395.港の宿舎

 思い出した。

 確かスティーブンって……ステラの別名というか、間違って記録された名前じゃなかったっけ?


 ステラは自己紹介を簡単に済ませるからな。

 一番はじめのときも『見ての通りエルフです』と言っていた。


 ステラは基本的に自分の評判や功績に頓着しない。

 むしろそーいうところで主張するのは恥ずかしいと思うらしい。


「じぃ……」


 着ぐるみの中から視線を送ると、ステラはぎくりとした。意図は伝わったらしい。


「……スティーブンは伝説の英雄というわけだな」

「そうです。リヴァイアサンを撃退した……他にも水中で何時間も呼吸できたとか、水の上を歩いたなどの伝説もあります。いささか誇張もあるのでしょうが……」


 クロウズがこちらに向き直る。


「今でもリヴァイアサン討伐は難事業です。追い払うのにも苦労します。個人で討ったり追い払ったとなれば、まさに誉れそのもの。そちらのステラ様も西の方では活躍されたとか」

「……そ、そうですね」

「ステラのリヴァイアサンを討つ劇は、もう少し西の国が始まりだからな」


 ステラがにこりと微笑む。

 これは『その劇は存じてません』という顔だな。


 クロウズがにこやかに切り込んでくる。


「これまでリヴァイアサンを何体ほど倒したり、追い払ったりされたので?」

「え〜と、海岸に沿って移動して……多分、追い払ったのも含めると、100くらい……」


 ステラが指折り数えながら答える。


「まじぴよ?」

「カウントがおろそかになるレベルなんだぞ」


 この答えに、クロウズは少し目を細める。

 信じてない……か。


「なるほど。それは頼もしい限りですね。さて、ここからは市街地ではなく貴族達の居住区になります。ここはさらに古い区画で――」


 クロウズは一旦流すことに決めたようだ。

 解説はその後も宿舎に着くまで続くのであった。


 ◇


 宿舎は思ったよりも豪華だった。

 まぁ、この世界の騎士は貴族出身者が多いし、魔法の使い手でもある。

 その辺りはやはり優遇を感じるな。


 四階の大部屋からは海が見える。ここはかなり海に近いのだ。


 用意されたのは十数人用の大部屋。下級騎士用の相部屋である。


 ひとしきりディアとコカトリス達が騒ぐ。

 やはり海が見えるといいものだな。


「いいぴよねー。綺麗なお水がたっぷりぴよよ!」

「眺めはばっちりだぞ」

「ぴよっ!」(海が見える!)

「ぴよよ……ぴよ!」(潮風の香りも感じる……いえい!)


 コカトリスがいえい! と羽を立てていた。

 つられてディアも羽を立てる。

 かわいい。


「気に入っているようです!」


 ララトマもご満悦のようだな。


「この子達とは一緒に居たいですからね……」

「ああ、別々なのはマズいかもだし」

「そうかもなぁ……。ぴよぴよしてるしな」


 ルイーゼが頷く。まさにコカトリスはぴよぴよしてる。


 ちなみにナナとレイアとジェシカは別部屋である。

 俺達家族、ララトマ、コカトリスが同じ部屋なのだ。


「これから少ししたら親睦を深めるための宴会だからな。天候が良ければ明日から討伐開始だ」

「……まだ夕方ぴよ」


 ディアが窓を見る。

 そこからは海が一望できた。

 茜色に綺麗に染まった海がある。


「海の人達は早寝早起きですからね。お日様と共に活動するのです」

「なるぴよ! 覚えたぴよ!」

「ウゴ……でもどうして?」

「光がなくなるから、見えなくなるからな。夜の海は思ったよりも暗い」

「そーそー。浅瀬や岩場もわかんなくなる。危ないんだよ」

「ウゴウゴ、なるほどー!」


 よしよし。

 ディアとウッドの教育にもなっているようだな。


 この後の宴会は、討伐に関わる代表者達の集まりだ。

 ……今のうちに少し着ぐるみを脱いでおくか。

 宴会ではまたエルちゃんにならないとだし……。

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