350.ある日のデート

 ステラ達が戻ってからそれなりに忙しく、とても楽しく日々は過ぎていく。


 ちなみに今日はステラと二人でお出かけなのだ。

 ゆったりと地下広場を二人で歩いている。


 ……最近のステラはそうだな、甘え方に遠慮がなくなってきている気がする。


 膝枕がお気に入りというか……あとは寝るときに俺を抱き枕にすることか。考えてみるとけっこうスキンシップしてることになる。


 人前では決して、ひっついてきたりはしないのだが。


「こうするのも、久し振りかもしれませんね」

「そうだな……。色々と仕事があったりしたし。でも……うん、こういう時間は必要だから」

「そうですね……! はい、わたしもそう思います」


 子ども達は今、家でのんびり本を読んでいる。


 なので二人でお出かけなのだ。

 こういう時間もあったほうがいいと思うし。


「ほぅ……ここはやっぱり凄いですね」


 地下広場の天井を見上げながらステラが呟く。

 星を散りばめたような光る苔が、俺達を照らしている。


「色々なところを見てきたステラにとってもそうなのか」

「ええ……とっても神秘的です」


 地下広場に人の姿はない。

 俺達は坂にあるベンチに腰掛けた。


 と、ステラが自分の膝をぽんぽんと叩く。


「……ステラ?」

「いつもはしてもらってばかりですからね。たまにはエルト様を膝枕したいなぁって」


 うっ……はっきり言う。

 そう言われると断れない。でも嬉しい気持ちもある。恥ずかしい気持ちもあるが。


「わかった……」

「はい、どうぞです」


 にこっと微笑むステラに応じて、その膝を枕にする。ベンチの片側、俺の頭は中央近くになった。


 ……柔らかくて、お日様のいい匂い。

 でもそういうことはあんまり考えないようにする。


「んふふー」


 俺の髪に感触がある。ステラの指だ。

 撫でているんだな。


「ぴよっぴよ」(るんるんー)

「ぴよよー」(らんらんー)


 ……ん?


「コカトリス達が遊びに来たみたいですね」

「お、おう……」


 起き上がろうとするが、絶妙にステラの指に力が入っている。起き上がれない。


 もっふもっふなコカトリスが二体、視界に入ってきた。コカトリスは俺の頭の先を羽で指し示す。


 そこはベンチの半分側。

 空いているところだった。


「ぴっぴよー?」(ここ、いいですかー?)

「いいですよ、どうぞどうぞ」

「ぴよよー!」(ありがとー!)


 えっ?!

 なんか、俺の頭越し(文字通り)に何か決まった気がする。


「あ、あの……ステラ?」

「大丈夫です、ぴよちゃん達もベンチを使いたいだけですから」

「そ、そうか……」


 もこ、もここ。


 コカトリスがベンチに座った。

 俺の頭のてっぺんに、ふわもっこが触れていた。ベンチはミチミチ、横いっぱいに使っている。


 ……なんだろう。コカトリスの視線を感じる。


「ぴよ、ぴよよー」(それ、いいなー)

「ぴよー?」(やってみるー?)

「ぴよっ!」(やってみるぅ!)


 と、コカトリスの一体が体勢を変えたのか、視界から消えた。


 ちらっと見るとコカトリスの一体が膝枕の体勢に移行している。ふわ……もこっとコカトリスの頭が俺の頭に、完全に接触していた。


 こ、こんな膝枕があるのか?

 頭同士が接触するなんて……。


 でもコカトリスの羽毛は抗い難い。

 普段、ディアと触れ合うが……頭の上に乗せたりはしないからな。


「ぴよー」(いいねー)

「ぴよよー」(グッドだねー)


 もぞもぞとコカトリスが動くたび、コカトリスの羽毛も揺れる。


 ふわふわ……もこもこ……。


 そして俺の耳の周りをステラが撫でてくる。


 正直、心地よい。

 というか眠くなってくるくらいだ。

 ちょうど天井も星空のようだし。


「……ステラ、あの……」

「いいですよ? 少しの間、眠られても。わたしも気持ちいいですし……」


 隣にコカトリスがいるメリットは、ステラも受け取っているらしい。


「んふふ……。ある意味、わたし達らしい。そう思いませんか?」

「……そうだな」


 ちょっとして、俺の意識は眠りに落ちた。


 こんな日があっても、たまにはいいんだろうな。

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