387.ザンザスの空より

「はぁ……ぴよちゃん……」


 レイアは案の定、ほわほわした顔になっている。


 ルイーゼは目を閉じて集中しているな。

 聞いてない。


「……うっし!」


 ルイーゼが手をばっと上げると、翡翠色の風が巻き起こって俺達を包み込む。


 ふむ、この発動の仕方は【南風のクローク】か。

 移動用じゃなくて防御用の魔法だが、念の為に発動させているんだな。


「もうちょっと集まってくれ。もっとみっちり! そのほうが効率がいい」

「ウゴ、わかった!」


 ウッドは素直に腕を広げて俺達をまとめる。


「ああっ、ふかふかですわ……!」


 ジェシカがコカトリスの胸の中に半分埋まった。


「ぴよ!」(ばっちこーい!)

「ぴよよ〜!」(みっちみちだー!)


 俺もコカトリスの体にむぎゅっと押し込まれた。

 レイアはちょうどコカトリスに挟まれてるな。

 濃密なぴよである。


「あたしは魔法に集中するからな。横と後ろは見えないし、見張りは任せたぞ」

「わ、わかった」

「ウゴ、頑張る!」


 そう答えた瞬間、魔力が爆ぜる。

 感覚としては……乗り物が発進したみたいだ。


 風は感じない、ただ体が前に押し出される。

 一気に大空へ飛び出していく。


「おっ、おお……!」


 なるほど、こんな感じになるのか。

 防御用の魔法が展開してるから風圧を受けない。

 もちろん揺れもない。


 体だけが高速で運ばれるのか。

 確かにこれだと、いくらでもスピードを出せる。


 ……この高さは建物十階分、三十メートルくらいか?

 大樹の家もその他の木も遥かに見下ろす高さだ。


「ぴよよー!」(すごーい!)

「ぴよっぴ……!」(飛んでる……!)


 コカトリスも感激してるな。

 冒険者ギルドを超えて、あっという間に家のあるところを過ぎ去っていく。


「……すごいな!」


 そのままザンザスへの道の上空を飛んでいく。

 ぽつりぽつりと建っている大樹の塔が小さく見えるな。


 どんどん俺達は進んで行き――。


「ウゴ、とうさん! もうすぐ外だよ!」

「そのはずです!」


 レイアはよくこの道を通っているはずだ。


「村の外か……!」


 どこが変わる、ということはない。

 看板があるわけでもなく、目に見える境界線があるわけでもない。


 だけど確かに記憶を取り戻して以来、初めて村の外へと俺は出たのだ。


 感慨深いな。


 村作りを始めてから半年強。

 頼れる人達に留守を任せて、俺は村の外へ出かけるわけだ。


 そのまま草原の道を進んでいくと、道の側にぽつぽつと何かが建っている。


「ウゴ、かあさんの像だ……!」

「あれがそうか……」


 あの像があるということは、ザンザスも近いはずだ。


「もう少し上に上がるぞ。ザンザスには高い建物もあるからな!」


 ルイーゼが言うや、高度がさらに上昇する。


「高いですわ……!」

「ウゴ、大丈夫?」

「透明な海の上にいると思えば、大丈夫ですわー!」


 なるほど、面白い考え方だ。


 俺達は今……多分、ビルだと二十か三十階くらいの高さかな。

 いわゆる高層ビルから下を眺めている感じだ。


「おお、人が……馬車がたくさんだな」


 視線の先にはすでにザンザスの街並みが迫ってきていた。


 建物は二階、三階も多い。

 屋根は色鮮やかで、通りも賑わっているのがよくわかる。


 どんな人がいるかまではよく……いや、所々黄色い砂粒みたいのが動いているな。

 あれはコカトリスの着ぐるみだろうか。


 色彩豊かな街並みは、どことなく地中海のヴェネツィアを彷彿とさせる。


「さすがに大きい街だな……」

「自慢の街です!」


 レイアが言い切る。

 確かに誇らしくなるのもわかる。

 この世界にあっては、とても大きな街だろう。


 そのままザンザスの街並みを飛んでいると――眼下には城壁に囲まれた、古い門が見える。


 あれがザンザスのダンジョンの入口か。

 まさにちょっとした観光だな。

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