386.ぴよ出陣

 それからまた数日が経過した。

 今日はいよいよ、リヴァイアサン討伐へ出発する日だな。


「忘れ物はないか?」

「はい、大丈夫です……!」


 俺はすでに着ぐるみスーツを身につけている。

 ディアとマルコシアスはステラへセット済みだ。


 朝日はきらきらと眩しく窓から差し込んでいる。

 絶好の飛行日和と言えそうだ。


「ウゴ、緊張するね……!」

「……そうだな」


 半年振りに村の外へ出る。

 前世の記憶が戻ってからは初めてだ。

 ぶるっと武者震いする。


「広場にはルイーゼがもう来てるぴよ?」

「そのはずなんだぞ」


 ステラはマルコシアス便、俺とウッドはルイーゼ便で向かう。他にマルコシアス便で運ぶのはララトマだな。

 それ以外はルイーゼの風魔法になる。


 家の鍵をしっかり閉め、金庫は俺の植物魔法で床下へ埋めておく。


「よし、行こうか……!」


 広場へ歩いていくと、すでにルイーゼがふよふよとあぐらをかいて浮いていた。

 他に見送りの人もけっこう集まっている。


 ルイーゼは相変わらず貴族らしからぬ振る舞いだが、男装と合わせると妙に格好良い。

 これが逆に貴族らしいファッションの個性になるんだろうか。


 ナナとジェシカ、レイア……それにコカトリス二体とララトマも集まっている。

 これで全員だな。


「よう、集まったかな」

「世話になる」

「なかなか個性的なメンバーだけど、どう受け止められるかはそっち次第だからな。それだけは念を押しとくぞ」

「わかっている。こちらもこれだけの人を出すんだ、失敗するつもりはない」

「ウチとナーガシュ家は仲悪いけど、船に乗れば行き着くまで手を取り合うしかねぇ。期待してるよ」


 えっ、ライガー家とナーガシュ家って仲悪いの?

 初めて知った。

 誰もそんなこと言わないし……。


 すすっとナナの隣に移動、ひそひそとナナに話しかける。


「……ライガー家とナーガシュ家の間柄ってそうなのか?」

「ナーガシュ家と仲の良い五大貴族はないよ。王家ともあんまりのはずだし」


 あっさりナナに返される。

 さすが蛇の家系。好かれてないらしい。

 もうしょうがないが。


「でも国外は強いよ。北の公国、東の王国もそうだしね」

「……なるほど。ありがとう」


 確かにそれはあるかも。

 まぁ、心にとめておこう。


「んじゃ、忘れ物はないよな? さっさと向かうぜ」

「わかった」

「あたしの最高速なら今日中に着く。ナナのほうもそれでいいよな?」

「問題ないよ。それほどタイムラグはないはずさ」


 というわけでついに出発だ。


「……それで本当に空飛べるのか?」


 ルイーゼがマルコシアス便を見て呟く。

 いつものステラに背負われたナナ、胸元のディアとマルコシアス、さらにステラに抱えられたララトマ。


「緊張しますです……!」

「大丈夫だよ。慣れるとエキサイティングだから」

「風に……なるぴよ!」

「なんだか不安です!?」


 ウッドがララトマに近寄り、ぽんぽんと撫でて離れる。


「ウゴ、ディアも大丈夫だったんだ。きっと母さんなら大丈夫」

「ウッド……!」


 ステラがうるっとしている。

 実際、この組み合わせはステラ頼みだしな。


「いってらー」


 人混みの中でテテトカは手を振る。


「行ってきますです!」

「では、お先に!」


 ステラはぐっと腰を落として、踏み込む。

 そのまま大ジャンプする。


 そして――飛び上がった頂点で赤い光に包まれた。


 ばびゅーん!!


 もうお馴染みだ。

 ステラ達は南の空へと飛んで行った。


「おおう、思ったより速えな……」

「ぴよ!」(うちらもれっつごー!)

「ぴよよ!」(いざ、たぷを減らす旅へ!)


 コカトリスも気合十分だな。


「空、風……覚悟はできてますわ!」

「私も楽しみです!」


 ジェシカとレイアも準備万端だ。

 ……二人ともコカトリス帽子をしっかり被っている。あご紐はしっかりしているようだな。

 簡単には飛ばされなさそう。


 まぁ、きっとナナが予備の帽子を持っているんだとは思うが……。


「よーし、それじゃこっちに集まってくれ」

「ウゴ、わかった!」


 ルイーゼが手招きするのに合わせて、密集する。


 そこで俺はふと気が付いた。


 コカトリス二体、コカトリス帽子二人、着ぐるみ一人……!


 それが集まるともふもふ度の急上昇を感じる。

 ぴよ率、高過ぎ……!?

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