた寝る体勢である。こうすれば、コカトリスが寝返りを打っても大丈夫だ。

 ウッドの体は大きくて頑丈だしな。


 ステラでもいいかもだが、コカトリスが乗り越えてくる可能性がある……。

 そうなるとウッドが適任なのだ。


 そうしてウッドを挟んで俺達も綿に寝転がる。ララトマはウッドの隣だ。

 ……これについては、あえてノーコメントである。

 あまり出しゃばらないほうがいいのだ。


「失礼しますです……!」

「ウゴ、どうぞどうぞ」


 遠く、かすかに潮騒が聞こえる。

 それが非常に心地よい。


 間もなく、俺の意識はストンと落ちるのであった。

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