369.証

 俺の答えに満足したのか、ルイーゼが安堵の声を漏らす。


「ふぅ、良かった。それがまず大前提だからな」

「利害は一致しているからな」

「詳細はまたの機会に詰めるぜ。とりあえず今日は話を受けるかどうか、それを確認しに来ただけだし」


 ルイーゼはトマトジュースを飲み干してコップを置くと、さっと立ち上がる。


「わかった。討伐隊の人選はこちらで決めていいか?」

「そーしてくれていい。任せる。あっ、でも一つだけ……」


 ルイーゼがステラのほうを見る。


「ナナ、答えてくれ。あたしとステラどっちが強いんだ?」

「……僕に聞くの?」

「あんたの強さはよーくわかってるよ。同年代で敵無しだったんだぜ。今も実戦経験を重ねたあんたには、あたしは勝てないだろうし」

「殊勝だね……」


 ナナはちゅるちゅるとトマトジュースを飲み、一息つく。

 ……どう答えるつもりだろうか。


 それによってはまた決闘騒ぎになりかねないが。


「僕より遥かに強いよ、ステラは」

「信じらんねーな。貴族院で魔王ナナとまで呼ばれたあんたが……あだっ!」


 俺は見逃さなかった。

 ナナの着ぐるみ脚がちょっと動いて、ぐりぐりしているのを。

 多分ルイーゼの足の甲を踏んでいるんだ。


「ちょっ、痛いんだけど!?」

「そのあだ名は禁止だって言ったよね」

「いいじゃねーか、あたしはそんだけナナを評価してんだよ」


 ちょっと涙目のルイーゼが、ナナへと食い下がる。


「やっぱり納得いかねぇ! 証を見せろ! さもなくば、あたしと戦え!」

「むぅ……」


 なんだか怪しい雲行きだ。

 ステラは素知らぬ顔をしているが。


「証、ね……。はぁ、わかったよ」


 ナナがごそごそとお腹を探り、虹色の鞭を取り出す。

 あれはステラから聞いたことがあるな。

 ナナの戦闘用魔法具だったか。


「げっ、それは……」


 ルイーゼがあからさまにぎょっとしている。

 何かトラウマがあったのかな?


「悪いんだけど、ステラ。これをちょっと受け止めてくれる?」

「それくらいなら……」


 ステラはカップを置いて、右手を顔の横に出す。

 ルイーゼはなんだか慌てていた。


「お、おい。それはちょっと……」

「証が見たいんでしょ?」

「そりゃそうだけど……」

「ヤバい代物なのか?」

「ドラゴンもぶっ殺せる武器だよ。あたしは二度と戦いたくない……」

「……なんだか経験があるようだな」


 思い出したのか、ルイーゼがぶるっと震える。

 どうやら痛い目を見たことがあるらしい。


「さぁ、いつでもどうぞ」


 ステラがそう言った瞬間、ナナの腕がしなった。

 七色の鞭が飛ぶ。


 あっ――。


 俺が呆気に取られた瞬間、ステラはすでに動いていた。


 バシンッ!!


 音が鳴った後には、ステラの人差し指と中指の間に鞭が挟まっている。


 鞭はピリピリと魔力を発して、万華鏡のように極彩色を輝かせていた。


 ナナはふふんと予期していたように魔力を打ち切り、鞭を引っ込める。


「これで満足?」

「……マジか……今のを……」


 ルイーゼがあんぐりと口を開けている。


「……大丈夫か、ステラ?」

「はい、ちゃんと手加減してくれましたので」


 どの辺がそうなのか、よくわからんが。

 しかしかすり傷一つないのは確かなようだ。


 ルイーゼは観念したように両手を上げる。


「わかったよ、納得だ……。どーやら伝説のとおり、とんでもない怪物のようだな」

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