379.どや!

 討伐は一週間後に出発と決まった。

 このくらいの人数なら、ばびゅーんとルイーゼの魔法で運べるらしい。


「大船団とウチの戦闘員、それで一気に片付ける」


 短期決戦を目標とし、長くても一週間程度で決着を付けたいそうだ。

 それについては俺もありがたい。

 村を長く空けるわけにはいかないからな。


「じゃあ、また迎えに来るからな!」

「よろしく頼む」

「お願いいたします……!」


 話し合いが終わり、ルイーゼを出口まで送る。


「それにしてもコカトリスか……。本当に大丈夫なんだよな?」

「気のいい連中だよ。ふわふわしてる」

「発言がふわふわしてんだけど……」


 やはりルイーゼはそこを心配しているようだな。

 前の騎士が来たときを思えば、不思議ではないが。


 騎士や貴族の中には、ごくまれに魔物を飼育している人もいる。

 もっとも、戦力目的なのはほとんどない。

 極めて高価だし、興奮して理性を失うと危険だからだ。


 ……ふむ。

 事前にコカトリスと顔合わせくらいはしておいたほうがいいか?


「帰る前にコカトリスを一目見ていくか? 宿舎で寝ているか、農作業していると思うが」


 と、冒険者ギルドを出たところ。


「ぴよ」

「ぴよよ」


 コカトリスが二体出待ちしていた。

 毛づくろいをしている……。


「ぴよよー」(いい毛並みしてますねー)

「ぴっぴよ!」(あっ、きたっ!)


 ルイーゼがのけぞって驚く。


「うおっ、なんだ!?」

「ぴよっ!」(挨拶にきましたっ!)

「ぴよ!」(出待ちなのです!)


 すちゃっと敬礼するコカトリス。


「おそらく挨拶に来たんだな」

「ええ、この感じはそんな感じです」

「そ、そうなのか……?」


 ルイーゼは体を引きながらも、後ずさりまではしていない。


「びっくりしたぜ。待ち伏せとはやるじゃねーか」

「向こうも顔を見ようと来ただけだよ」

「でも本当にぽよぽよしてんな。リヴァイアサンと戦えるのか、コレ……?」

「ぴよちゃんはけっこう動けますよ」


 本当かー? みたいな目をするルイーゼ。

 考えていることがわかりやすい。


「……これ見てみ」


 ナナがお腹をごそごそして何か棒を取り出した。

 文鎮みたいな形と大きさだな。銀色でわずかに魔力を感じる。


「ミスリルか?」

「ぽいっな」

「ミスリルの棒だよ。鉄と混ぜてあるけど……。これを折るように言ってくれる?」

「わかりました……!」


 ステラが頷いてコカトリスへと通訳する。

 コカトリスのパワーなら問題なく出来そうな、インパクトあるデモンストレーションだな。


「ぴよ」(これを折るんだって)

「ぴよよ」(体力測定とは参ったぜ)


 一体のコカトリスがミスリルの棒を羽でつまむ。

 そして、ひょいと空中に放り投げた。


 えっ。

 投げた……!?


「ぴよよー!」(一刀両断!)


 もう一体がジャンプして、その棒を空中で真っ二つにする。

 もふもふの羽で。


 ええっ!?


 さらに落ちてきた棒を、投げたコカトリスが一閃した。


「ぴよぴよー!」(二刀両断ー!)


 羽をバタつかせると、これまた棒が真っ二つになる。

 あわせて四つの棒が地面にカラン、と落ちた。


「…………」


 皆、押し黙ってしまった。

 ステラも目が点になってる。


 ここまでやるとは思ってなかったな。


「ぴよ!」(どや!)

「ぴよよー!」(だいせーこー!)


コカトリスは満足そうにしていた。


「……とまぁ、こんな感じだ。足手まといにはならないぞ」


 なるべく冷静に俺は言う。

 ルイーゼも気を取り直したのか、うんうんと頷いた。


「……わかった。大丈夫そうだな……うん」


 ちょっと引いてるみたいだけど、これはこれでいいか。

 力を見せれば、相応の扱いにもなるだろうし。


 ……このときの俺は知らなかった。

 後々、この二体のコカトリスが銅像になるということを。

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